昔のDNAシーケンス法の思い出

次世代シーケンサーでヒトの全ゲノムを解読することが非常にたやすくなった今、それ以前の技術の思い出を語ってみて記録に残してみたいと思いました。特にDNA musicの話はそれとは関係なしに面白いと思います。
22
Jun Yasuda @jyasuda1

久しぶりにツイートする。今日は爺臭く昔話など。私が研究の世界に入って今度の4月で満22年になる。最初にやっていたのがDNAシークエンスの実験だった。

2013-03-22 21:54:06
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のシークエンス)当時はラジオアイソトープ標識によるサンガー法が主流で、いまだPCRも使用されていなかった。標識各種は32Pと35Sがあったがプロに愛好されていたのは35Sのほうである。その理由は35Sのほうがきれいに読めるからだ。

2013-03-22 21:55:49
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq2)今にして思えば32Pはエネルギーが強すぎてバンドが太くなったりとか、コントラストがつきすぎて薄いバンドを読むにはプライマーの近傍が読めないとかあったので、35Sのほうが良かったのだろう。昨日まで気管挿管とか心臓マッサージしかしてなかった私にはそんなことは想像外。

2013-03-22 21:57:58
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq3)35Sの問題点は、尿素入りのポリアクリルアミドゲルの尿素を抜く工程が必須だったこと。硝子板にゲルを張り付けたままメタノール酢酸の液につけるのだが、最後に引き抜くときにズルっとゲルがはがれてすべてがおじゃんになるのだ。

2013-03-22 22:00:52
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq4)この問題を解決するアイディアを思いつくすべもなかった。医師として駆け出しであった私は、習ってないことはしない、というルールで生きていたので、自分で工夫することなど想像外であった。それではこの業界で生きていくことは無理なのだが。

2013-03-22 22:02:30
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq4)まあうまくいったとしても、一枚のゲルではせいぜい5検体分しか乗らず、一回で150ベースがせいぜいなので、1枚のゲル板で0.7キロベースがせいぜい。しかも読み取りは人力である。丹念に一ベースずつ読んでいくのだ。

2013-03-22 22:06:38
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq5)しかもプライマーウオーキングという、当時としてはリッチなラボにしか許されていなかった方法でやっていたのだ。これは制限酵素地図に依存しないで読んだそばからプライマーを作って先を読んでいくのだ。このプライマーも手作りなのだ。

2013-03-22 22:08:23
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq6)ではそんなことができないラボはどうしていたのか。それは長いインサートの中で適宜に制限酵素で切断し、中身を抜いて再結合して、プラスミドのベクターの配列を利用してシーケンス反応をするのだ。

2013-03-22 22:10:31
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq7)今はプライマーというものは業者に注文するのだが、昔はDNA合成機で合成するのが普通だった。これがまた大変な作業で、反応系に水が入るとおじゃんなので、試薬を溶かすときには乾熱滅菌して完全に脱水したシリンジで有機溶媒を吸い込むのである。

2013-03-22 22:12:07
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq8)高価な試薬だったし、一回で数十本作れるくらいの量が1本のボトルにはいっているので、へたっぴいが調製するとそのあとのプライマーの収率が格段に落ち、多くの人に迷惑をかけるのだ。ものすごいプレッシャーである。作ってからも純アンモニア水で8時間55度で加熱するのである。

2013-03-22 22:14:32
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq9)最後にOPCカートリッジという核酸の精製用カラムで注射器を使って手作業でプライマーを回収するのだが、これがまたものすごく固い。4本も作ると半日パーになり、手がくたびれてそのあと何をするにもしんどいものである。

2013-03-22 22:17:15
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq10)さて、そのようにして苦労して無駄にゲルを失ったり、深夜までプライマー合成したり(これが機械もバカたれで入力がものすごくむずかしいのだ)、さんざん苦労して3か月もかかって1.5キロしか読めなかった。当時としても情けない記録である。

