ヘクトールおじさんとロビンくん。(その2)
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ヘクトールおじさん(41歳)とロビンくん(15歳)、好きすき初恋ロビンくん編。
中高生っていうのは難しい生き物だと思う。オジサンはどうだったかな。随分昔の事だから、忘れちまったよ。ロビンくんは順当な小学校生活を送ってたから、まあそろそろ反抗期が来るかな、オッサンのパンツと俺のパンツ一緒に洗うな!とか言い出すのかなあと思うと、悲しいやら楽しみやらだった。
2016-09-21 20:05:44ところが、だ。ロビンくんの脳内でどんな化学反応が起こったのか、ロビンくんは、オジサンにベッタリになっちまった。ベッタリっていうのも、甘えん坊とかそういうんじゃあなくて、つまるところ、オジサンのことを恋愛対象として見始めちまったんだよね。
2016-09-21 20:15:12えっ!?そうくるの!?オジサン、君の義父だよ!?ちびっこの頃から面倒見てんだよ!?っていうのが正直な感想だ。それにオジサン、死んじまったけど奥さんいたからね!?操を立ててるってほど引きずってるわけじゃあないけど、同じ墓に入りてぇな、くらいには想ってる。
2016-09-21 20:18:07さて、そのことに気づいたのは、ロビンくんが15の年だった。中学の卒業式。オジサンちゃあんと見に行ったよ。校門のところで写真も撮った。めでたいねぇ、じゃあ友達とお祝い行っといで、とお小遣い渡そうとしたら、ロビンくんは首を横に振った。「疲れたから、オッサンと帰るわ」って。
2016-09-21 20:20:45折角の卒業式なのに友達と遊んで帰りなよ、ってオジサン言ったんだけど、「あいつらは行く高校も一緒だし、惜しむようなモンでもないっす」とさらりと言って、「それよりもほら、記念に飯とか連れてってくださいよ。贅沢なのを頼むぜ?」と屈託なく(その時は騙されちまったんだ)笑って見せた。
2016-09-21 20:23:57オジサン舞い上がって、結構良いフレンチに連れて行ってやった。コース料理だぜ?ランチだけどな。その後はロビンくんが服がほしいって言うから、百貨店の服屋に連れてってやった。今にしてみれば、色々試着して「なあ、似合う?これは?」って聞いてくるロビンくん、彼女面してるなぁって思う。
2016-09-21 20:28:41一通り買い物も終わって、さて帰ろうかって時になって、ロビンくんが急に「なあ、疲れない?」って聞いてきた。「どっかで休憩しません?」って、俺の袖をぐいぐい引っ張ってきた。どっか馴染みの喫茶店でも行くのかな、とほいほい着いて行ってみれば、どんどん繁華街の、汚い方に歩いていく。
2016-09-21 20:31:25舞い上がってたオジサン、ちょっと判断力が鈍ってたな。連れて行かれたのは、いわゆるラブホテルってやつだ。ポカーンとしてるオジサンの方を見て、ロビンくんは笑った。いつもの少年らしい明るい笑顔じゃない。男を誘う艶笑だ。さすがのクレバーなオジサンもビジー状態になっちまったよ。
2016-09-21 20:34:07「ぼーっとしてないで、さ」ロビンくんが無理矢理背中を押してくるのを、なんとか振り払って、「礼服と学ランじゃダメだろ!」と言うのが精いっぱいだった。違う。そうじゃない。だけどロビンくんは、あ、そっか。みたいな顔をして、しぶしぶ来た道を戻って行った。
2016-09-21 20:36:45こういう時、どんな顔をすればいいのか、本当にわからなかった。ただ、帰り道もオジサンずっとポカーンとしてて、ロビンくんがいなかったら電車、終点まで行っちまうとこだったよ。
2016-09-21 20:39:18家に帰る頃には、少し頭の整理ができていた。俺の頭の中には二択が存在した。ロビンくんがオジサンをからかって遊んでいるか、あわよくばオジサンとくんずほぐれずしたいか。前者なら簡単だ。ちょっと叱ってやればいい。大人をからかうもんじゃあないぜ、って。でも後者だったら?複雑な問題だ。
2016-09-21 20:41:16ロビンくん、ちょっと話をしようか。晩飯の後、オジサンはロビンくんをリビングに呼び出した。部屋着を着崩したロビンくんは、白い鎖骨をチラ見せしてて、あー、こりゃ後者だな、っていうのを匂わせてきている。小鳥みたいに小首を傾げて、緩やかに微笑んでいるのも、意識してみればコケティッシュだ。
