【ミリマスSS】アンナの日記 #2-2(後編)
(ロマヌ湖は最大水深約5m、底には泥が堆積していて、水は濁っている。水中には獰猛な水生モンスターが多数巣食っている。かなり広い湖であり、地質特性上湖底には多量の養分も堆積しており、そこかしこから長い木が生えている。デカレモン水没林の象徴とも言える場所だ)
2016-11-20 22:00:33(「GIL……彼は恐ろしく厄介な人物だ。あの攻撃性と能力。まともにやり合ったらギルドの勝利はない」ギルドマスターは神妙な顔をしている。「だから、彼を一人だけロマヌ湖におびき出す」「おびき出す?」メンドスさんが鼻で笑った。「どうやって?相手はモンスターの大群を連れて来るんだぜ」)
2016-11-20 22:01:04(「まさか、モンスターの大群と追いかけっこしろってんじゃないだろうな。相手もそこまでバカじゃないだろ」「うん、そうだと思う」ギルドマスターはうなずいた。「じゃ、じゃあどうするんですか……?」vivid_rabbitがおずおずと尋ねる。私は口を開いた。「追いかけっこできますよ」)
2016-11-20 22:01:10「何を……」メンドスさんは眉を寄せる。「モンスターの大群と、追いかけっこできるってのか」「はい。私がやります」私は一歩前へ進み出る。「私の、風を操る能力があれば、通常の三倍以上のスピードで移動・飛行できます。それならモンスターにおいつかれることもないはずです」 39
2016-11-20 22:15:16「で、でも、そんなの危ないよ」vivid_rabbitが私の提案を止めようとする。「私はいいの、vivid_rabbit。マスターも、そのつもりだったんですよね」私はギルドマスターを見る。ギルドマスターはゆっくりと頷いた。「うん。その方法しかないと思う。頼まれてくれるかい」 40
2016-11-20 22:18:42「待てよおい、マスター。作戦ってのはまさかそれだけか」メンドスさんが食ってかかる。「いや、それだけじゃない。……lilyknightくんは確かに機動力には優れてるが、GILを引きつけるにはそれだけじゃ足りない」メンドスさんは黙って聞いている。「もう一人、囮になってもらう」 41
2016-11-20 22:24:28「……誰だ。vivid_rabbitか?」「いや……メンドスくん、君にお願いしたい」ギルドマスターは申し訳なさそうに言葉を続ける。「GILを引きつけるには君が適任だ。二人を危険に晒すことになるが、すまない。頼む」ギルドマスターは頭を下げる。「へっ」メンドスさんは鼻を鳴らす。 42
2016-11-20 22:31:28「そう言ってくれて安心したぜ」「申し訳ない二人とも、危険な役回りを押し付けるようで」「大丈夫ですよ」と私。メンドスさんはギルドマスターの肩を叩いた。「ここでその決断が出来ないマスターだったら敵側に寝返ろうかと思ってたところだ」ギルドマスターは苦笑する。「助かるよ」 43
2016-11-20 22:38:51ギルドマスターはちゃんと大局が見えてる。ギルドを勝利に導くためにはGILを排除しなければいけない。そのためにはこの布陣が最適だ。「あ、あの、マスター」vivid_rabbitがおずおずと手を挙げる。「私もlilyknightと一緒に行きたいです」ギルドマスターが顔を上げた。 44
2016-11-20 22:44:45「いや、vivid_rabbitくんにはこっちの陣営にいてもらいたいんだ。GILに戦力を回しすぎると、バランスが崩れる。君は強力な戦力だからね」「で、でも……」「vivid_rabbit」私はvivid_rabbitの頭を撫でる。「私は大丈夫だから」「でも……」 45
2016-11-20 22:50:43地面に座っているライアくんが口を開く。「そんなに心配ならこれ使いなよ」そう言って取り出したのは、クラゲのような物体だ。ぶよぶよとしていて掴みにくい、半透明の物質。内部が水色にちかちかと光っている。「通信クラーゲだ。それを使えば二者間で通信できる……」 46
2016-11-20 23:04:23「へえ、こんなのあるんだ」私は素直に驚く。「あ、ありがとうライアくん」vivid_rabbitは嬉しそうに通信クラーゲを手に取る。「ゆりゴホホッ!……lilyknight、ホントに危険になったら呼んでね。加勢に行くから」「うん。ありがとうねライアくん」「別に……」 47
