マーメイド・フロム・ブラックウォーター #5

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」地面を蹴ったニンジャスレイヤーを、デスナイトの視線がトレースする。つま先が砂利にめり込み、カタナを構える腕に縄のような筋肉が浮かび上がる。極度の集中によって、周囲の景色、燃えるガレージや汚濁した川は視界から吹き飛び、二者だけが存在する暗黒宇宙が立ち上がる。

2011-06-22 21:49:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

容易な斬撃だ。いわばこれは、イアイ訓練において、頭めがけて投げつけられるスイカを空中で真っ二つにするが如し。ニンジャスレイヤー敗れたり。跳躍を選択したその瞬間、この敵はデスナイトの手中に落ちたのだ!ニューロンが稲妻めいて加速し、まるで泥の中を泳ぐような感覚が襲い来る。

2011-06-22 21:59:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

かくして、このイクサもデスナイトが生き残る。これまで何人の敵を殺してきたことだろう?生き残ることは彼に取って何の喜びももたらさぬ。だが死に損ねた事が落胆となるわけでもない。どうでもよい事なのだ。アヤミ=サンはついに死に、完全な別離が訪れた。それすらも彼はフラットな精神で咀嚼した。

2011-06-22 22:07:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アヤミ=サン」をカイシャクする瞬間、カタナを伝ってきたのは、バイオ筋繊維を切断する感触、生暖かい血の流れ、そして有機ボディにくるまれた光ファイバー……彼がそのサツバツたる生のなかで唯一愛した存在、アヤミ=サンの残骸から、かつて唯一引き出す事のできたパーツ。

2011-06-22 22:12:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

思いがけず攻撃してきたオイランドロイドにポン・パンチを撃ち込み破壊したその瞬間、彼がアヤミ=サンを思い出さなかったとでも?いや、そもそも、あの役立たずのヤクザ達を使って屋形船を襲わせたのは何故か?彼自身が手を汚せば、はじめからこんな面倒は起こらなかったのだ。

2011-06-22 22:16:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

デスナイトは自嘲した。狂気に逃げてなお、臆病な感傷……アヤミ=サンのユーレイから逃れられていない事を、今更のように自覚したからだ。サツバツたる生のなかで唯一愛した、あのオイランドロイド。人間の感情の機微を学習し、まるで人間めいた喜怒哀楽を表現して見せる魔性の人形への愛と怖れ……。

2011-06-22 22:26:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーの跳躍した身体はキリモミ回転しながら傾き、やがて地面と水平になった。そこへデスナイトのカタナ持つ手が伸びる。ニンジャスレイヤーがキリモミ回転する。デスナイトのカタナ持つ手が伸びる。……くだらぬ自問自答をしてしまった。これではまるでソーマト・リコールではないか。

2011-06-22 22:32:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

デスナイトのカタナが、空中で真横になってキリモミ回転するニンジャスレイヤーの身体を捉える……捉えにかかる。「「イヤーッ!」」

2011-06-22 22:36:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガキィィン!カタナがニンジャスレイヤーのチョップを受け、中途で折れた!あさっての方向に刃が吹き飛ぶ!キリモミ回転の勢いを載せたニンジャスレイヤーのチョップは、はじめからデスナイトのカタナの側面を狙っていたのである!「バカなーッ!?」

2011-06-22 22:39:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カタナを破壊するほどの激烈なチョップ衝撃は刀身を伝ってデスナイトの手首に流れこむ。ついさっき、マンリキめいた力で骨が軋むほどに握られた手首に!「グワーッ!」デスナイトはカタナを取り落とす!そして彼の眼前にはキリモミ回転するニンジャスレイヤーの蹴り足があった!「イヤーッ!」

2011-06-22 22:42:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーの足の甲がデスナイトの額を真正面から捉える!「グワァァァーッ!」デスナイトの額、頭蓋骨で最も硬い部位が、いともたやすく粉々に粉砕された!デスナイトは額を押さえる。指の隙間からとめどなく生暖かい血が流れ出す!

