「絵が先」 (無題) - BL向けイラスト 絵:芳賀沼さら
- takenoko_madori
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@ts_p 腰のあたりにあたった進藤の太腿は、驚くほど熱い。 こんな僕を求めてくれている、と思った。 先程の吐精で濡れた僕の腹の上から、進藤がぬめりをすくう。 そのまま後ろを探られてビクンと背筋が反り返った。 「ごめんな…」 けれど行為が止められることはなかった。
2011-05-23 11:26:04@ts_p体内に侵入した指が、内部をゆっくりと走査する。 なじまない感覚に、じわりと涙がにじむのを感じる。 けれどやめてほしいとは思わなかった。 触れられていれば、一人ではないと実感できる。 すべてを亡くしたのではないと…偽ることができる。
2011-05-23 11:26:29@ts_p 指を抜かれて脚をかかえられたときは、ただほっとしただけだった。 かすかな痛みだけでは狂うには足りない。 すべてを押し流すような、圧倒的な何かが欲しかった。 それが苦痛でも、快感でも。 そして進藤は、それを与えてくれる。 僕を犯そうとする熱は、容赦なく心まで蹂躙する。
2011-05-23 23:39:50@ts_p 穿たれる痛みにきつく目を閉じた。 悲しみに沈もうとする僕を、無理矢理に引き上げる痛み… 進藤は僕を気遣ってか、じわじわと腰を入れる。 けれど、もっとひどくして欲しかった。 だから自分からキスした。 どうか進藤のいたわりのたがが外れるようにと祈りながら。
2011-05-23 23:40:16@ts_p 驚いたように、進藤の動きが一瞬止まる。またあの顔だ、と思った。 僕の何がそんな顔をさせているのかと思う。 けれどその思考を破るように激しく揺さぶられて、もう何も考えられなくなる。 突き上げられながらこめかみのあたりにくちづけを感じた。
2011-05-23 23:40:46@ts_p 誘われたように目を開けると視界がぼんやりと歪んでいる。けれどこれは感情が流させる涙ではない。 いま僕の中にあるのはすべてが進藤にもたらされたものだ。 短く継がれる進藤の呼吸に、彼の遂精が近いのを知る。 その瞬間、あの感情が胸の中に溢れるのを感じた。
2011-05-23 23:41:14@ts_p くすぐったい、切ないような感覚。この気持は進藤だけのものだ。 それを伝えたくて進藤の頭を胸に抱いた。 いま僕を満たしているのは、痛みではなくこんなにも幸せな気持ちだと…
2011-05-23 23:41:40@ts_p 雨上がりの風は緑の匂いも鮮やかに僕たちを包む。 苑子さんの帰天からひと月あまり、僕と進藤は小高い丘の上のカトリック墓地に、彼女を訪ねていた。 雨に洗われた墓碑は陽光のもとで白く輝き、死者の家というよりも、残されたものの思い出のためだけに存在しているように思える。
2011-05-24 20:07:54@ts_p あの日、苑子さんに捧げることのできなかった祈りも、今なら唱えられるだろう。 祈りの言葉はとうに忘れてしまったけれど、言葉よりも大事な想いはいまも心の中にある。 僕は苑子さんと過ごした最期の日々を、何ものにも汚されたくないと思っていた。
2011-05-24 20:08:20@ts_p それがどんなに困難なことでも一生、ひと欠片も残さずに憶えておこうと。思い出は甘く、囚われて離れがたく、僕一人ではそこから抜け出すことはできなかっただろう。 けれど進藤はそばにいてくれた。 僕が自分の心と折り合いをつけようともがくあいだ、その手を離さずにいてくれた。
2011-05-24 20:08:42@ts_p 苑子さんと進藤は、なにひとつ重なることのない二人でいながら、同じように僕を導いてくれた。 前を見て、少しずつでも進むようにと… 「ほら、これ」進藤が僕の前に百合の花束を差し出す。苑子さんが愛した花。 僕が苑子さんのために贈った花。 最後に苑子さんのために捧げられた花…
2011-05-24 20:09:11@ts_p 墓碑の前に献花された白百合は、様々に想いを運ぶ。 それは心地良いだけではなかったけれど、僕にとってはすべてが必要なものだ。 だから僕は、すこしのあいだ眼を閉じて祈る。 その子さんのための、鎮魂の祈りを。 祈りに沈黙する僕の頬に何かが触れた。
2011-05-24 20:09:40@ts_p 見ると、進藤の手にはすいかずらの花が摘まれていた。妖艶で濃厚な香り…摘まれるとすぐに萎れてしまう花は、それでも最後にその香りを残す。人を癒し眠りに誘う香りは、ときに目覚めることを忘れさせるともいう。よく見ると、墓地の古い石塀にはすいかずらの花が今を盛りと咲いていた。
2011-05-24 20:10:10@ts_p 「忍冬」 つぶやきが耳をくすぐる。 「厳しい冬を耐えて咲くから、忍冬」 すいかずらの別名だと進藤が言う。 「俺の好きな花だよ」 摘んだ花を僕の髪に挿しながら、照れたように進藤は笑った。 胸の中で何かが弾ける音がする。
2011-05-24 20:10:47@ts_p 心もとない、甘やかなこの感情を追いかけてみるけれど、想いが溢れて言葉にすることができない。 だから… 離れようとする手を捕まえてくちづけた。 指先には花の香り。 いつか伝えたい…大切なひとに、きっと。
2011-05-24 20:11:07