死ぬのがこわくなくなる話 第11話

Twitter上で連載中の渡辺浩弐さんの長編小説をまとめました。
0
渡辺浩弐 @kozysan

今日の「死ぬこ話」始めます。

2011-08-23 00:08:22
渡辺浩弐 @kozysan

肉体の最小単位までを操作制御できるとしたら、およそ不可能なことはなくなる。ただ、そんな仕事をするロボットが実現したとしても、全身の細胞を分子単位で修復するのにはいったい何台、必要になるのか。そしてどれくらいの時間がかかるのか。そういう点はまだ明確ではない。

2011-08-23 00:08:41
渡辺浩弐 @kozysan

そして一生懸命ナノロボットを作る必要なんてあるのかという根本的な疑問が出てくる。長大な月日と膨大な費用をかけて夢のマシンが完成したとしても、それと同じ、いやきっとさらにずっと精巧で完成度の高いものが、実はもう、いたるところに存在しているのである。僕らの体の中に、だ。

2011-08-23 00:09:08
渡辺浩弐 @kozysan

細胞だ。実のところ、そもそも細胞自体が究極のレベルに達しているナノテク・マシンなのだ。自分で自分を修復する機能を、壊れたところを分子単位で直していく仕組みを、もともと持っているのだから。

2011-08-23 00:09:27
渡辺浩弐 @kozysan

いちいち外側からちょっかいを出さなくても、ミクロの世界で、それは日々行われている普通の作業なのだ。ではなぜ我々は壊れていくのか。老化していくのか。

2011-08-23 00:09:52
渡辺浩弐 @kozysan

体を構成する細胞に寿命があるからだ。それは物理的に仕方のない限界というわけではない。ある回数、分裂すると自殺するようにあらかじめセットされているだけのことだ。

2011-08-23 00:10:09
渡辺浩弐 @kozysan

生物は、死ぬ能力をあえて獲得したのだと前に書いた。細胞のテロメアと呼ばれる部分にあえて時限を設定している、と。テロメアは細胞内の染色体末端部に存在する。これが細胞分裂をするたびに短くなっていき、ある長さ以下になると細胞分裂を停止させる。回数券の役割だ。

2011-08-23 00:10:27
渡辺浩弐 @kozysan

2009年のノーベル医学生理学賞を獲得したのは、このテロメアの仕組み、さらにはその修復を行うテロメラーゼ酵素の役割を解き明かしたアメリカ人科学者チームだった。

2011-08-23 00:11:15
渡辺浩弐 @kozysan

テロメアの仕組みが判明した以上、それが短縮しないようにする、もしくは再延長させる技術は手の届くところにあると言える。それができれば、細胞をいつまでも生き続けさせることが可能になる。

2011-08-23 00:11:50
渡辺浩弐 @kozysan

そこで、あなたが死ななくなる、その2番めの方法がはっきりした。修理する、という考えではなく、修理機能を永久化する、という考えである。

2011-08-23 00:12:05
渡辺浩弐 @kozysan

細胞の中に仕込まれている自殺機能を取り除く技術。自殺機能が「あえて」セットされているのなら、それを作動しなくすればいい。それは困難なことではないはずだ。

2011-08-23 00:13:02
渡辺浩弐 @kozysan

ただし。人も含めあらゆる生物は死ぬことになっている。死のプログラムを飲み込まなかった存在は、ウィルス程度までしか進化できなかった。

2011-08-23 00:13:35
渡辺浩弐 @kozysan

自然の摂理を超えたところまで個体を長続きさせる。それは生命という概念自体を崩してしまいかねない技術だ。その領域に、人類は今踏み込み始めているのである。不老不死を手に入れようとしているあなたは、そのことを、知っておくべきだろう。

2011-08-23 00:13:56
太田克史 @FAUST_editor_J

@kozysan 不老不死が現実になれば、まったく新しい倫理や社会が構築されていくんでしょうね。僕がおもしろそうだなー、と思うのは、いったいみんなは「何歳」の時点で「不老」を選択するかということ。一生「ようじょ」を選ぶ人がいたりしたら熱いですねw

2011-08-23 00:20:17
渡辺浩弐 @kozysan

@FAUST_editor_J 同意です。新しい技術の開発よりも新しい倫理や社会の構築の方がずっと大変で、実は今はこれを真剣にやっておかなくてはならない時なんですね。

2011-08-23 00:28:58
渡辺浩弐 @kozysan

@FAUST_editor_J 「ようじょ」問題も重要ですね。生殖という戦略が必要なければ、苦しくも悩ましい成長期に入る必要はないのです(が、ここから大橋のぞみ論に入ることを自重します)。

2011-08-23 00:30:41
太田克史 @FAUST_editor_J

@kozysan 「ふえぇ……きょうはわたしのはちじゅうさんかいめのじゅっさいのおたんじょうびだよぅ……」みたいな人も現れるってことですねー。ファンキーすぎる!

2011-08-23 00:36:16
渡辺浩弐 @kozysan

@FAUST_editor_J 今まわりを見回しても、同じ高校に10年以上い続けて同じ少女達に告白し続けている男の子もいますし、毎年18歳の誕生日を迎えている女の子もいますよね。ファンキー!

2011-08-23 00:45:10
dnts3 @dnts3

@kozysan 「不死」つまり「永遠」にこそ究極の恐怖がある。それから逃れるためにテロメアは自律的に「死」をプログラムしたのではないか?と思います。永遠の恐怖よりも死の恐怖の方が、まだ幸せなのだと。

2011-08-23 00:27:44
渡辺浩弐 @kozysan

@DoughnutsMSL その恐怖までを今ちゃんとシミュレートしておかないと、「あなたは不死です」となった瞬間、自殺したくなっちゃったりして。

2011-08-23 00:35:06
akym ひ @rokugentanto

@kozysan 逆にテロメアの操作により、生産能力のピークを過ぎると死なせるようなシステムが敷かれることもあり得そうですね。

2011-08-23 00:28:18
渡辺浩弐 @kozysan

@rokugentanto 明らかになんらかの意図でそうなっていることは間違いないですね。しかし、それをすんなりと受け入れることはできない自分がいます。

2011-08-23 00:36:18
A.S @AS19940930

なんか死ぬのも生きるのも怖くなってきたんですが大丈夫でしょうか.. RT @kozysan: 自然の摂理を超えたところまで個体を長続きさせる。それは生命という概念自体を崩してしまいかねない技術だ。その領域に、人類は今踏み込み始めているのである。不老不死を手に入れようとしているあな

2011-08-23 00:35:38
渡辺浩弐 @kozysan

@WindowsTM 大丈夫です! どんどん進んでいきましょう、きっと楽しいところに着きますので。

2011-08-23 00:39:45