ギルティ・オブ・ビーイング・ニンジャ #3

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ギルティ・オブ・ビーイング・ニンジャ」#3

2013-03-09 22:30:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

テングオメーンの男は濡れた岩の上を歩き、静かにオンセンに浸かった。銃器は携行していない。腹部のサラシにドスダガーが挿してあるが、これはヤクザならば当然のタリスマンであり、明白な殺人意図には繋がらないのだ。タタミ3枚の間合いを維持し、背を向けたまま、フジキドは相手の出方を窺う。 1

2013-03-09 22:40:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」男はフジキドの方を凝視したまま、押し黙っている。重々しい沈黙が、露天風呂を支配する。染み入るようなバイオミミズクの声と、虚無僧の吹き鳴らすシャクハチの音が遠くから聞こえ、シシオドシ音が鳴った。一触即発のアトモスフィアを察し、髑髏めいた月は曇天に隠れ目を覆っていた。 2

2013-03-09 22:47:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、ヤクザ天狗です」天狗面の奥で、サイバネアイの発する光が赤く無表情に明滅した。「ドーモ、ヤクザ天狗=サン、ニンジャスレイヤーです」神秘的な湯煙をかき分け、フジキドが振り向く。彼の顔は一瞬にしてニンジャ頭巾とメンポに覆われていた。フシギ! 3

2013-03-09 22:55:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

両者の肩から下は幻想的な白い湯に包まれている。間合いを保ったまま、二者は睨み合った。ニンジャスレイヤーは復讐者の目。ヤクザ天狗の目の穴の奥は、底なしの狂気の暗黒のようであった。岩陰でトグロを巻いていたバイオマムシが鎌首をもたげてシュッと鳴いた後、怯えたように闇に消えていった。 4

2013-03-09 23:03:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヤクザ天狗=サン、オヌシは死んだものと思われていたが……」ニンジャスレイヤーが先に仕掛ける。彼はヤクザ天狗に対し、幾らかのリスペクトを抱いていた。ニンジャスレイヤー誕生前からソウカイヤに戦いを挑んでいた孤高のニンジャハンター……その伝説は当然フジキドも聞き及んでいたからだ。 5

2013-03-09 23:12:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ニンジャが天に向かって両手を突き上げると、大地は三日と三晩のあいだ暗黒に包まれ、ファラオはニンジャにドゲザした……」ヤクザ天狗は直ぐには対話を行わず、自らが考案したニンジャソウル除けのモージョーを呟いた。そしてオメーンの奥で咳をし、答えた。「……お前も死んだものと……」 6

2013-03-09 23:20:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは確かな狂気を嗅ぎ取り、わずかに困惑した。ハッカードージョー、違法スモトリ養成所、地下ヤクザカジノ……ソウカイヤとの戦いの中で彼らは何度かニアミスを行ったが、その度に二者の運命は擦れ違った。これが初めての対話であった。「何故この岡山県に?」フジキドが問う。 7

2013-03-09 23:29:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ジャンボジェットに乗った神々が地上に声を投げかけ、ピンク色の光で私を聖戦に導く……過去の罪業を洗い流すのだと……」ヤクザ天狗が返した。「……」ニンジャスレイヤーは押し黙った。再度の沈黙。天狗の赤い鼻先は、赤漆塗りのピストル銃口めいてニンジャスレイヤーの眉間を見据えている。8

2013-03-09 23:39:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……マレニミル社」不意に、ヤクザ天狗はその名を呟いた。「スミマセン、今何と?」復讐者は眉根を寄せ、その聞き慣れぬ社名を問うた。「……ニンジャはファラオの胸ぐらを掴んで起こし、長子に死の呪いをかけたが、長子が女の場合は見逃しネンゴロにすると言った……」ヤクザ天狗は咳き込んだ。 9

2013-03-09 23:47:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……すまんな、本当にすまん」ヤクザ天狗が告解する「私がお前たちを解き放った。私の敵はソウカイヤではない。全ニンジャだ。地はニンジャに溢れ、ヤクザは信仰心を失いドネートは滞る。お前たち全てをジゴクへ送り返し、最後にフジオ・カタクラと妖刀を投げ落としてゲヘナの蓋を閉じる……」 10

2013-03-10 00:00:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヤクザ天狗は咳き込んだ。その光景はさながら、悪霊に挑むエクソシストめいていた。だがどちらが悪霊でどちらがカンヌシかは、常人にはにわかに判別できぬだろう。「……フジオ・カタクラ……」思いがけぬ名を聞き、フジキドのニューロンがざわついた。胸の奥にわだかまる黒い炎が、熱を帯びる。 11