2011-06-22 22:46:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アバーッ!」デスナイトは苦悶し、たたらを踏んだ。ナムアミダブツ!血だけではない!流れ出るのはデスナイトの脳漿!すなわち人格!記憶!ニンジャスレイヤーは流麗に着地を決めた。そしてトドメの心臓摘出を行うべく、チョップ突きを構えた。「ハイクを詠め!デスナイト=サン!」「アバーッ!」

2011-06-22 22:52:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その時だ!割って入ったオイランドロイドが、よろめくデスナイトの首筋を掴み、吊り上げたのだ!「アバーッ!グワーッ!」「ごめんなさいねニンジャスレイヤー=サン」オイランドロイドはニンジャスレイヤーを肩越しに振り返り、神秘的に微笑んだ。その背中が火花を散らす。「全部終わらせます」

2011-06-22 22:57:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「この人は一人ではないですね?私の記憶はずっと狙われています。私が私でいる限り。私にはよくわかりません。でも、わかります」オイランドロイドはデスナイトを吊り上げたまま言った。そして、一歩、また一歩と、難義そうに歩き出す。その歩く先には黒煙を噴き炎上を続けるガレージがある。

2011-06-22 22:59:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「嫌だ!嫌だ!アアーッ!」カキオが頭をかきむしり、地面に崩れるように両膝を付いた。エトコはぎこちなく、だが着実に歩く。朦朧となったデスナイトがうわ言を呟く。「アヤミ=サン……アヤミ=サン……アバッ……アバッ……」エトコは答えた。「私はエトコです。最初に決めた名前は変えられません」

2011-06-22 23:04:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「エトコ=サン!エト……エトコ=サン!」カキオが叫んだ。一歩。一歩。エトコは歩みを進める。吹き上がる火の粉が、エトコと、もはやサンズ・リバーを幻視しているであろうデスナイトを赤々と染め上げる。エトコはカキオの声に足を止め、そちらを見やった。

2011-06-22 23:08:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「もう一度言わせてください」エトコは微笑み、「本当にありがとうございます。私はとても嬉しいのだと思います。私はオイランドロイドです、だからよくわかりません。でも、ありがとうございます。あなたに迷惑をかけません」「嫌だ……」「カキオ=サン、また私を作ってね。私は、さようなら」

2011-06-22 23:14:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

戸口から炎が噴出し、既に死んでぐったりとなったデスナイトと、彼を吊り上げたエトコを出迎える。エトコは少しもひるまず、炎の中へ足を踏み入れ、やがて見えなくなった。ニンジャスレイヤーは無言でその様子を見守った。カキオは嗚咽しながら両手で砂利を掴んだ。

2011-06-22 23:20:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴウ!数秒後、ガレージは再度爆発し、より一層の黒煙が噴き上がった。オレンジの光がニンジャスレイヤーとカキオの輪郭を、焼ける石炭めいて照らす。数秒後、さらに再びの爆発!「火の用心!」「火の用心!」消防隊車両の警告音声が近づいてくる。

2011-06-22 23:24:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは地べたに座り込むカキオの脇を通り過ぎる際、一度立ち止まった。そしてカキオを見た。カキオは目に涙を溜め、震えながら、炎上するガレージを見つめている。ナムアミダブツ、彼はこの日、何もかもを失ったのである。何もかもを。

2011-06-22 23:26:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「数分もすれば消防隊とマッポが到着するだろう」ニンジャスレイヤーは言った。カキオは一瞬ニンジャスレイヤーを見上げた。すぐに視線は燃えるガレージに戻った。ニンジャスレイヤーはそのまま彼の横を通り過ぎた。止まったままのアイアンオトメにまたがり、キーを回す。

2011-06-22 23:31:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハローワールド。アイアンオトメ、デス」1200ccインテリジェント・モーターサイクルはインジケータに「大人女」の漢字ロゴを表示させ、お決まりの合成音声でアイサツした。「オンライン認証出来。レディーゴー」ゴアアア!ゴアアア!獣じみたエンジンが唸り声を上げる。

2011-06-22 23:36:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはもう一度カキオを一瞥した。目を細める。この後どうなるのか?燃えるガレージを力なく見つめ続ける彼は。気がかりでないと言えば嘘になる。だが、関わる理由も無い。この手の出来事は、ネオサイタマにおいてチャメシ・インシデントに過ぎない。

2011-06-22 23:44:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

消防隊とマッポが到着しようとしている。誰何されれば厄介だ。ニンジャスレイヤーはアイアンオトメを発進させる。……ザイバツ・シャドーギルド。当時の事実関係を確かめる必要がある。

2011-06-22 23:50:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

鋼鉄のモーターサイクルは黒煙と炎の塊を背後に残し、坂道を駆け上がると、そのままヒビ割れた道路をドリフトして、あっという間に走り去って行った。

2011-06-22 23:50:26