【Dの最後の作品】福間健二 #k2fact153

書きだしたとき、チャールズ・ディケンズの、未完に終わった最後の小説『エドウィン・ドルードの謎』(小池滋訳)を読んでいた。小池滋さんは、私の「恩師」というほどの関係ではないが、人間からも著書からもたくさんのことを教えてもらった。私がディケンズを好きなのは、ディケンズを愛好する小池さんに接したことが大きい。最後の作品。映画『秋の理由』のラストで佐野和宏演じる作家村岡が「書くよ、最後の作品」と言うのである。そこまで歩いてみようと思った。 音楽は、懐かしくかわいく日本人で、これだけやってくれると、ちょっとうれしくなったONE OK ROCK の「Last Dance」。 https://www.youtube.com/watch?v=6j4vxu8dnp4
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福間健二 @acasaazul

ぼくは、甘口の天国の、シトシト雨に濡れる九月の穂先に飽きた。だれの声が隠されているとしても、閉じられた夏の「不死」をもったいぶって語るだけではないか。ゴホンと咳をして、お別れだ。檻のなかで死んでいく生きものの目を恐れないその細長さとは。(Dの最後の作品1)#k2fact153

2016-09-23 08:15:25
福間健二 @acasaazul

灰色の街。だれのする、だれのための仕事でもいい。その霧に目と手をはたらかせて知ること。たとえば「不死」よりも節くれだった問いかけに降伏したい婚約者たちはケンカばかり。ちょっとふざけて絵を描く。欠点ではなく、不運。色彩の力を意識しすぎている。(Dの最後の作品2)#k2fact153

2016-09-24 09:13:47
福間健二 @acasaazul

角を曲がる。何をするためにそうしたのかを思い出せない。このさびしさ、足跡を明日来る双子の兄妹に取り消されるさびしさだ。ぼくは、これを培養したチープな地獄の青を持っている。行きずりの人よ、あなたに彫りはしない。シールの上からこするだけだ。(Dの最後の作品3)#k2fact153

2016-09-25 08:57:37
福間健二 @acasaazul

角を曲がる。何度でも。おなじ本をおなじ読者に何度も売るように。つまりぼくは全身これ傷あとの予感的言いがかり。風がつよくなって雲が光る。みなさんのお父さんやお母さんからなにか頼まれたというわけではない兄のことをおなじ性格の青い妹が心配する。(Dの最後の作品4)#k2fact153

2016-09-26 11:59:16
福間健二 @acasaazul

兄が言う。心配するな。ディケンズ、ドストエフスキー、ダザイ、ドゥルーズ、ディラン。五人のDのリメイクをしていくだけで百歳まで仕事ができる。バスに乗った妹は思う。どの世の話かな。天国でも地獄でもない旭通りはお祭りで混んでいてわたしは遅刻する。(Dの最後の作品5)#k2fact153

2016-09-27 08:45:34
福間健二 @acasaazul

機械、機械、機械、大迷路のこの世。いやだと思うもの、あげていったらきりがないけど、両面テープ。するはずになっていることをするだけでも汗が出るけど、つばさを使って、水曜日のお昼、何を食べるか。旭通りの金水園も谷保の清水ベーカリーもやっている。(Dの最後の作品6)#k2fact153

2016-09-28 14:50:20
福間健二 @acasaazul

傘をなくした。たぶん二回か三回転んだ。それだけだとしたいマスクを取って、きょうは反省の日なのにコーヒーをごちそうになり、緑茶もいれてもらった。疲れていても疲れたとはけっして言わない人たちとともに。太陽の下でも、星の下でも、解けない謎となる。(Dの最後の作品7)#k2fact153

2016-09-29 19:15:10
福間健二 @acasaazul

その人たちのために、ではなく、その人たちのことを思って迂回する。公園、ベンチで眠る小さな影、石段、血のあと、錆びている部品。事実からの、かすかな振動で、一ミリでも二ミリでも、あたえる心を発芽させる。呼びかけない。黙って降りていって並ぶのだ。(Dの最後の作品8)#k2fact153

2016-09-30 12:15:07
福間健二 @acasaazul

風景は、いじれない。なんとかしたいのは行動に移せない意志。町はずれの、さらにその外。大地の匂いをおびる切り口の、ほっそりした体をすばやく回転させる妹の、ユーモラスな生産と、清水ベーカリーのフィッシュサンド。失踪したぼくにも殺されたぼくにも。(Dの最後の作品9)#k2fact153

2016-10-01 13:36:47
福間健二 @acasaazul

あたえる。言い方はいやでも。あげる。望まれなくても。どこでもいいわけじゃないどこかの、だれでもいいわけじゃないだれかに、なんでもいいわけじゃないなにかを。目と目が話している。書くよ、最後の作品。そうか、でも最後にしなくてもいいだろう。(Dの最後の作品10)#k2fact153

2016-10-02 12:47:18