#秘封ドーナツ　まとめ

銅折葉＠C99金曜ス44a @domioriha

ポアンカレの予想を解いたのは、ロシアの変わり者の数学者。彼は数学界最大の名誉のフィールズ賞を辞退し、7つのミレニアム懸賞問題の賞金百万ドルも受け取らなかった。 「他に手に入れたものがあるからだそうよ」 「何を見つけたのかしら」 「ドーナツの向こうが見えていたのかも」#秘封ドーナツ

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テーブルの上のリング状のドーナツを翳してみせる。 「そう言えば」 蓮子がまた思いだしたように言った。 「１９世紀中ごろまでは、ドーナツには穴がなかったそうね。揚げた時に火の通りが悪いから、中心部に穴をあけたらしいわ。それ以来、ドーナツには穴が開いているのよ」 #秘封ドーナツ

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「でも、現代の生産設備ではドーナツの生地のほとんどは、はじめから輪っかになるように作られているわ」 「合成品だから？」 「いいえ、ずっと前から。そうしてドーナツは、中心にあったものを失ってしまったのよ」 失われたドーナツの中心。それはどこに行ってしまったのだろうか。#秘封ドーナツ

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穴の向こうと言うのは、要するに境界である。 メリーはドーナツの穴の向こうに、別の世界を見ているのだ。 #秘封ドーナツ

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「じゃあ逆に、ドーナツを食べずにドーナツの穴だけを食べる事はできるのかしら？」 持ち上げた袋は軽い。中身は入っていそうになかった。 「ドーナツの穴ははずかしがり屋なのよ」 「わたしから逃げなくてもいいと思うんだけど」 「メリーは一つ穴の仲間じゃないからねえ」 #秘封ドーナツ

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「それで、結局」 からっぽの紙袋をつついて訪ねる。あの本棚と立てつけの悪い床の間に、ドーナツの穴は吸い込まれてしまったという。 「あなたが買ってきたドーナツの穴って言うのは、どんなものだったの？」 降参と両手を上げ、蓮子に訪ねる。#秘封ドーナツ

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「これよ」 蓮子はおもむろに鞄の中からもうひとつ紙袋を取り出した。 紙袋から取り出したものは、丸い球体状の小さなドーナツ。 蓮子はそれを、テーブルの上、お皿に並んだ丸いドーナツの輪っかの中央に押し込む。 「つまりこれが、ドーナツの穴ってわけ」 ＃秘封ドーナツ

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ああ見よ、かくしてドーナツはその中心を取り戻したのである。 しばしテーブルの上のドーナツ（穴なし）を見下ろし、わたしたちはおもむろにそれを手に取って齧りつく。 「……穴があいてた方が美味しいわね」 「同感ね」 やはり、ドーナツの穴は食べられないもののようだ。 #秘封ドーナツ（完）

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書こうかなと思ってストックだけしていたネタを即興で消化しました。 お付き合いありがとうございます。 もう少しドーナツ関連のあれこれを用意しないと本には分量足りない気がするな。あとオチもちょっと弱い。最後のページにドカッとでかい穴を開けたい。 #秘封ドーナツ