ザ・マン・フー・カムズ・トゥ・スラム・ザ・リジグネイション #4
疑念が疑念を呼び、雪だるまめいて巨大になってゆく。押し潰されそうだ。彼は激しくチャを泡立てる。「早くしろよ!早く」チェインボルトがうるさく催促する。「先輩」のホログラフィが頭上でまたたく。「早く!」 21
2012-05-28 15:08:57ザイバツ傘下のさほど信頼されぬ者らが立ちいる事を許されるのは、入場してすぐの中庭と、狭い廊下と幾つかの広間、複数の玄室からなるこの区域だけだ。壁や床は黒漆で塗られ、全ての柱には金箔でザイバツ・シャドーギルドのニューワールドオダー意匠が描かれている。 23
2012-05-28 15:45:51薄暗い廊下の突き当たりには「男」「女」「弱い従者」とショドーされたノーレンがあり、それぞれが個室厠に繋がっている。ビジター区域とはいえ、ギルドのあふれる権力を端的にしめす個室厠は下手なコフィン宿の部屋よりも大きく、黒大理石便座と美しいウキヨエで、使用者をリラックスさせるのだ。24
2012-05-28 15:52:10男、女のノーレンはどちらもニンジャ専用。人間やクローンヤクザは全て「弱い従者」を用いる決まりだ。ザイバツの格差社会思想はこんなところにも行き届いているのである。……その「男」ノーレン奥の一室に、既に20分程篭り続けているニンジャ有り。ディテクティヴ……タカギ・ガンドーである。25
2012-05-28 16:05:30敵の懐にあって、腹でも痛めたのか?否!彼は便座の黒大理石の蓋を閉じ、そこに12面体のドロイドを載せて、携帯IRC通信機にLAN接続していた。おわかりだろうか?秘密通信だ!ドロイドのLED文字盤には「声変わりな」の表示が輝く。 26
2012-05-28 16:10:36このLEDの点滅は、変声エフェクト機「宇宙」シミュレーターが働いている事を示す。作動アルゴリズムは実機に忠実。キンギョ屋のオヤジは凝り性なのだ……『ドーモ。またオヌシか?一体何者だ?ガンドー=サンか?』ノイズの海から音声が浮かび上がる。ようやくセッションが確立された! 27
2012-05-28 16:20:22「……違う。だが、ガンドーは無事だ」ガンドーはボソボソと囁いた。まだ真実を明かすべき時ではない。ニンジャに生まれ変わったなどと、慌ただしく音声通話で伝える話では無い。対面で告げるべし。なおかつ、ニンジャスレイヤーに対して、その告白は実際命のやり取りになろう。まだだ。 28
2012-05-28 16:28:32「そんな事よりお前には時間が無い。今どこで何をしている?」『それはこちらの台詞だ。正体を明かさぬならば切る』(クソッ。これだ)ガンドーは歯噛みした。「……私の名は便宜的にディープスロートとでもしておこう。今どこで何をしている?お前がまごまごしている間にドラゴン・ユカノが……」29
2012-05-28 16:31:50ディープスロート。咄嗟の名乗りである。ウォーターゲート事件で暗躍した密告者の自称だ。(気取り過ぎたな。しかし、名前がどんどん増えちまうな)……通話相手から返事が無い。「聞こえるか?こちらディープスロート」『続けろ』剣呑である。(大体お前さんが救出に失敗したから……まあいい)30
2012-05-28 16:45:18「彼女はキョートへと護送中だ」ガンドーは言った。(ディプロマットから得たばかりの情報だぞ、褒めてくれてもいい)……『何のために?』とニンジャスレイヤー。ガンドーは考えを巡らせた。何のためにだ?「……何らかの陰謀の為にだ」 31
2012-05-28 16:50:14『ザイバツはなぜユカノを?』「考えている時間があるか?今頃彼女は空路だ」ガンドーは言った。ザイバツの目的はまだわからぬ。だが真実だ。これから何が起こる?わかってからでは遅い。下手を打てばニンジャスレイヤーは為す術なくユカノを失う事にもなるのだ。「危険だが先回りする方法がある」32
