シャドー・コン #3
「貴様!」スクランブラーの眉間に血管が浮き上がった。「今度こそ脊椎を砕いて殺す!」アイアンリングは無視して歩き出す。モミジも後を追い、振り返りながら「ヘヘッ、まあそんなわけでな!後悔させてやるぜ色々とな!」「絶対に殺してやるぞ!」スクランブラーの絶叫が背中に投げかけられる! 23
2011-12-30 19:25:41二人はタクシーに乗り込んで地下闘技場を後にした。「オイお前……やるじゃねえか。何考えてやがる。口も達者か」タクシーの中、モミジが興奮して言った。「お前、本当に何者だ?いやまあ、なんでもいいさ。ありがとよ」窓の外を見やりながら、「本当に……可哀想だったよ、アイアンリングの奴は」24
2011-12-30 19:33:35……二人は冷え冷えとしたグリズリー穴のドージョーで、言葉少ない祝杯を上げた。賭け金の戻りでモミジが買ったショチュー・スピリッツと、トビッコ・スシである。イチローはファイトマネーを差し出したが、モミジは頑として受け取らなかった。「俺は何もしてねえ。賭けただけだ」 25
2011-12-30 20:03:58モミジはアイアンリングの写真が飾られた神棚にもサケとスシを置いた。「俺は長いことシャドー・コンでやっていてよ」モミジが言った。「お前のようなカラテはねぇからまあ、スモトリ、クマだの倒して、日々の暮らしをな。グリズリーって名前もそれさ。バイオベアーを倒させれば俺は一番だった」 26
2011-12-30 20:12:29モミジはサケを呷った。「ザイバツ・シャドーギルドの下部組織……細く長く、そのままやれてりゃあ、いいかとな。だが夢を見ちまった」「……」「ニンジャ・イクサだ。男なら、って思っちまった。悪い風邪みたいなもんだよ。で、一人。二人。俺は倒した。順調に思えた。いけると思った」 27
2011-12-30 20:30:20モミジの目が次第に熱を帯びる。イチローは黙って聞いた。「このままチャンピオンに。そして栄光を。飛躍を。ささやかな暮らしから、少しばかり、はみ出してきた。俺の願いが。ブッダは見てたね、俺の身の程知らずを。そして戒めが下りた」一息にサケを飲み干す。「戒めの名は……サラマンダー」 28
2011-12-30 20:40:00イチローの眉が、ぴくりと動いた。モミジは酒臭く笑った。「そうだよ、お前の……お前の、なんだ、お望みの奴よ。あいつはモノが違った、なにしろ最初からギルドのお墨付きよ。ドラゴンドージョーに後ろ足で土をかけるようにして、キョート……ザイバツ入り……」「ドラゴンドージョー?」 29
2011-12-30 20:44:09「あン?ドラゴンドージョー?ま、そんなクランがあンだよ。ネオサイタマくんだりにな。奴はそこの出身だ。師匠のニンジャを裏切ってギルドに……いわく付きの何かだよ。話がそれたじゃねえか」モミジはさらにサケを呷る、「奴は初めから、シャドー・コンの支配者になる器だった。その初戦が俺」 30
2011-12-30 20:49:04モミジは怪しい足運びで、そのイクサを再現しようとフラついた。「イヤーッ!イヤーッ!ブーフ!まず脇腹!そして、うずくまる俺の首に、打ち下ろす肘!ブーフ!ブッダの鉄槌だぜ!」モミジは床に膝をついて、乾いた笑いを笑った。「ざまあ見ろ身の程知らずめが!これが!これがよ……」 31
2011-12-30 20:53:52イチローはモミジに肩を貸して立たせ、イスに座らせた。「負け犬の夢、へへ……」泥酔したモミジはテーブルに突っ伏し、おぼつかない言葉を吐き続けた。「まあ、それでこのドージョー……他にできる事もねェ……手も足もよ……最初はフラッシュガン……引き抜かれ……次はサーベルタイガー……」 32
2011-12-30 21:14:18「モミジ=サン。ほどほどにしておかんか」「まだまだ、まだまだだぜ」グラスをテーブルに叩きつけ、「で、サーベルタイガー……こいつはいいパートナーだった、だが、まあ、あいつの事はいいよ。そんで、起死回生のアイアンリング=サン……スカウトしたんだ、才能があった、俺は賭けてた……」 33
