正統派西部劇にあって、マカロニウエスタンには無いもの。

“挽歌”をキーワードに、『スロウ・ウエスト』『ワイルドバンチ』『ウエスタン』に関するメモ書き。
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

正統派西部劇にあって、マカロニウエスタンに無いもの。 それは“フロンティア・スピリット”だと思うが、開拓者精神なんてジョン・フォードを始めとする一部の作品だけで描かれたのであって、ハリウッド製西部劇が全て精神性に富んでいたわけではない。

2016-07-22 16:11:59
蔵臼 金助 @klaus_kinske

では他に何が違うのかと言われると、“挽歌”なのではないかと思っている。 失われたもの、失われつつあるものへの慈しみの混じった視線。

2016-07-22 16:13:53
蔵臼 金助 @klaus_kinske

特にマカロニウエスタン登場以降のハリウッド製西部劇、中でもサム・ペキンパーのウエスタンにおいて、それは顕著だ。

2016-07-22 16:15:06
蔵臼 金助 @klaus_kinske

マカロニウエスタンにおいて、“フロンティア・スピリット”を描いたのは、おそらく『ウエスタン』が唯一だろう。 “挽歌”を描いたのは、同じく『ウエスタン』と『ミスター・ノーボディ』くらいかもしれない。

2016-07-22 16:17:04
蔵臼 金助 @klaus_kinske

ラテンな映画作家達はフェイドアウトしていくものを慈しむ視点より、砕け散る鮮烈さを好んでいたのかもしれない。 それは作り手の年齢も関係している。マカロニウエスタンの演出家達は皆、若かったのだ。

2016-07-22 16:19:52
蔵臼 金助 @klaus_kinske

そんなことを思いつつ、『スロウ・ウエスト』の上映会場を後にしたのだが、このニュージーランド製“キウイ・ウエスタン”はどちらでもなかったぜ。

2016-07-22 16:22:05
蔵臼 金助 @klaus_kinske

“フロンティア・スピリット”なんて精神性よりは、弱肉強食な世界観をリアリズムで描写し、そこで訴えているのは“挽歌”でもない。

2016-07-22 16:23:46
蔵臼 金助 @klaus_kinske

作中で主人公は「賞金稼ぎも数が減った”とは言っているが、彼らに対するペキンパーの様な感傷は一切無い。

2016-07-22 16:25:15
蔵臼 金助 @klaus_kinske

この作品は驚くべきエンディングを迎えるが、そこで描かれるのは、未開の土地での新しい生き方だ。一人の男が、もう一人の男に伝えた、新しい概念だ。

2016-07-22 16:27:09
蔵臼 金助 @klaus_kinske

『スロウ・ウエスト』を見終わって既に一週間が経とうとしているが、まだ私の心の隅ではこの全く新しい西部劇の印象がくすぶり続けている。

2016-07-22 16:29:01
蔵臼 金助 @klaus_kinske

このニュージーランドのロケーションが大変美しい西部劇は、単に景色が綺麗なだけの映画ではない。 中に込められている精神性の美しさが、作品全体を仄かに輝かせているのだ。

2016-07-22 16:31:04
蔵臼 金助 @klaus_kinske

1969年と言えばマカロニウエスタン・ブームも全盛期が過ぎ、それでもなおスクリーンはイタリア人ガンマンがのさばって、映画館を席巻していた年だ。 pic.twitter.com/Iy9Qg4caWM

2016-11-03 15:28:27
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

マカロニウエスタンの影響により、ハリウッド製西部劇も大きく変化した。 価値観の違いで黙殺する者が多かったが、金の動きにめざといハリウッド・メジャーはこぞって資金援助し、“ハリウッド製マカロニウエスタン”も少なからず作られた。

2016-11-03 15:31:05
蔵臼 金助 @klaus_kinske

作風も劇的に変化し、イタリア製西部劇に真似の出来ない大作や、ドラマ重視のもの、ミステリータッチのもの、リアリズムを採り入れたものも登場した。

2016-11-03 15:33:03
蔵臼 金助 @klaus_kinske

そんな中でただ一人、マカロニウエスタンに対して正面から喧嘩を売った男がいる。 それが、1969年作『ワイルドバンチ』を監督した、サム・ペキンパーだ。 pic.twitter.com/meJCUw0dlk

2016-11-03 15:35:10
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

セルジオ・レオーネの“西部劇”としての集大成、『ウエスタン』において、観客が最も衝撃を受けたのは、マクベイン牧場でのアイルランド移民一家皆殺しを行った後の下主人登場シーン。 pic.twitter.com/AkBUBC7bH4

2016-11-03 15:38:00
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

女子供も容赦なく撃ち殺した一味のボスに、カメラがまわり込む。 アップで映し出された酷薄な表情の男こそ、“アメリカの良心”と言われたヘンリー・フォンダだったのである。 pic.twitter.com/dFFOmoxeNE

2016-11-03 15:45:43
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

『ワイルドバンチ』において、サム・ペキンパーはこの観客にショックを与えた同様の手法を再提示する。

2016-11-03 15:50:10
蔵臼 金助 @klaus_kinske

映画冒頭で銀行内を制圧、女子供を含む人質全員に対して、「動く者がいたら皆殺しにしろ」と容赦ない台詞を言うのは、『麗しのサブリナ』『慕情』『ピクニック』でヒロインに甘い言葉を囁いていた、ウィリアム・ホールデンではないか。 pic.twitter.com/zf4yfYv4IA

2016-11-03 15:52:24
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

サム・ペキンパーはこのメキシコで命を散らす決して若くはない無法者たちを描くにあたって、マカロニウエスタンの演出スタイルを徹底的に模倣した。金と時間、そして“西部劇”を産み出したアメリカ人の意地と誇りを賭けて。 pic.twitter.com/tldQ8F3EXl

2016-11-03 15:56:35
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

マシンガンによる殺戮、自動拳銃の使用、背中からでも平気で相手を撃ち、銃撃戦のさなか、女を盾にとる主人公たち。 pic.twitter.com/kZu4ZO1Ttj

2016-11-03 16:00:59
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

これはペキンパーの報復だ。 マカロニウエスタンに踏みにじられた西部劇のリベンジだ。

2016-11-03 16:03:01
蔵臼 金助 @klaus_kinske

スタイルこそマカロニウエスタンを踏襲してはいるが、彼はこの作品にイタリア人映画作家たちが描かなかったもの、“滅びゆく者たちへの郷愁と挽歌”を投入した。 だから単なるアクションに留まらず、今もなお世代を超えてこの作品は語り継がれているではないか。 pic.twitter.com/mXyIhyKA57

2016-11-03 16:07:46
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

前年にイタリア製西部劇に見切りをつけ、ハリウッドの金でイタリア製西部劇としては初めての“フロンティア・スピリット”を『ウエスタン』に盛り込んだセルジオ・レオーネと呼応してるようで、これはこれで興味深い。 『ウエスタン』はマカロニウエスタンとしては唯一の“挽歌”を描いた西部劇だ。 pic.twitter.com/Yyh6m2cRIa

2016-11-03 16:15:45
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