山本七平botまとめ/【恐ろしい話③】/「人はパンのみにて生くるにあらず」の真の意味とは/~人は何によって語られた言葉(レーマ)で生きているのか?それを知らないで生きる恐ろしさ~

山本七平著『無所属の時間』/もっと恐ろしい話&一番恐ろしい話/75頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】【もっと恐ろしい話】非経済的なドライブが経済まで波及すると、「もっと恐ろしい話」になる。 そしてそれを非常に短く要約し、一つの「公式」のようにまとめると、ナチのダッハウ収容所のようなことになる。<『無所属の時間』

2012-12-22 10:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

2】ダッハウはナチ強制収容所第一号で、後のあらゆる収容所はここを模範にしてつくられ、ここで訓練された者がその運営にあたった。

2012-12-22 10:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

3】この収容所は、ユダヤ人には関係なく、ドイツの神学者・牧師・神父を入れて”処理”するところ、有名な神学者マルチン・ニーメラーもここにおり、後にはロシア人やポーランド人も入れられ、日本人の神学生も一人”処理”されているという。

2012-12-22 11:27:59
山本七平bot @yamamoto7hei

4】ナチがこの収容所をつくった動機は、もちろん経済になく、山崎正和氏のいわれる「単純な物質欲よりも」「もっと恐ろしい」「思想的使命感」に基づく神学者・牧師・神父への”処理”機構として建てられた。

2012-12-22 11:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

5】ドイツ文学者小塩節教授が「ミュンヘンの裏町で」『信徒の友』所載)というエッセイで、その状態を実に的確に描写されているから、次に引用させていただく。 《この美しい町(ダッハウ)をはずれ、東の方へニキロほど行った森のむこうの沼地の中に、ナチがつくった強制収容所があるのです……

2012-12-22 12:28:02
山本七平bot @yamamoto7hei

6】戦争中の収容所の火葬場がまだ建っています。 消毒室と準備室を通ると、三番目の部屋がガス室になっていて、うすぐらい室内は煉瓦の壁を白く塗ってあります。 裸の人間をギュウギュウ詰めに(日本の国電のように!)すると、三百人ほど入ったでしょう。

2012-12-22 12:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

7】天丼に小さなスプリンクラーの様な物があります。そこからチクロンBガスを噴出させたのです。 立ったまま死んだ人を、隣室のドアをあけて一体ずつもぎとる様に引き倒し、金歯など外して、大きなオープンの様な炉で重油をかけてゆっくり焼くと死体から石鹸用の脂と肥料になる灰とがとれました。

2012-12-22 13:28:04
山本七平bot @yamamoto7hei

8】何もかもが如何にもドイツ的です。 囚人一人につき、最低の食費や木靴代、衣装代、毒ガス代に焼却用の重油代まで計算した書類には、逆に囚人から没収して国庫収益となる現金、金歯および強制労働による生産、屍体からとれる脂代と肥料代まで計算してあって、(続

2012-12-22 13:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

9】続>差し引き国にとってのプラス(黒字)は二千マルクなり、などと書いてあります。》 小塩教授は、同じ残虐事件などといっても、日本人とドイツ人の行為が全く異質であることを指摘し、同時に、自民族の過去の行為に対する対し方も全く違うことを、実例をあげて詳細に記しておられる。

2012-12-22 14:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

10】彼らはカーッとなって頭に来て、無我夢中で何かを仕でかしてしまったという形の、戦争中の、そして今も本質的には少しも変わらない日本人とは全く違う。 まず思想が先行し、それが冷徹な計算で裏打ちされ、ついで経済性まで追求され、そして正確に記録され、かつそのままに残しているのである。

2012-12-22 14:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

11】彼らは日本人のように、終戦時にまたカーッとなって、あわてて全書類を焼き棄ててしまう、といったこともしない。

2012-12-22 15:27:57
山本七平bot @yamamoto7hei

12】【一番恐ろしい話】ダッハウは恐ろしい。だが、もっと恐ろしい話がある。 「人はパンのみにて生くるにあらず……」 この聖書の言葉は、今では知らない人がいないほど著名な”格言”になった。 だがこの言葉の引用法を見ると、全ての人がこの言葉の意味を取り違えているように思われる。

2012-12-22 15:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

13】先日もラジオである評論家が「”人はパンのみにて生くる者にあらず”ですからねぇ、経済成長一点ばりはいけませんよ」というような事を言っていた。 多くの人がこのような意味に使うが、それでは「人はパンだけで生きてはならない、精神的なものを無視してはならない」の意味になってしまう。

2012-12-22 16:28:03
山本七平bot @yamamoto7hei

14】だが原文にはそういう意味はない。 第一この原文は「人はパンだけで生きてはならない」という″格言″ではなく、「人はバンのみにて生きている者でない」という事実を、一つの事実として記しているのである。

2012-12-22 16:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

15】家畜は「草のみにて」生きているかもしれない。 しかし人は、たとえ本人が如何に努力しても「パンのみにて」生きて行けない存在だと言っているのである。 そして、この世界における「最も恐ろしいこと」は、人がバンだけでは生きて行けないという事実にある。

2012-12-22 17:27:59
山本七平bot @yamamoto7hei

16】それと比べれば、ほかのことは、すべて、たいして「恐ろしい話」ではない。 パンだけで生きていれば、ダッハウは存在しない。 ダッハウを存在さすために、ドイツ人は急速にパンを失っていく。

2012-12-22 17:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

17】それでも次から次へとダッハウが生まれていく。 そして屍体一体につき二千マルクの黒字だといったような経済性まで付与していく。 「人はパンのみにて……」は、イエスが大衆に語った訓言ではなく、荒野で、ただ一人サタン(悪魔)と対決したときの、悪魔への言葉である。

2012-12-22 18:27:58
山本七平bot @yamamoto7hei

18】直訳すれば「人はパンのみにて生きず」だが、では一体何で生きているのか。 続く言葉は「全てのレーマで生きる」である。 レーマとは「言われた事」の意味。ただしサタンよ、そのレーマは「神の口を通して出たレーマ」だ、お前の口を通して出たレーマではない、で、この句は結ばれている。

2012-12-22 18:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

19】非キリスト教徒は、最後の言葉を無視してもよい。 しかし「人はパンのみにて生くるにあらず、全てのレーマで生きる」ことは、誰も否定できまい。 言われたこと、書かれたこと、語りかけられたこと、読まされたこと、で生きていることは――。

2012-12-22 19:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

20】では一体われわれは「誰の口を通して出たレーマ」で生きているのか。 われわれがそれによって生きている「語られたこと」は、一体全体、誰が語ったのか。 どこの″神″の口を通して出たのか――。 誰も明確には答え得まい。

2012-12-22 19:57:39
山本七平bot @yamamoto7hei

21】そしてそれを究明せずに、どこの口を通して来たかわからぬ言葉で、平気で生きて行けるのがわれわれなのである。

2012-12-22 20:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

22】そして私は思う。 「一番恐ろしい話」は、おそらく「どこの口を通して来たかわからぬ言葉」で生きていることであっても、その言葉が何かを引き起こした時の様々な残虐事件そのものではない。

2012-12-22 20:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

23】さらに恐ろしいことは、何かが起こったときの、その情景描写はあっても、それが「どこの口を通して来た」言葉によるかを、だれも究明しないことであろう。 私は一人一人に聞きたい。 「あなたが、それによって生きている言葉は、だれの口を通して出た言葉か」と。(終)

2012-12-22 21:27:58