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ねこや堂
@nekoyadou
ジリッ、ジリッと何かが迫ってくる気配に魚正の親父は身構えた。ふと見ると電柱の影に猫が居る。額に傷を負っていた。親父は黙ってサンマを一匹放り投げた。「あんた、今サンマは高いんだよっ」「いいんだよ」女房を片手で制す。親父は裂けた耳の傷跡を撫でて呟いた。「俺にもあんな頃があったんだ」
2010-08-30 14:36:47
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家
@t_ranzo
猫が死んだ。息子が髭を抜いてから調子が悪かったのだ。そのせいとは思いたくないが、ふらふらと道路に出たのは間違いない。十六にもなってと叱ったが何処吹く風だ。その夜、家中に息子の絶叫が響いた。「髭が」と呻き、顔を押さえ踞る。両手をこじ開け確認すると、眼球から何本も猫の髭が生えていた。
2010-08-31 14:10:50
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家
@t_ranzo
生まれたての子猫だが、これ以上生き物は必要ない。妻に知られると面倒だが、幸い定期健診に向かった。帰宅した妻には、目を離した隙に逃げ出したとでも言えばいい。ダンボールに詰め、川に流した。しばらく号泣し、妻は諦めがついたらしい。夜中、子猫の声がした。それは、妻の腹から聴こえてきた。
2010-09-01 14:28:03
ねこや堂
@nekoyadou
「旦那様」枕元で妻の声。見れば、這い蹲るように頭を畳に擦り付けている。「暇乞いに参りました」妻は此処暫く寝付く日々が続いていた。「もはや人型を取る事も叶わぬ身となります故」妻は顔を上げない。「どうかお元気で」慌てて身を起こす。既に妻の姿はなく、後には白く長い髭が一本残されていた。
2010-09-01 23:23:29
ねこや堂
@nekoyadou
恋人が事故で死んで悲しいのね。でもアイツは悪い奴よ。あなた以外に女がいたの。それなのに当然て顔で膝枕してるアイツが許せなかった。だからアイツの車の前をよこぎったのよ。ハンドルを切り損ねたのは自業自得。この膝はアタシのものよ。いつでもあなたを守ってるわ。アタシの大事なあなた。
2010-09-03 00:36:58
ねこや堂
@nekoyadou
カノジョから一方的に別れを告げられた。トレードマークの赤いチョーカーと同じ色の唇が開く。「さよなら」どうしても納得が行かない。後を追うと、路地裏でカノジョの姿が消えた。足元をスルリと何かがすり抜ける。青く滑らかな天鵞絨の肢体。「やっぱり無理だわ」赤い首輪を揺らし、猫は走り去った。
2010-09-05 10:03:35
ねこや堂
@nekoyadou
「ニャーオ」「ニャーン」あなたがおいらの顔を見ながら、鳴き声でおいらの気を引こうとしている。「なあぁん」あなたの顔が愛おしそうにおいらを見るから、おいらも尻尾を立てながら返事する。おいらの人語はあなたの猫語よりはマシだけど、喋れない振りして喉を鳴らす。今がおいらの至福の時間。
2010-09-05 16:45:56
ねこや堂
@nekoyadou
「ごっくんしてー」苦いから嫌い。点滴も嫌い。でもあなたが頑張れと言うから我慢する。足が立たなくてごめんね。寝たきりでごめんね。猫又になり損ねてごめん。もう少し。あと少し。あなたと居たい。だから頑張る。ちょっと眠いけど大丈夫。少し寝たら起きるから頭を撫でて。尻尾で返事、するからさ。
2010-09-07 19:12:56
ねこや堂
@nekoyadou
「死んでねぇよ、俺は。少しばかり身軽にはなっちまったけどな」そう言って白黒ブチの猫は笑った。軽々と塀の上に飛び乗って、茶トラと雉トラをギロリと睨む。相変わらず眼光も鋭い。「おめぇらが争ってるうちは、後を任せる訳には行かねぇ」流石はボスだ。幽霊になっても、やっぱり誰もかなわない。
2010-09-07 23:20:49
ねこや堂
@nekoyadou
本日の議題 １．二丁目の昼寝場所の優先順位。年功序列の徹底。２．魚正からの公園居住者への食料援助の申し出について。３．転入者の宿泊場所または養い親ならびに住居の確保。４．一丁目の御隠居の猫又昇格祝いの目録作成と予算。 ※注意 会議中の居眠りと猫じゃらしは禁止。 記録者 磯野タマ
2010-09-08 00:12:23
ねこや堂
@nekoyadou
一目見て惹かれた。気まぐれに入った画廊の奥、ひっそりと置かれた黒猫の絵。ほんの少し小首を傾げ、不思議そうな顔をしている。幾分笑っているようにも見えた。「それ、お気に召しまして？ 」振り向くと、長く真っ直ぐな黒髪をした女性が穏やかな笑みを浮かべて立っている。絵の中の猫と同じ顔で。
2010-09-08 01:33:58
ねこや堂
@nekoyadou
「どこにいるのかしら」必死の形相で女は何かを探している。あれほどはぐれないよう言ったのにとそう呟きながら。不意に傍らの排水路から鳴き声が。見れば、掌に乗るくらい小さな子猫がいた。拾い上げて渡すと女はみるみる人型を崩し、子猫を咥えて植え込みへ消えた。一瞬、複数の鳴き声が重なった。
2010-09-08 03:11:21