マーメイド・フロム・ブラックウォーター #4

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第二話「キョート殺伐都市」より:「マーメイド・フロム・ブラックウォーター」#4

2011-06-17 09:14:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(これまでのあらすじ:ジャンクヤードでバイク鍛冶屋の兄と暮らすカキオは社会不適合者であったが、電子技術の才能に長けていた。廃棄物漁りを日課とする彼は、川を流れてきた半壊のオイランドロイドを回収する。)

2011-06-17 09:22:00
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(カキオはジャンクパーツでオイランドロイドの欠損部位を補い、マッポの治安維持ロボットのIC基板とインテリジェント・モーターサイクルの電子キーを用いて、ついにその機能を復活させる。オイランドロイドはカキオの呟きを読み取りエトコと名乗った。)

2011-06-17 09:23:52
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(そのオイランドロイドはしかし、いわくつきの個体であったのだ。彼女が重大な汚職の現場に居合わせていたがゆえに、闇のニンジャ集団「ザイバツ・シャドーギルド」と傘下のヤクザクランは血眼になって彼女を捜しており、最終的に、ヤクザが手配したハッカーは居場所をつきとめてしまった。)

2011-06-17 09:30:10
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(そんな事はつゆ知らぬカキオは、オイランドロイド・エトコに連れられ、狼狽えながら安宿繁華街へ繰り出す。絡んできたヨタモノ相手に恐るべき戦闘能力を発揮したオイランドロイド・エトコは優しくカキオを助け起こし、泣きじゃくる彼を近くの退廃ホテルへいざなう……)

2011-06-17 09:34:34
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天井のピンク・ボンボリが退廃的な明かりを投げかけ、シリコン観葉植物の鉢植えの側には「一期一会」のショドー掛け軸が飾られて、円形の回転式ダブル・ベッドの上に並んで腰掛けた二人を扇情する。痩せた男と艶かしい伏し目のオイランドロイドは、しかし、ただそうして数十分、座ったままなのだ。

2011-06-17 09:43:40
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エトコはテレビモニタのリモコンに手を伸ばす。あけすけなマイコ・ポルノ映像が映し出され、カキオが体を震わせると、彼女は奥ゆかしい共感機能を働かせてチャンネルを変えた。シシオドシが水を受ける美しい映像に切り替わり、オコト音楽が流れ出す。

2011-06-17 09:55:59
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低価格帯のオイランドロイドであれば「ドーゾ、シテクダサイ」「チキビ、サワッテネ」などとカキオへねだり、それによって、幼児めいた精神の彼を、さらに怯えさせた事だろう。しかしエトコはただ静かで満ち足りた優しい笑みを浮かべ、カキオの隣に座っているのだった。

2011-06-17 10:06:44
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やがてシシオドシが暗転し、新たなアンビエント映像に切り替わった。星降る宇宙……軌道上から地球を見下ろす視点である。月は太陽光を背に受け、銀色のリングとなって眩しく輝いている。「アア……アア」カキオは笑みを浮かべ、身を乗り出した。「宇宙……」

2011-06-17 10:17:26
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「宇宙がお好きなのですね」エトコが言った。「う、宇宙。キレイ……だから」カキオは照れたように笑った。「機械で……飛んで行く……とてもキレイ、テ……テックのご褒美、人間のテックの進歩に、ブッダがくれるご褒美。星が。星がいっぱい」タイピングめいて指を忙しく動かしながら、饒舌に話す。

2011-06-17 10:38:56
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「キレイですね」エトコは同意した。「あなたの部屋にいっぱいありましたね。ロケットのポスター。私は見ました」「そ、そう」カキオは頷いた。「軌道上……時代は!軌道エレベーター!もうすぐ皆さんをご招待します!」芝居がかって叫び、「……エヘヘ……昔のコマーシャルのビデオ……骨董で、骨董」

2011-06-17 10:46:53
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カキオは頭を掻いた。そう……骨董。輝かしい宇宙時代はもはや過去の一時点で永遠に凍りついた儚い夢に過ぎない。磁気嵐、降り注ぐ重金属。錆と汚濁とネットワーク、サイバネティクス。怪物めいたシステム。それが未来だ。未来とは今である。

2011-06-17 10:55:18
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「機械……だから、ロケットで、宇宙に、いつか宇宙に、いつか……エヘヘ……」カキオは少し寂しげに笑った。現実認識にまったく乏しい彼にとってすら、それはニューロンに刻み込まれた不可能前提であった。エトコはカキオを見た。「では、いつか、いっしょに行きましょう。連れて行ってくださいね」

2011-06-17 11:22:01
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カキオは目を見開いてエトコを見返した。「え……」「いっしょに行きましょうね。私は、あなたと友達です」「友達」「そうです」エトコは優しく言った。何か言葉を探しているようであった。やがて言った。「ユウジョウ」

2011-06-17 11:25:48
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カキオの目に涙が溜まった。「……ユウジョウ」「ユウジョウ」「ユウジョウ」二人は繰り返し言い合った。エトコが右手を差し出した。「握手です」「う……」カキオは泣きながらその手を握り返した。エトコは微笑んだ。「ユウジョウ」「ユウジョウ」「……ユウジョウ」「ユウジョウ」

2011-06-17 11:29:58
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「ア、アイエエエ、アイエエエアバーッ!……」「ザッケンナコラー!」「……」「……!」「……」「ザッケンナコラー!テメエ、加減しろっつったろうがぁ!どうすんだオラー!」「も、申し訳ありません」「今すぐケジメしろ!」「アイエエエ!」「どうすんだ……もうすぐあの人が畜生……時間が……」

2011-06-17 12:17:47
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水溜りを跳ね散らしながら、カキオとエトコはゆっくりと家路を歩いた。そろそろ日が暮れる。カキオは兄にエトコの事を伝えるつもりだった。兄はなんでも助けてくれる。子供の頃から、兄はカキオを守り、育ててくれたのだ。坂を下り、「カーブに気をつける」と書かれた標識を左に曲がる……。

2011-06-17 14:17:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アレ……アレ……?」カキオは標識の上に据え付けられた曇ったミラーを覗き込んだ。ガレージが黒煙を吹き上げている。「アレ……?」カキオは振り向いて、曲がり角の先のガレージを目視した。やはりだ。燃えている。

2011-06-17 14:22:39
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「ア、アレェ……!?」カキオはヒョコヒョコと走り出した。エトコがその後をついて来る。「家……?」燃えている!ガレージが。そしてその前に立つトレンチコートの男。ハンチング帽を目深に被り、脇にはヘルヒキャク社のインテリジェント・モーターサイクル、アイアンオトメ……!

2011-06-17 14:28:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アレェ!?アレェ!?家、家……」カキオは狼狽しながらトレンチコートの男の横を走り抜けようとした。その腕をトレンチコートの男が掴んだ!

2011-06-17 14:41:11
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「……死ぬぞ」トレンチコートの男はカキオを押さえつけた。「オヌシは店主の弟だったな。後追いでもする気か」火の粉と黒煙を吹き上げて炎上するガレージが熱でぼやけて見える。「アイエエエ!アイエエエ!」カキオは身を振り絞って絶叫した。「アイエエエエエ!」

2011-06-17 14:44:57
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「オヌシ、このバイクに何かしたか」もがくカキオにトレンチコートの男は顔を近づける。目深にかぶったハンチングの下はニンジャ頭巾、そして「忍」「殺」とレリーフされた金属のメンポ!厳しい目がカキオを凝視する。コワイ!

2011-06-17 14:48:32