ダークサイド・オブ・ザ・ムーン #2

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(「ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」#2続き

2013-05-06 22:42:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(あらすじ:ニンジャスレイヤーとナンシー・リーは、事件記者ホダムラ・タメイチの手記をもとに、謎のニンジャ電波事件を追ってドサンコ・ウェイストランドへ。第165コロニーに向け雪原装甲車を走らせる二人。だが次なるインタビュー予定者、自我科女医スザリンド・オノの所には謎の訪問者が…!)

2013-05-06 22:46:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ、どちら様ですか?」閉ざされたドア越しにスザリンドが問う。「「「「我々はデッカーです」」」」黒尽くめの四人の男はクローン人間めいた統一感でそう告げた。彼女は反射的に書斎に逃げ戻った。タメイチが去り際に残した警句「メン・イン・ブラックに注意せよ」がコトワザめいて蘇った。21

2013-05-06 22:46:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「警備員かマッポを……」スザリンドは書斎に駆け戻り、ワータヌキ電話に向かう。だが激しいノイズ。机の上の3Dボンボリモニタの文字も、判然としないほど荒れている。磁気嵐とは全く性質が違う。「何これ……?」彼女がハッカーならば、それが攻撃的ジャミングであることに気付いただろう。 22

2013-05-06 22:57:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

LAN直結が危険である事を直感的に悟った彼女は、震える手で壁のカケジクをずらし、隠されていた防犯ボタンを押す。三段階の鋼鉄扉が閉まり、書斎を完全防御した。「ハァーッ……ハァーッ……」スザリンドは安堵の息を吐いて、本棚の横に腰を下ろす。腰が抜けたと言ったほうが正しいだろう。 23

2013-05-06 23:11:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この部屋はかなり堅牢だ。グリズリー軍団や暴徒によるコロニー襲撃という最悪のケースも想定しているので、いざとなれば数日は耐えられるし、食料の備蓄もある。だがまさか実際使う事になろうとは……。スザリンドはリラックス成分入りの細葉巻を咥え、ライターを擦ろうとしたが上手く行かない。 24

2013-05-06 23:21:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ちょっと」スザリンドが手招きすると、オイランドロイドが左右に寄り添って正座し、片方がライターを擦った。「フゥーッ……」彼女は煙を吐く。遥かに良い。「不安だったのよ。解るでしょ?落ち着いてきた……。ちょっとパニックになっちゃった。でももし、あれが本当のデッカーだったら……」 25

2013-05-06 23:26:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「私ずいぶん滑稽じゃない?それどころか、犯罪者めいてないかしら?でもいいわよね、もし本当のデッカーだったら、あの事件記者が死んだ事を伝えて、不安になったって言えばいいから……」スザリンドは早口で呟く。「そうですよ」「問題がないです」オイランドロイドが頷き、あいの手を入れる。 26

2013-05-06 23:30:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その時不意に、片方のオイランドロイドが引きつけを起こしたように震えた「ピガガーッ!」そして立ち上がり、周囲を見渡して、装甲扉の開閉レバーに向かって歩き出す。「ちょっと……!止まりなさい!ハウス!ハウス!」スザリンドが叫ぶ。「……」オイランドロイドは無言でガラスを叩く。 27

2013-05-06 23:41:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

恐怖がスザリンドのニューロンを加速させる。彼女は咄嗟に、隣に寄り添う弟ドロイドに命じた。「室内用の無線LAN装置を切って!」「ハイヨロコンデー」弟ドロイドは立ち上がり、机の上のLAN装置を停止させた。「ピガガーッ!」レバーに手をかけていた兄ドロイドが機能障害を起こし倒れる。 28

2013-05-06 23:48:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ハッカー?ハッカーが攻撃を仕掛けてきたっていうの……?」スザリンドは兄ドロイドのもとに這い寄って、そのあどけない無表情を見つめた。「一体、この事件にどんな組織が関わってるっていうの……ブッダ……もうこの事件の事は忘れます……忘れますから……!」スザリンドは神に祈った。 29