2012-05-28 16:58:11『……手短に答えろ』ここからが肝要だ。「アンバサダーとディプロマットというザイバツ・ニンジャを探せ。片方がネオサイタマに潜伏している。危険だが、お前を一瞬でキョートに運ぶだろう。危険を冒す事になる……だが、間に合わせるにはこれが……」『愚問だ』ニンジャスレイヤーは即答した。 33
2012-05-28 17:13:09『その後は?』「アンダーガイオン第八階層、イーグル区画の廃工場地帯にある、壊れた赤いコケシ電話ボックスを探せ」ガンドーはキョートでの待ち合わせ場所を告げた。……これから忙しくなる。いや、既に渦中だ。ニンジャスレイヤーはすぐにでも動かねばならない。 34
2012-05-28 17:18:14「いいか。ネオサイタマにはアンバサダー。キョートにはディプロマットだ。彼ら双子がポータルを繋ぎ、超自然の道を拓く。ザイバツが一夜にしてネオサイタマを蹂躙した手品の種だ。それを使う。ポータル使用者の三割は死ぬ。お前は七割にならねば……」『無論』ニンジャスレイヤーは繰り返した。35
2012-05-28 17:19:12「アンバサダーの潜伏場所をたった今データ送信した。急げ。混み入った事情がある。彼を殺すな。死なせるな。今すぐだ。場合によってはお前が彼を守る必要がある。彼無くばポータルは」ザリザリ……ドロイドが「末」の表示を光らせ、回線を強制切断した。セッション痕跡を消去できる限界時間だ。36
2012-05-28 17:26:02「ウオオッ……」ガンドーは深い息を吐いた。「……ま、ぶッつけ本番にしちゃ上出来だ……」彼は電源を切ったドロイドを懐へしまうと、虚無僧編笠を被り、ドアを開けて外へ。しめやかにノーレンをくぐって出た彼は、廊下を歩いて来た黒装束のニンジャと鉢合わせした。37
2012-05-28 17:34:35「……ドーモ。シャドウウィーヴです」「ドーモ。ジャッジメントです」二者はオジギし、すれ違った。黒装束のニンジャはガンドーのものと同型のドロイドを連れている。光は青だ。「……」ガンドーは何か報せめいたものを感じ、黒装束のニンジャの後ろ姿を黙ってしばし凝視していた。 38
2012-05-28 17:37:13(シャドウウィーヴ……)彼は頭を掻こうとしたが、虚無僧傘に阻まれた。(シャドウウィーヴ!?オイオイオイ!)彼は呻き声を押し殺した。(ヤバイヤバイ!そりゃヤバイぜ!)彼は思わず忍び足めいて、反対方向へ足早に離れていった。 39
2012-05-28 17:39:54メンタリストはイグナイトを指差した。「貴方の炎、緑色でしたか?イグナイト=サン」「……?」イグナイトの手首の炎が。緑色だ。アンバサダーは駆け出そうとする。メンタリストは笑った。「ほら、そこだ」「グワーッ!?」アンバサダーの両踵から虹色のスリケンが生えた!アンバサダーは転倒! 41
2012-05-28 22:22:12「てめェーッ!」イグナイトは跳んだ。空中に出現した炎のリングへ飛び込む。メンタリストの背後に別の炎のリングが生まれ、そこからイグナイトが飛び出す!「イヤーッ!」背後からのカトン攻撃!だがメンタリストは振り向き、「イヤーッ!」炎を手で払い飛ばす!「弱敵!」42
2012-05-28 22:27:47「イヤーッ!」イグナイトは逆の手でもう一度、炎を叩きつける!炎を受けたメンタリストの身体が虹色の飛沫となって爆発!「畜生!」イグナイトが叫んだ。あきらかに仕留めていない事がわかるからだ。アンバサダーは焦げたタタミを這いずった。踵に外傷は無い。だが力が入らぬのだ! 43
2012-05-28 22:30:53