ねこのこと｜「竹の子書房版アタゴオル」（仮）｜発案：加藤一｜本文募集中｜表紙：募集中｜

とよね @Toyo_ne

@ts_p [4]しかしお部屋に閉じこめても、かわいい文鳥に恋こがれるヒコにゃんの慟哭はとまりません。それは聞けば聞くほど悲しく切実で、こころが八つ裂きにされるような痛みに満ちていました。さすがの福にゃんも不憫になって、呟きました。「あんなに泣くなら買ってあげてもいいかしら……」

とよね @Toyo_ne

@ts_p [5]その時です。福にゃんとおはぎにゃんの周りで一切の物音が消えました。風にそよぐ夏草の音が消えました。遠くで遊んでいた女の子たちのはしゃぎ声も消えました。ヒコにゃんの泣き声も消えました。こんなに晴れているのに窓の外が僅かに暗くなり、寒気がふたりを包みます。

とよね @Toyo_ne

@ts_p [6]一体なんだろうと、ふたりは顔を見合わせました、窓の外をそっと覗いても、誰の姿も見えません。――いいえ、村の中央のほうから、何かが歩いてきます。それが二足歩行しているので、ふたりは最初、人間かと思いました。時折人間の世界から迷いこんでくる者がいるからです。

とよね @Toyo_ne

@ts_p [7]それは確かに人間に似ているのですが、近付いてくるにつれ全く別のものだと分かりました。それは、人間の頭があるべきところが、大きな桜文鳥の頭になっていました。二本の脚は鳥の脚。白い半袖シャツの袖からは、灰色の翼が伸びています。

とよね @Toyo_ne

@ts_p [8]その生き物は桃色の大きな嘴をまったく動かさずに、歌をうたっていました。「♪あっそ～れ文鳥、文鳥、パ・タパ・タパ　♪文鳥、文鳥、パ・タパ・タパ」歌にあわせて手をふり腰をひねり、踊りながら歩いてきます。福にゃんもおはぎにゃんもぞっとして、窓から身を隠しました。

とよね @Toyo_ne

@ts_p [9]鳥人間がふたりを見向きもせずに通り過ぎていったのでほっとしていると、部屋の戸が開いてヒコにゃんが姿を見せました。さっきまで泣いていたとは思えないほど落ち着いています。そしてヒコにゃんが、厚い唇を開いて歌いだしました。「♪あっそ～れ文鳥、文鳥、パ・タパ・タパ」

とよね @Toyo_ne

@ts_p [10]ヒコにゃんは鳥人間とまったく同じ動作で踊りながら、玄関を開けて通りへと出て行きます。「ヒコにゃん！！」福にゃんもおはぎにゃんも慌てて追いかけて、ヒコにゃんにすがりつきました。「♪あっそ～れ文鳥、文鳥、パ・タパ・タパ　♪文鳥、文鳥、パ・タパ・タパ」

とよね @Toyo_ne

@ts_p [11]ふたりがしがみついているにも関わらず、ヒコにゃんは涼しい顔で鳥人間を追いあるいて行きます。「♪あっそ～れ文鳥、文鳥、パ・タパ・タパ　♪文鳥、文鳥、パ・タパ・タパ」「もうやめて、ヒコにゃん！　もうヒコにゃんにひどいこと言わないから！」

とよね @Toyo_ne

@ts_p [12]泣き出したおはぎにゃんも福にゃんも、もっと異様な気配をうしろに感じてふり向きました。すると――ああ、何ということでしょう。村じゅうの猫たちが歌って踊りながら、無表情について来ているではありませんか。「♪文鳥、文鳥、パ・タパ・タパ　♪文鳥、文鳥、パ・タパ・タパ」

とよね @Toyo_ne

@ts_p [13]鳥人間は村を出て、ついに溜め池まで来てしまいました。このままでは池に引き込まれてしまう……。と、二人に引っ張られて転んだヒコにゃんが我にかえりました。きょとんとしているヒコにゃんに見送られ、鳥人間は溜め池へとためらいなく入っていきます。

とよね @Toyo_ne

@ts_p [14]あとに続く村の住民たちも、そのまま溜め池に入って行きます。「♪あっそ～れ文鳥、文鳥、パ・タパ・タパ　♪文鳥、文鳥、パ・タパ・タパ」教会の牧師さんも、学校の先生も、お隣さんも、お店やさんも、みんな池に頭までずぶずぶと浸かり、見えなくなりました。

とよね @Toyo_ne

@ts_p [15]それにつれて合唱の声も小さくなります。池からは誰もでてきません。福にゃんとヒコにゃんとおはぎにゃんは、なす術なく座りこんでその様子をみていました。「♪文鳥、文鳥、パ・タパ・タパ　♪文鳥、文鳥、パ・タパ・タパ」やがて最後のひとりが池に消え、歌は完全にやみました。

とよね @Toyo_ne

@ts_p [16]さんにんはそのままじっと、誰か池から出てくるのを待ちました。太陽がかたむき、空が暗くなって、夜がふけやがて真夜中になりましたが……溜め池からはもう二度と、誰も出てきませんでした。

とよね @Toyo_ne

@ts_p かわいい小鳥さんに恋こがれるヒコにゃんのメルヒェンストーリー、これで終了です。お目汚し失礼致しました。今後ともよろしくおねがいします。 #tknk