2016-09-21 20:43:54「なんです?」と白々しく聞いてくるロビンくんに、オジサンちょっと怖い顔を作って、「昼のはどういうことだ」と問い詰めた。いつもニコニコしてるオジサンがこんな顔してるからか、ロビンくんはちょっと驚いたみたいだけど、すぐに笑みを作って、「わからないほど、アンタもバカじゃない」と答えた。
2016-09-21 20:47:49やっぱり冗談じゃないんだ、ロビンくんは、オジサンのこと好きなんだ。別に恋する相手が同性だって、オジサン気にしないよ。人を好きになるっていうのは良いことだと思う。寧ろ、ロビンくんイケメンなのに今まで浮いた話なくてちょっと心配してたからね。でも相手が悪すぎる。俺は、君の、義父なんだ。
2016-09-21 20:50:54「そんなの百も承知の上ですよ?」ロビンくんはオジサンの言葉を、たった一言で跳ね返しちまった。「でもそんなこと、どうでもいいんですわ」頭を抱える俺に、ロビンくんは続ける。「なぁ、一回シてみたら、案外イイかもしれませんよ?」ロビンくんは細い指で、そっと俺の頬を撫でてきた。誘う指だ。
2016-09-21 20:57:41どうやら言って聞かせるだけじゃダメみたいだ。絶対的な拒絶を見せなきゃなんねぇ。俺はロビンの手を掴んで床に引き倒した。驚いて固まるロビンに跨り、めくれた部屋着の隙間から覗く、薄い腹を撫であげる。小さな悲鳴が聞こえたけれども、構わずに耳元に顔を近づけた。「覚悟してるんだよなぁ?ガキ」
2016-09-21 21:01:28ロビンくんは、オジサンのことなんて好きになっちゃあいけねぇんだ。義理であっても親と子が一線を越えちゃあいけない。ロビンくんは驚いて見開いた目からぼろぼろと涙を溢している。可哀想だ、けれども、この慕情に決着をつけなきゃな。俺はロビンくんにキスするふりをして、唇を近づける。
2016-09-21 21:04:54「嫌だ!」と、ロビンくんは叫んで俺を突き飛ばした。それでいいんだ。横たわったまま丸くなって、肩を震わせているロビンくんに、俺は話しかける。「あのね、ロビンくん。君はアレだ、思春期特有の、自分よりちょーっとデキる人間への尊敬を、恋愛と勘違いしてる。びっくりさせちゃってごめんね」
2016-09-21 21:10:27「ちが、違う……」ロビンくんは首を横に振って、ゆっくりと起き上がる。「俺、本当にアンタのことが好きなんだ!」オジサン相手じゃなきゃ感動的なんだけどなぁ。「だったらなおさら駄目だ。オジサン、さっきみたいなケダモノになっちまうかもしれないんだぜ?」するとロビンくんはぐっと俯く。
2016-09-21 21:13:02「ま、アレだ。恋は年相応のモンをしてくれや。健全に育ってくれねぇと、君の父さん母さんに祟られちまう」ロビンくんの純情は大事にしてあげたい。でも、どうしても許されないものっていうのが、この世にはあるんだよなぁ。黙りこくってしまったロビンくんの肩を、ぽんと叩いて、俺は寝室に向かった。
2016-09-21 21:17:09布団に横たわって、眠るまでの間、ずっとロビンくんのことを考えていた。初恋?だったのかねぇ。オジサンなんかに。可哀想だけど人間そういうの乗り越えて大人になるモンだ。仕方がなかったんだ。うとうとしかけたところ、部屋の扉が静かに開いた。「なあ、オッサン起きてる?」ロビンくんだ。
2016-09-21 21:20:42オジサン正直眠かったから明日にしてほしかったけど、さっきの話の続きだとしたら聞かなきゃなんねぇから、ゆっくりと起き上がった。「オッサン、さっきは……ごめん」ドアにもたれてロビンくんは小さな声で言った。「いいや、オジサンも怖いことしてごめんねぇ。背中とか打ったところ、大丈夫かい?」
2016-09-21 21:24:56ロビンくんは小さく頷いて、「それよりも俺の心の方が痛いっすわー」と冗談なんて言う。痛々しい冗談だ。笑えねぇ。「初恋?」「ええ」「そりゃあ実らないもんだ。常識だぜ?」なんてぽつりぽつりと交わしていた会話が、ふと止まる。ロビンくんが一歩、こちらに近づく。逆光で見えなかった顔が見える。
2016-09-21 21:27:01