ゾンサバ　にしや編

当ても無くふらふらさまよい続けている。
行き場も無く生きる希望も見出せず、まるで私がゾンビになったような気さえ感じる。もしも、このまま…　いや、もしかしたら自分で気が付いていないだけで既に…　頭を振って、ネガティブになりそうな考えを打ち消す。避難所を出てまだ２日しか経っていないが、人間に出会いたかった。まだ人間だよ、と、証明してもらいたかった。

開けた場所に出る。懐かしいこれは学校のグラウンドだ。母校のではないが、見慣れた風景に、ほうと息を吐く。しかしここは開けた場所ゆえに目立ちすぎる。とりあえず何かに隠れようと、小さい小屋へと飛び込んだ。校舎ではないこの建物は、どうやら体育倉庫らしい。跳び箱やらバレーボールやらが、事件が起きる前となんら変わらないように仕舞われている。
ここにはめぼしいものは無いだろう。立ち去ろうと扉に手を掛けると、がたりと音を立てて、それは私の前に転がって来た。　野球のバットだ。　材質は木のようだが、しっかりと固く、振れそうな重さ。これは、武器になるかもしれない。それに何も持たないよりはマシだろう。ゾンビと素手でやりあうなんてまっぴらごめんだ。　隙間から顔を覗かせる。相変わらず誰も居ないようだったが、日が暮れてきた。今日はここで休もうか。跳び箱の影に隠れ、私は食料をひとつかじった。

四日目

いやな感じがして目が覚めた。ゾンビのうめき声だ。とても近くに聞こえる。このままここに閉じこもっていようかと一瞬考えがよぎったが、内鍵はない。それにその選択肢を選んでも、生きて帰れる気がとてもしなかった。扉の隙間からそっと、目をこらして…　
ヴォォォァァアアアア！！！　
咆哮と共に、覗こうと思っていた隙間に、腐った手が掛けられた！　　何かしら声になっただろうか。驚いたどころではない私は、思わずしりもちをついて倒れてしまう。立ち上がろうにも足が震えて動けない。バットを振り回そうにも手に力が入らない。扉はゆっくりと開かれ、逆光に人であったモノ、が私を食らおうと歯をむき出しにして襲い掛かってきた！　
もう駄目！　抵抗できぬまま固く目を瞑り…　　
だが、覚悟していた衝撃はいつになっても襲ってこなかった。代わりに。　「こっちだ！」と立ち上がらせて腕を強く引っ張って私を誘導してくれる男の背が目に入った。私はとっさに自分の執事かと思い、抱きつこうとしたが、日の下に出てそれが別人であると気がつく。倉庫を出ると、数体のゾンビがこちらへ向ってくる。やはり開けた場所は危険すぎた。数体を同時に相手しながら逃げるのは、いくら男性と言っても無理で。死角から襲い掛かってくるゾンビの頭を、手に入れたばかりのバットで叩き潰した。　手に伝わる嫌な感触。正気を失いそうになりながらも、私は必死で振り回す。　そのとき、パァンと銃声と共に、数体のゾンビが倒れこんだ。チャンスだ、と開けた道を男性と共に無我夢中で走る。　離れたビルの屋上から、拳銃を持った少年が手を振っているのが見えた。

ビルに逃げ込むと、先ほどとは違う男性が、医療品棚に手を伸ばしていた。手が届きそうで届かないと言っていたので、バッドで瓦礫を叩き割って足場にしてあげた。赤黒いどろどろの血がついたバットを振り回す様子をみても驚かないところを見ると、この男性もさまざまな修羅場を潜り抜けてきたのだろう。　襲われはしたが、大きな怪我はしていない。その場を立ち去って、瓦礫の山に埋まるようにして眠りについた。疲れた。今日はよい夢を見られそうに無い。

五日目