2013-03-10 00:07:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……またの名をダークニンジャ」ヤクザ天狗がその呪わしき名を告げる。(((……フジオを呼ぶぞ!フジオ!今すぐ来い……!)))トコロザワピラーで聞いた少年の声がフィードバックする。「……ダークニンジャは、滅びた」ニンジャスレイヤーが押し殺した声で言う「妖刀と共に、キョートで」 12

2013-03-10 00:15:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「滅びた、だと……」ヤクザ天狗が押し黙る。明らかな動揺。この狂人の中で作り上げられた精密細工めいた歯車の一個が、不正動作を起こしたかのように。……動揺していたのは彼だけではなかった。フジキド自身もまた、自らの言葉ではありながら、宿敵の死に対して形容し難い疑念をおぼえたのだ。 13

2013-03-10 00:25:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ブッダエイメン!」ヤクザ天狗が叫ぶ!「滅びたはずが無い!仮に滅びたならば、何故私は贖罪の聖戦から解放されず、未だに……!」サイバネ義手をわなわなと震わせ、立ち上がる!その時!突如山中に謎のカラテシャウトとユカノの悲鳴が響き渡った!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「ンアーッ!」 13

2013-03-10 00:34:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((ユカノ!?まさかニンジャが!?)))ニンジャスレイヤーのニンジャ聴力は、その悲鳴を聞き逃すことは無かった!「シツレイする!」ニンジャスレイヤーはオンセンの白い湯を激しく撒き散らしながら、無作法に回転跳躍!傷だらけのその肉体は、瞬時に赤黒のニンジャ装束によって包まれた! 14

2013-03-10 00:39:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「Wasshoi!」ニンジャスレイヤーは灯篭と屋根を跳び渡り、硫黄の霧に満ちた山道へと着地する!そして着地からわずか0コンマ3秒!彼は前転から弾丸のように走り出し、悲鳴の聞こえた方角へ向かった!「これは……!」小規模な崖崩れが起こり、額にスリケンを受けたラマが死んでいる! 15

2013-03-10 00:49:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

果たしていかなるインシデントか!?ニンジャスレイヤーはニンジャ感覚を駆使し、瞬時に状況判断を行った!(((ラマに乗って散策に出たユカノは、少なくとも二人のニンジャに襲われ……攫われたか!)))彼は天頂を睨み、禁断の台地に続く斜面を駆け上がる!走れ!ニンジャスレイヤー!走れ! 16

2013-03-10 00:58:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」同じ頃、ヤクザ天狗も露天風呂を出て、脱衣場で戦闘態勢を整えていた。姿見鏡の前でフンドシを巻き、高性能サイバネ義肢をワイシャツと砂埃まみれの黒ヤクザスーツで覆い隠す。急いではいるが、決して粗雑な動きではない。彼の動作はミサに臨む聖職者のようなストイックさに満ちていた。 17

2013-03-10 21:16:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……聖戦の時……」微かなモージョーを唱えながら、スーツのボタンを留める。次いで、オレンジ色の大仰なバックパックが、その正体を露わにする。中に隠されていたのは背負い式のジェットパックだ。彼はそれを背負い、耳の後ろに開いた生体LAN端子へとLAN直結を行う。鈍い起動音が鳴る。 18

2013-03-10 21:23:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キューッ、キュイイイーッ!バックパックに収められた無線装置が甲高いハウリングを起こしている。これは嵩張り、重い。放置の判断を下す。役割は十分に果たした。「マサシの悟り」の市でフジキドたちのラマに付着させた盗聴発信器が、偶然にも、ニンジャスレイヤーの正体を彼に告げたからだ。 19

2013-03-10 21:29:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

赤漆塗りの二丁拳銃をLAN直結し、ジェットパックの左右にホールド。それから幾つかのガジェットを……生き残るために必要な最低限のガジェットを、バックパックからヤクザスーツに移した。それには奇妙なアミュレット、聖水入りの小瓶、コデックス装のマレニミル社業務日報などが含まれていた。20

2013-03-10 21:35:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ついに聖戦士出撃の準備が整った。だが……ここで、彼にしか解らないある種の不吉な予感が働く。彼は僅かに焦りながら、聖水入りの真鍮フラスコを胸元から取り出し、その蓋を外して臭いを嗅いだ。「……」穢れている……おそらく、そう判断したのだろう。彼は苦しげに首を振り、中身を捨てた。 21

2013-03-10 21:43:07