2016-11-20 23:07:50「じゃあ作戦の段取りを説明しよう」ギルドマスターは、折れていないヒガンヤシの幹を力強く叩いた。「まず、私たちは二つのグループに分かれる。メンドスくんとlilyknightくんの先遣隊、それ以外の本隊、だ。先遣隊がGILをおびき寄せロマヌ湖に向かう」 48
2016-11-20 23:16:01「そして本隊がモンスターを討伐しポイントを稼ぐ。先遣隊の二人も、余裕があればモンスターを倒してくれ。GILのモンスターでもポイントは加算されるだろうし、何より、ロマヌ湖にはモンスターがたくさんいる」「ちょっと質問なんだけど」ライアくんが手を挙げる。「GIL以外の対応は?」 49
2016-11-20 23:24:07「GIL以外の敵に会ったらすぐ逃げる。リスポーン地点や狩場の周りにナリコ・スナード・ネットを張って即座に対処する。なるべく敵陣地には深入りしない」ギルドマスターが拳を強く握り込む。「これはプレイヤーキルマッチじゃないんだ」「敵戦力はどれくらいあるんだ」とメンドスさん。 50
2016-11-20 23:36:45「私が相手ギルドに行ったときにはギルドマスターのMADS、それとGILにしか会わなかった」「偵察班が偵察したのはその三日前」とライアくん。「そのときは他にも何人かいた。あのギルドは、色んなギルドから強いやつを引き抜いて戦力を増強してる。人数は少ないけど少数精鋭」 51
2016-11-20 23:44:52「だいたい六、七人ってところですかね」と私。「そうなるかな。彼らはどうやら、団体で行動するようなタイプじゃない。各々の信念に従って動いている。元々別ギルドの人間の集まりだから当然だ」「そんなギルドのマスター、MADSだっけか、いったいどんなバケモンなんだ」とメンドスさん。 52
2016-11-20 23:50:26「全くの未知数だ。だけど、うちのギルドは20人近くの人がいる。結束すれば負けはしない」ギルドマスターは決意の炎を瞳に燃やす。「この勝負、うちのギルドが絶対に勝つ」「うん」とvivid_rabbit。「当たり前だ」とメンドスさん。「がんばりましょう」と私。ライアくんは無言だ。 53
2016-11-20 23:55:26「よし、じゃあ各自作戦準備に取り掛かってくれ。拠点防衛用罠の作成とナリコ・スナード・ネットの調達だ。他のギルド員には私から伝達しておく。私が合図をしたら先遣隊は出発してくれ」ギルドマスターの言葉を合図に、私たちは散会した。メンドスさんは頭を掻きながら開けた場所へ歩いて行く。 54
2016-11-23 23:20:08vivid_rabbitが私の腕鎧をコツコツと叩いた。「さっきの場所もどろ、lilyknight」「ああ、うん……」私は周りを見回す。ライアくんはいつの間にか消えていた。ギルドマスターもだ。一瞬で目の前からいなくなっていた。「どうしたの?」「……ううん。行こっか」 55
2016-11-23 23:27:30私たちは、ヒガンヤシやウズガエラの葉をかき分け、先程まで罠の作成作業をしていた場所に戻っていく。足元は泥っぽく、気をつけていなければ転んでしまう。「……なんだか、変だと思わなかった?vivid_rabbit」「ヘン?なんの話?」vivid_rabbitは首をかしげた。 56
2016-11-23 23:31:14「うん……」べちゃ。窪みに足が嵌り、泥が飛ぶ。「なんかおかしいと思わない?」「……なんとなくわかる」vivid_rabbitは窪みを飛び越える。「なんだかヘンな感じがする」「そうでしょ」同意を得られて、私はほっとする。「そうでしょそうでしょ」「うん」 57
2016-11-23 23:34:45「だってね、おかしいんだよ。あのGILって人が来たときのことを思い返してみると……」私は思い返す。対抗戦がスタートし、私たちは一直線に拠点に向かった。それからほとんど間を置かずにGILが攻めてきた。「攻めてくるのが早すぎるんだよ」「うん、そう思う」「だよね」 58
2016-11-23 23:38:08「ギルド対抗戦では、互いのギルドはエリアの正反対の位置から行動開始する……」「うん、それなのにGILさんはあんなに早かった。考えられる理由は一つ」私は振り返り、vivid_rabbitを見る。私とvivid_rabbitの口が同時に動く。「「拠点の場所を事前に知っていた」」 59
2016-11-23 23:43:26