モータル・ニンジャ・レジスター #5
否!反撃しないのではない、出来ないのだ。ニンジャスレイヤーは奇妙な感覚に襲われていた。ディヴァーラーの攻撃を受けるたび、その鉤トゲ装甲が与える衝撃……まるで骨の芯をヤスリがけされるかのような不快な痛みが生ずるのである。痛みだけではない。瞬発力が殺されているのだ。コワイ! 21
2011-10-18 15:50:21「ハッハァー!俺のケズリからは逃げられん!逃げられんのだ!」ディヴァーラーは小刻みな攻撃を繰り出す。一撃の重さでは無い。手数を重視した攻撃だ。狙いは明らかであった。反撃機会を与えず、この不可思議なジツを伴った攻撃で、ガードの上から小刻みなダメージを与え続けようと言うのだ。 22
2011-10-18 16:03:54「イヤーッ!」右フック!「イヤーッ!」左ショートアッパー!「イヤーッ!」右ローキック!「イヤーッ!」左ジャブ!「イヤーッ!」右フック……ナムサン、これは科学的に体系化された近代カラテのループ・コンビネーション・メソッド!ケズリの力が無くとも抜け出すのが至難なワザマエ! 23
2011-10-18 16:27:46「ホラホラどうした!ホラホラどうした!」ディヴァーラーは嘲りながら熾烈なラッシュを繰り出し続ける。グラインド音が轟き、ニンジャスレイヤーはジリジリと後退。ボーディサットヴァ像に背中を押し付けられた。なおも続くコンビネーション。そのニンジャ持久力に息切れの文字は無いのか!? 24
2011-10-18 17:06:16これはいかなる事か?実際これは単なるニンジャ持久力の産物ではない。恐るべき事だが、ディヴァーラーはニンジャスレイヤーのエネルギーを削り、その際、ドロボウめいてそこから幾らかを己のエネルギーに転化しているのだ。彼の名前通り、相手を喰らい尽くすまで終わらぬ悪夢的カラテ空間! 25
2011-10-18 17:33:06「ヌウッ……ヌウウーッ」ニンジャスレイヤーは耐え続ける。耐え続けるしかないのか?このままではジリー・プアー(徐々に不利)だ……それだけではない。不吉な予感が彼のニューロンを苛む。この異様な感覚……ディヴァーラーの攻撃は彼の内奥のニンジャソウルを傷つけているのではないか? 26
2011-10-18 17:57:34彼のニューロン内で不本意な休眠状態にあるナラク・ニンジャがディヴァーラーのカラテに滅ぼされ、失われるとすれば。それは何を意味するのか。トコロザワ・ピラーにおけるあの葛藤と対話、克服は全くの無駄となり……復讐を成し遂げる力の源が、己の半身が、永遠に失われると言う事ではないか? 27
2011-10-18 18:55:12「ホラホラどうした!ホラホラどうした!」ディヴァーラーのラッシュは続く。勢いは増し続け、ニンジャスレイヤーのエネルギーは……ニンジャソウルは傷つけられ続ける。これ以上それを許すわけにはいかぬ!これ以上は!「ホラホラ!ホラホラ!……何!?」ディヴァーラーが目を見開く! 28
2011-10-18 19:29:11ディヴァーラーが驚愕したのは攻撃を止められたからではない。逆である。己の左フックそして右ストレートが、ガードを外したニンジャスレイヤーの身体を想像以上に深々と捉えたからだ。そう、ニンジャスレイヤーは突如ガードを下ろしたのである。無限に続く攻撃に狂ったか?諦めたか? 29
2011-10-18 19:33:22ディヴァーラーのニューロンには二つの信号が交差するようにスパークしていた。ニンジャスレイヤーのガードが崩れたのだ、さらに攻撃を畳み掛けトドメを刺すべし。否、否!なにかおかしな事が起こっているのだ。敵はデジタルワスプを出し抜き、センチュリオンを、サンバーンを殺した強敵なのだ! 30
