【メープルシュガー】福間健二 #k2fact152

福間健二 @acasaazul

どうぞ人間さま、助けてください。何になるつもりだったろう。そう呟いた。足音がバタバタと去り、あかなくなっていたドアがひとつ、ふたつとあいて、風にやわらかい頬を感じる夜だ。期限切れのなにかのように倒れて目をつむる。親知らず、もう痛くない。（メープルシュガー１）#k2fact152

福間健二 @acasaazul

頬に風ではなく、風に頬を感じた。ベージュにグレーを重ねて淡い影を作り、まだ人間なのだろう。お母さんをやり、お父さんをやり、ひとりのときは悪魔の「作者」に無線でお願いをしている。このニューバランスに小さないのちを踏みつぶさせないでください。（メープルシュガー２）#k2fact152

福間健二 @acasaazul

どうしますか。涙から笑いへ。笑いから涙へ。二つの線のあいだでいつまでも幼年期を生きる「作者」の希望。月明かりか、なければ懐中電灯が欲しい。紫がかったピンクの唇の、侵略的少女がやってくる。誘導のシステム。ありがとう、蒸気地獄から脱出できる。（メープルシュガー３）#k2fact152

福間健二 @acasaazul

「とうとつな率直さ」。アスファルトを突き破って成長する草たちは、どうぞ人間さま、とは言わない。大きな町。小さな町。やり方と硬さはちがっても隠されてしまうことに変わりはない「無言の層」に踏み込むには、まず地面の偶然と「いいこと」をするのだ。（メープルシュガー４）#k2fact152

福間健二 @acasaazul

眠っていた十五年。寝言を言ったのかな。目覚めると闇の駅で始発電車を待っていた。いつしかニューバランスを履いて地面の黒い虫を踏み、塀の上から落ちる卵をオムレツにするほどになった。もう怖くない。役に立つときが来た。息、この死体に吹き込むよ。（メープルシュガー５）#k2fact152

福間健二 @acasaazul

生きかえって見る昼の空。何もないと思う。そんなことないよと、ここがいつもきまって双子が出てくるところ。帰属なし。区別がつかなくなる。地面と植物がしっかり演技している。あなたへの抗議。それがこの世界と自分への抗議にもなる。そういう演技だ。（メープルシュガー６）#k2fact152

福間健二 @acasaazul

マーケットのあった場所。印刷工場のあった場所。気温は下がったが、湿度が高い。双子は事実を歩く。よかった。きびしいおばあちゃんに育てられ、いつも癖のある字を書く敵に待ち伏せされて。生まれかわるときはひとり。この汗には、よい意志が溶けている。（メープルシュガー７）#k2fact152

福間健二 @acasaazul

双子はゆっくりと歩く。駅だった場所。学校だった場所。住宅街だった場所。いまは何もない。そんなことないよと、空よりも何十倍も豊かな地面と植物の表情を読む。恋しいか。私を捕まえてくれとも私に欲情してくれとも言わない無数の「私」がここにいる。（メープルシュガー８）#k2fact152

福間健二 @acasaazul

土の秘密。石の秘密。どちらの上にも座らない。いつになったらメープルシュガーまぶしたトースト食べられるのか。それはまだでも、ひとつの決断でドアがいくつもあく世界。そして二人は犯人と探偵じゃない。未来は迎えに来てくれないが、ここでお別れだ。（メープルシュガー９）#k2fact152

福間健二 @acasaazul

決断をした日。世界には機械になっていいところとそうじゃないところがある。そうじゃないほうのニューヨークからの贈り物、メープルシュガー。大事に少しずつ。何になるだろう。木かげで死んだように寝る「私」。おまえになってもいいけど、起きなさい。（メープルシュガー10）#k2fact152