2013-03-22 22:20:40
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq11)さて、プライマー1本でどこまで読むかだが、長さ1メートルくらいのゲルで3時間くらい流すと150ベースあたりから300ベースあたりまでの150ベースを読むことができた。だからプライマーはだいたい300ベースに一つは作ることになる。

2013-03-22 22:23:13
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq12)反応系に耐熱ポリメラーゼが応用されたのは1991年の終わりころだろう(いわゆるサイクルシークエンス)。その直前に流行ったのはasymmetric PCRといって、シークエンスの鋳型鎖だけを選択的に増幅後、普通のポリメラーゼでシークエンス反応するものであった。

2013-03-22 22:28:37
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq13)自分にとって幸せだったのはこのasymmetric PCRをやらないうちにサイクルシークエンスが一般化したことだろう。成功率が20倍以上違ったように思う。

2013-03-22 22:30:04
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq14)塩基の読み取りも人力、ということだが、それなりに機械化されていて、赤外線センサーによる位置情報の読み取りで基本一人で読むことができた。その機器がなかったころは一人が声を出して読み、もう一人がそれを書き写すという超原始的なやり方で解読されていたのだ。

2013-03-22 22:32:04
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq15)さて、そのようなシーケンス原始時代に、そのあまりの退屈さをきっかけにしてDNA musicが生まれたらしい。この論文の著者の片方が、私の恩師の一人である。 http://t.co/EURrKUubJ9

2013-03-22 22:36:16
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq16)当時、塩基配列から音楽を作る、という驚くべきideaは多くの科学者に注目され、某加州で活躍していた大御所研究者(故人)がその筋では有名だった。自分はその故人が発案者だとてっきり思っていて、自分の恩師から「あれは俺ともう一人」と言われた時の衝撃は忘れられない。

2013-03-22 22:40:33
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq17)DNA musicというしゃれた考えを世界に向けて発信した人間の一人が、当時の日本人、それも毎日自分を怒鳴りつけている理不尽なまでに気の短いおじさんだ、というのは本当に衝撃だった。田舎者であった私にはほとんど恐怖に近いものがあった。

2013-03-22 22:49:01
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq18)最後に、マクサム・ギルバート法という技術をやったことのある人は多くはあるまい。私はそれに近い技術として核酸を化学的に切断して、DNAとタンパク質の相互作用を解析する実験もやったことがある。もはや天然記念物並みの世界のはずだ。

2013-03-22 22:52:53
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq19)5年くらい前に、大学院出たてのポスドクの人にラジオアイソトープでのシークエンスラダーを見せて「これがなんだかわかるかい?」と聞いたら「なんですかこれ?見たこともないし想像つかないです」という答えを聞いたときの驚きも格別であった。

2013-03-22 22:55:01
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq20)そういえば日本の研究者がシークエンスロボットというものを開発してファルマシアから売りに出した時、恩師が買い込んだ。私がそれをマスターして使うことになったのだが、残念なことにチップがすぐに落っこちて仕事にならなかった。

2013-03-22 23:22:57
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq21)後年この機械が日本で開発されたことをきっかけにJim Watsonが議会を説得してヒトゲノムプロジェクトが始まったと知った。サイクルシークエンスもできないし、まともにチップもつかめない時があったことをワトソンは黙っていたに違いない。

2013-03-22 23:24:48
Jun Yasuda @jyasuda1

(昔のSeq22)最後に、今や次世代シーケンサーの主流はPCR freeだそうだ。なにか先祖帰りをしているようにすら思えてならない。

2013-03-22 23:26:33
Jun Yasuda @jyasuda1

@jyasuda1 この問題は確か濾紙をゲルに裏打ちしてからメタノール酢酸につけるようにしてから失敗しなくなった。これはマニュアルに書いてあったわけではなかったように思うが自信はない。少なくとも、習ったことではない.

2013-03-23 15:28:00