2011-10-18 21:21:23ニンジャスレイヤーは実際どうであったのか。残念ながら答えは後者だ。殴られるがままのニンジャスレイヤー。燃えるような殺意を宿した双眸がディヴァーラーを睨み据える!「イ……イヤーッ!イヤーッ!」三撃!四撃!ディヴァーラーが攻撃を叩き込む。止まらない……止められない! 31
2011-10-18 21:28:06ループ・コンビネーションは攻撃をガードされる反動を利用し、さらなる連続攻撃の勢いに活かす。だが突然にガードを捨てたニンジャスレイヤーに対し、ディヴァーラーは狙い以上に踏み込んでしまっていた。攻撃のリズムが乱れ、間合いが崩れた。与えたダメージは実際大きいが、これでは……! 32
2011-10-18 21:36:15「バカか!?死なない為にガードするんだろうが!そのガードを捨てるとは!」ディヴァーラーは罵ったが、その声には今や正体不明の敵に対する恐怖が溢れていた。「おッ……おとなしく削り殺されればよかったと、ジゴクで後悔するがいいぜ!イヤーッ!」顔面を狙う渾身のパンチ! 33
2011-10-18 21:52:41これがトドメだ!顔面を砕かれ死ね!……だが彼の心は己がニンジャスレイヤーのジゴクめいた反撃を受けて吹き飛ばされるビジョンで満たされていた。バカな?何を悲観する。見ろ、この必殺の一撃!だが先程のラッシュ攻撃と比べれば精密さに欠け……ああ、そら見たことか。ニンジャスレイヤーが、 34
2011-10-18 22:01:06「イヤーッ!」「グワーッ!」次の瞬間、ディヴァーラーの体は弾かれて吹き飛んだ。ニンジャスレイヤーの肩から背中にかけての広い範囲が、勢い込んで拳を繰り出すディヴァーラーを捉えていた……何たる一瞬の踏み込み!ニンジャスレイヤーの足の下のタタミは圧力でクレーター状に潰れていた! 35
2011-10-18 22:09:46ディヴァーラーは一瞬にして反対の壁に叩きつけられ、地面に落ちた。まるでダンプカーに正面から衝突されたような衝撃……その瞬間的な破壊力はいったい何トンであろう?何をされた?背中を壁めいてぶつけられたのか?これはいかなるカラテか?「アバッ……アバーッ!」全身が軋む!吐血! 36
2011-10-18 22:16:29「ハイクをゴホッ!ハイクを詠め」ニンジャスレイヤーがよろけながらディヴァーラーへ接近する。その後ろで巨大なボーディサットヴァ像の全身に亀裂が走り、砕けた。ディヴァーラーが撃ち込んだニンジャ腕力の衝撃はこれほどのものであったのだ。当然ニンジャスレイヤーとて無傷ではない! 37
2011-10-18 22:20:48「畜生!畜生まだだ!」ディヴァーラーが震えながら四つん這いになり、立ち上がろうともがく。吐血がタタミを汚す。悲しいかな、ニンジャスレイヤーがガードを下ろした瞬間、この結末は約束されていた。ディヴァーラーのニンジャ第六感は彼自身に、まこと冷徹に、この結末を予告していたのだ。 38
2011-10-18 22:31:09ディヴァーラーはなんとか立ち上がる。また転びそうになり、たたらを踏む。一歩。二歩。ニンジャスレイヤーが接近する。「ハイクを詠め」「まだだ畜生!」歩きながらニンジャスレイヤーがチョップを構えた。彼とディヴァーラーとの間に五体のおぼろな影が立ち上ったのはその瞬間の事であった。 39
2011-10-18 22:36:05ホログラム映像めいて時折砂嵐ノイズに揺らぐ五体の影は、その全てが同じ直立姿勢を取り、同じターコイズ色の装束を着、メンポの隙間から同じ目をのぞかせて、同じようにニンジャスレイヤーを睨んだ。ニンジャスレイヤーは足を止めた。五体は同時にオジギした。「ドーモ。コンジャラーです」 40
2011-10-18 22:43:06(第二部「キョート殺伐都市」より:「モータル・ニンジャ・レジスター」 #5 終わり。#6へ続く) 41
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