永遠のおさな子はその祝いから取りこぼされたままだ。森に魅入られた少年は、しだいに人の輪からはぐれて、言葉少なになっていく。それでも父や身近な大人たちは、ありったけの愛情をそそいで少年に接した。短い夏がまたたく間に過ぎるように少年がその日々を駆け抜け、成人の儀式を終えるべき日まで。
2011-07-31 21:12:30種が芽吹くはずの頃合いを見計らってさいごの儀式が行われる。森から父のもとに返された子供は、そのとき初めて一人前の森の住人となるのだ。だが少年の場合は違っていた。少年の父は夜明け前に家々を回り、酒を配って息子の旅立ちを告げる。餞の衣類や食物とともに祈りの言葉が寄せられ、父は涙した。
2011-07-31 21:12:57永遠のおさな子は儀式を終えられず、森の住人となることもない。森を離れよと命じられ、 長老から何がしかの使命をひそかに告げられるのだ。長老は古い伝承を紐解き、星と語り、幾晩もかけて決断する。そのときどきで告げられる使命は異なるが、無理難題と呼ぶべき厄介なものであることは変わらない。
2011-07-31 21:13:33少年は涙を見せなかった。使命を課せられたことにただ顔を強ばらせていただけだ。それは森を守るために避けられぬものであり、同時にこれまで少年が体験したどんな事柄より困難だった。おそらく二度ともどれぬが、使命を果たして帰れば少年は長老の列に加えられ、森の守護者として再び迎え入れられる。
2011-07-31 21:14:07永遠のおさな子が森に捧げられるのだと考える人は多い。夢見がちで労働に適さない者の口減らしという人もいる。いかにも第三者らしい見解だ。だが森の住人たちの気持ちに寄り添うにはどちらも何かが足りない。餞の品々や祈りの言葉がそれを物語っている。ここではだれもが少年の帰還を願っているのだ。
2011-07-31 21:14:52そなたはだれよりも遠くへ行ける。だからそなたは選ばれたのだ。父はそう言って、預ってきた餞の品を少年に託した。たとえ地の果てに行き着こうとも、そなたはだれより森に近しい存在なのだから。そこまで言って父は口を閉ざし、少年を抱きしめる。別れの言葉も見送りもなく少年は家を出ねばならない。
2011-07-31 21:15:15生まれ育った森を離れるとき少年はもう一度、あのこがね色にかがやく種を植えた場所に足を向けた。そこには道と呼べそうな痕跡があわくできはじめていたが、それもすぐに消えてなくなるだろう。少年の種は芽吹いたばかり。朝露をたたえた一対の葉は、まだいかなる植物のものとも見定められぬ姿だった。
2011-07-31 21:15:40そう、永遠のおさな子もまた、見届けることは叶わないのだ。自らの植えた種がどんな木となりどんな花を咲かせるのか、知る者はいない。その木が森を形作る木々のひとつとなることを、心のかたすみでただじっと祈るだけだ。涙のように朝露を散らして、少年はその小さな若葉と別れのくちづけをかわした。
2011-07-31 21:16:08そなたはきっと夏には芳しい花々を咲かせて父や母や兄弟をいやしてくれるだろう。秋には甘い果実をみのらせて森の同胞をうるおしてくれるにちがいない。わたしはかならず使命を果たして帰ってくるよ。だから無事に育っておくれ。いとしい森を守っておくれ。やがてわたしが息子に種を授けるその日まで。
2011-07-31 21:16:38@shoko0827 @ts_p こんばんは。おさな子は、森のかなたの絵が出来たのですが、いかがでしょうか? http://t.co/gsW97tyy
2011-09-28 17:41:30@shoko0827 @ts_pこんばんは。『おさな子は、森のかなた』の絵を描き直してみました。いかがでしょうか? http://t.co/addSat4A
2011-10-03 21:03:45