2011-12-30 21:21:22モミジはグラスを持ち上げた。「ついでくれェ頼む」「……」イチローはサケをついだ。モミジは続ける。「あいつ、アイアンリング=サンは、ニンジャになって間もなくてよ、礼儀正しい若者だったよ、あのまま放っておきゃあ、ギルドで暗殺まがいの……だが、巡り合わせだなぁ、奴は俺ンとこに」 34
2011-12-30 21:48:20モミジは急に話しやめた。テーブルに突っ伏して、起きているか否かもわからぬ。イチローはモミジのコートを彼の背中にかけた。「悪魔の旦那よ……」モミジが呟いた。「お前は、実際、俺の弟子ってわけじゃねえし、何かやらかす気でいやがるしよ」 35
2011-12-30 21:52:07「……」「だが、いいんだよ、それァよ。なんだお前、悪魔のクセしやがって、折に触れてお前、すまなそうにしやがって、ええ?気に病むなよ……俺、俺ァな、お前が来なきゃどのみち終わりだった。今更……だからよ、乗る、ヤバレカバレ、お前のその、何だかわからねえ、おっかねえ勢いの先をよ」 36
2011-12-30 21:58:10モミジはまた黙り、イビキをかき始めた。イビキが止まり、また呟いた。「悪魔の旦那よォ、俺は、うまく言えねえが、こんなものは、こんな人生はな……」言葉はかき消えた。モミジは眠りに落ちた。イチローはトビッコ・スシを食べた。神棚を見やると、アイアンリングの写真と目が合った。 37
2011-12-30 22:08:24アンダーテンプル・ニンジャトーナメント。一見ブッダテンプル廃墟と思しき建物の地下にはハイ・テックな闘技施設が築かれており、ここがシャドーコンで年に二度開かれる、ニンジャ同士のイクサ・トーナメントの舞台となる。選ばれた戦士だけが出場を許され、勝利者には金と栄誉が約束される! 40
2011-12-30 22:41:50古代ローマカラテ会のファランクスはベテランのニンジャ戦士であり、これをノックアウトどころか爆発四散させ、死をもって強引に出場権を奪い取ったアイアンリングの出現は、シャドー・コンのフリーク達を大いに騒がせた。 41
2011-12-30 22:45:42出場ニンジャは七人、一人がシードで第一回戦は三戦開かれる。最も話題をさらうのはこのアイアンリングとカラテエリート新人・スクランブラーのイクサ、オッズの乱高下は実際激しい。下馬評ではスクランブラー大有利、経歴を考えれば当然であるが、アイアンリングの不気味な存在感が釘を刺す。 42
2011-12-30 22:54:10既に両者は各自の入場控室入りを済ませ、色とりどりの半裸のキモノを閃かせるオイラン・ダンス・デモンストレーションが終わるのを待っていた。白くたわわな乳房もあらわなオイラン達が特設のドヒョー・リング上で極彩色のサーチライトを照射され、バイオニシキヘビや象と戯れる。43
2011-12-30 23:06:40ズンズンブブーン、ズズンズンブーン、高揚感を煽り立てるBGMが徐々にフェードインすると、リングの東から「スクランブラー」のオスモウフォント掛け軸!西から「アイアンリング」の掛け軸!金銀の紙吹雪が天井から降り注ぎ、オイランの退出タイミングに、リングの四方から火柱が噴き上がる! 44
2011-12-30 23:50:43「カネがかかってやがるんだよ。他よりな」モミジが獰猛に笑い、アイアンリングに前進を促した。「だが客は同じだ。ヘッ」ズンズンブブーン、ズブブンブブーン……「おい」「……」アイアンリングは振り返った。「頼んだぜ」「……」アイアンリングは向き直り、リングに向かって花道を歩き出した。45
2011-12-30 23:59:20「コロセー!」「コロセー!」「コロセ!」「コ!ロ!セ!」ドヒョー・リングを囲む観衆が吠え叫ぶ中、アイアンリングとスクランブラーは向かい合った。レフェリー?そんなものはいない!「ドーモ、アイアンリングです」「ドーモ、スクランブラーです」二者はオジギし、そして……見よ! 46
2011-12-31 00:12:26