2013-05-06 23:57:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その時……おお……ナムアミダブツ!彼女は見てしまった。この世のものとは思えぬ超常現象を!向かいの壁に突如光の切れ目が入ったかと思うと、それはあたかも回転ドアのごとく、廊下側から押し開かれたのだ!「アイエエエエエエエエ!」スザリンドは絶叫する!そして侵入してくる謎のニンジャ! 30

2013-05-07 00:05:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「抵抗は無意味である。このジツが私の専門分野です」フルフェイスヘルメットを被った電子音声ニンジャが、ロボットダンスめいた歩き方で迫る!コワイ!「私は疲れますが、固定の物理的な壁が回転ドアに変更されます。 ただしこの物理的な強度廃棄物および感情的な強さは、ほとんどありません」 31

2013-05-07 00:13:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

重度のIRC自我障害を思わせる不自然な言語が、このニンジャの異常性を際立たせていた。「アイエエエエ!ニンジャ!ニンジャナンデ!?」スザリンドはなす術も無く失禁する。「ドーモ、スザリンド=サン、私の名前はノーハイドです」ニンジャはヘルメットの内側を青白く発光させアイサツした。 32

2013-05-07 00:24:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ノーハイドの背後でドンデンガエシ化した壁が閉じる。光っていた継ぎ目も消え去った。侵入者はもう一人いた。「心配しなくてもいいですよ……すぐに済みますからね」スーツにコート姿のその男は、不気味なほど穏やかな声を発した。清潔感のある丸刈りの髪。首から下げたモデストなアクセサリー。 33

2013-05-07 00:34:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

スザリンドはすがるように弟ドロイドを見る。侵入者撃退システムが搭載されている筈。だが彼はノーハイドによって機能停止させられていた。「貴女は少し知り過ぎた……」サイバーサングラスをかけた男はスザリンドの耳元で静かに囁き、己の首筋にある違法生体LAN端子からケーブルを伸ばした。 34

2013-05-07 00:47:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その美しいコーカソイドの女は、新緑色のツタに覆われた石造りの神殿を歩いていた。穏やかな夢。せせらぎの音。美術館めいて飾られた大きな絵画や彫刻の数々。モナ・リザ……聖アントニウスの誘惑……受胎告知……東方三博士……ウタマロ……絶滅して久しいフラミンゴたちが数羽、その間を歩く。 35

2013-05-07 00:59:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーは一枚の重厚な油絵の前で立ち止まる。厚手のガウンを着込んだ男が描かれている。薄暗い部屋でソファに腰掛けている。背後にはUNIXモニタが何台も。絵の題名は「ハッカードージョー」。彼女は男が首から提げたアクセサリを忌々しげに睨んだ。それと同時に、ナンシーは車内で目覚めた。36

2013-05-07 01:07:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「…どのくらい寝てた?」ナンシーが気怠そうに言い、白い毛皮コートの中に首を埋める。「30分ほどか」イチロー・モリタが返す。前方の吹雪の中からヘッドライトの灯りが近づく。対向車線を走る黒い雪原仕様キャデラックが白い闇の中から現れ一瞬で擦れ違った。それは砲弾のように走り去った。 37

2013-05-07 22:56:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーのニンジャ視力は、対向車を運転するサイバーサングラスの男をスモーク窓越しに捉えたが、それ以上の不審な点は見受けられなかった。「あとどのくらい?」ナンシーが前方のコロニーの灯りと不吉なオーロラを見ながら問う。近づこうとしても近づこうとしても、まだ距離がある。 38

2013-05-07 23:03:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あと10分ほどだ。予定時刻はとうに過ぎた」その言葉には微かな苛立ちが重点されている。前のコロニーを出た直後にマグロ運搬コンボイが転倒事故を起こし、彼らは思わぬ足留めを食ったのだ。「眠くない?」「カラテトレーニングを兼ねている」彼は座席から腰をワンインチ浮かして運転していた。39

2013-05-07 23:15:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーは隣に座る男がニンジャであることを再認識した。自分とは別種の、遠く隔たった存在であることを。復讐と殺戮のために生まれた存在であることを。では自分は常人だろうか?彼女は内省する。かつてはそうだった。やがて電子の空とエーテルを飛翔する精神の力を得た。そして翼を失った。 40

2013-05-07 23:26:36