必要なのはエリート教育ではない! ~ 大谷翔平投手の決断に見る「グローバル人材」育成のヒント

MLB挑戦を公言していた花巻東高校の大谷翔平投手の日本ハム入団 この一件から示唆される「グローバル人材」の育成方法についてNPO理事の@meisterkm氏が語る
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丸楠 恭一 @meisterm_msp

1)日本ハム入団を決めた花巻東・大谷翔平君に対して、「その方が本人の将来にとって良い」と翻意を評価する声がある一方、ドラフト会議の形骸化という面でこれを批判する声もある。この問題、国際学部という場に身をおく立場から言うと、非常に示唆的なものを含む。

2012-12-13 09:29:17
丸楠 恭一 @meisterm_msp

2)文科省も産業界もこぞって「グローバル人材」の育成を叫ぶ。日ハム・栗山監督の交渉は恐らく説得的だったのだろうし、栗山氏が大谷君の将来を真剣に考えていなければ翻意は困難だったに相違ない。そしてその底流に存在するのは、大谷君が将来メジャーで活躍できる可能性を高めるという価値基準だ。

2012-12-13 09:30:46
丸楠 恭一 @meisterm_msp

3)換言すれば、成功確率を高めリスクを低下させるということである。通常の意思決定において、これは合理的選択となる。だが、日本社会でグローバル人材を育成するという視点から言うと、ちょっと待てよと言いたくなる。

2012-12-13 09:31:14
丸楠 恭一 @meisterm_msp

4)「グローバル人材って何だ」という問いに対する本質的な答えは難しい。異文化コミュニケーション能力とか問題解決能力とか言うが、そうした能力を相当に高く持つ知識エリートよりも、野茂英雄の方がずっとグローバル人材である、という見方も決して誤ってはいない。

2012-12-13 09:32:10
丸楠 恭一 @meisterm_msp

5)誤解を恐れずに言えば、私は個人的に、グローバル人材とは、自文化の中でのぬくぬくとした心地よい生活を捨てることを厭わぬ「リスクテイクの精神」を持つ者だと思っている。語学力も思考力も、あるに越したことはないが必要条件ではない。世界に出る若者が多い国は、自国の居心地が良くないのだ。

2012-12-13 09:34:22
丸楠 恭一 @meisterm_msp

6)大谷君はリスク覚悟だったに相違ない。だが、18歳の青年の周囲で大人がいろんなことを言って、彼の思考を「失敗しても自己責任」から「日本人として最も若くメジャーで活躍する」という方向に変えさせてしまった。私にはそう思えてならない。

2012-12-13 09:35:16
丸楠 恭一 @meisterm_msp

7)だが、これはある意味でやむを得ないとも言える。大谷君の評価が現時点であまりに高く、将来成功する確率がかなり見込めるからこそ、プロ球界もメディアも親族も花巻東監督も、彼の決断をそれなりに理解したのだ。失うものがあまりに大きければ、やはりリスクをとるのは容易でない。

2012-12-13 09:35:58
丸楠 恭一 @meisterm_msp

8)実はここにグローバル人材を生み出すヒントがあるように思う。失うものが少ない人間の方がリスクをとることに抵抗が少ないのであるから、大切なのは「過剰に期待しない」「失敗を評価する」「光るものを持っているが社会的に評価されていない人間にこそ助成を与える」ことではないか。

2012-12-13 09:36:41
丸楠 恭一 @meisterm_msp

9)つまり(これは現在の日本社会の空気にもよるが)、大谷君はその才能があまりに高く評価されたがゆえに、グローバル人材としてはむしろ適さなかったのだ。明治の元勲たちのうち、誰が青年期に将来を嘱望されていたであろうか。彼らは失うものなど考えもせず、洋行して知や心を磨いたのだ。

2012-12-13 09:37:20
丸楠 恭一 @meisterm_msp

10)だから敢えて言う。東大がいかに大学改革を行っても、東大からグローバル人材がそれほど数多く出ることは期待できない。むろん、東大生にも個人差はあるから一概には言えぬが、幼少時から常に高く評価され続けている人間は、最もリスクを採らないマインドの持ち主である可能性が高いのだ。

2012-12-13 09:37:53
丸楠 恭一 @meisterm_msp

11)一応東大に籍を置いていた自分自身及びその周囲を見ても、リスクをテイクしていた人間は、採らざるを得ないような状況に置かれていたことが多かった。もっとも、本能的にリスクを採らざるを得ないような道を敢えて選択する人間もいた。彼らが変人扱いされていたことは言うまでもない。

2012-12-13 09:38:28
丸楠 恭一 @meisterm_msp

12)そう考えると、語学力育成やら異文化対応能力やらで優れたプログラムを立案・実行する見込みのある大学を助成する「グローバル人材育成事業」の危うさが見えてくる。事業そのものがなくても良いということではない。問題はその使い道だ。

2012-12-13 09:39:00
丸楠 恭一 @meisterm_msp

13)むしろ、成果が上がるかどうか分からないものにこそカネをつけるべきなのだ。非エリート校に隠れる逸材に投資してもいいし、日本文化関係学部を助成してもいい。それは、実用化までに多大の困難を要する基礎科学への助成を強化すべきという自然科学界の要求と、本質的に同じなのだと思う。

2012-12-13 09:40:00
丸楠 恭一 @meisterm_msp

14)そういう助成が社会的に許されないのなら、行政は何もせぬほうが良い。失うものが少ない若者は、ほっておけばリスクを採るのだ。そして、実業界は新卒一括採用を今すぐ止め、多様な経験を持つ人材を適宜採用する方向に転換せよ。世界で活躍する人材など10年で大量発生するはずだ。

2012-12-13 09:41:16
丸楠 恭一 @meisterm_msp

付言。海外で活躍する日本女性が多いことを「女性は元気だ。環境変化に強い」などとよく言うが、「日本では女性が能力に見合わぬ利益しか受けられないからリスクをとる抵抗が相対的に小さい」と単純に考えるべき。私はいわゆるフェミニストではないが、女性の正当評価なくして日本の再生なしとは思う。

2012-12-13 10:13:22
丸楠 恭一 @meisterm_msp

もう一つ付言。日本におけるヒエラルキーの頂点が東京であるのなら、恐らく「グローバル人材」は東京以外から相対的により多く発生する可能性が高い。東京の住人に比べて、世界に出て行く費用便益効果が高いからだ。学部学生たちよ、胸を張って前に進もう!

2012-12-13 10:22:24