#twnovel 『無惨歳時記―火冬―』

無惨也、少年の欲望の歳時記 (コメント欄に創作ノートを遺しています) 『無惨歳時記―春夏禾―』 http://togetter.com/li/499676
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♍≠様♍ @XavierCohen

罪びとの顔は見なかつた 只とても甘い匂ひがしたと娘は言ふ 番人は途方に暮れた 火の粉を散らした様な金木犀の花の香が 通りに辻に充ち満ちてゐた 血の臭いが落ちぬ 血の臭いが落ちぬのだ 男は水桶に浸した掌を軽石で執拗に擦つてゐる 赤剥けた掌からはねつとり甘い香りが #twnovel

2013-10-04 19:35:08
♍≠様♍ @XavierCohen

騎馬戦の生徒らは頬や腕や腿をざつくり切り裂かれてゐた。真黒な顔に血走つた目が恰も鬼の様だつた等と口々に述べるも、父母教師の内に此れを見た者は無かつた。突風に怯へた男子が膝を折り、後に総崩れと為つたかに見へたと言ふ。紅白帽の散乱する校庭に、取つたぞうと鬨の聲して… #twnovel

2013-10-07 17:37:29
♍≠様♍ @XavierCohen

―寝るな!寝たら死ぬぞ! ―あぁ、あぁぁぁ… 朝が忍び寄る 歪な摩天楼がその醜態を黎明に晒し 早くも俺の指先は黒ずみ乾涸び始める もう何もかもがどうでもよかった ―ちッ、仕方の無ぇ奴だな 相棒に抱き抱えられながら睡魔に身を委ねる 釣瓶が昏い井戸に落ちてゆく様に… #twnovel

2013-10-11 08:59:55
♍≠様♍ @XavierCohen

熱い息が喉を焼くけれど、容赦の無い追手の足音はひたひたと距離を詰める。とうとう下生えの蔓に足を取られ少女の逃走は終わる。曳き立てられた少女の頸をその母自らが鋭い鎌で刎ねた。血の滴る少女の唇に接吻し乍ら母は優しく囁く。おやすみ愛しい娘。冥府で御主人殿がお待ちです。 #twnovel

2013-10-10 17:49:28
♍≠様♍ @XavierCohen

そして少年達は石臼で粉を挽き、少女達は大釜で湯を沸かす。ふっくらと膨れた生地のくらくらする様な発酵臭に、煮上がった小豆の甘い匂いが重なる。みんなで餡子を包みながらほくほくと笑う。「おじさんはどんな顔をしていたのだっけ?」と誰かが言う。そう言えば何ひとつおじさんの事を思い出せない。

2013-10-15 17:25:52
♍≠様♍ @XavierCohen

だから焼き上がったおじさんは色んな顔をしている。瓜実顔のしゅっとしたおじさんでもあり、丸顔の福福しいおじさんでもある。大きな目で僕達を見守るおじさんがいる。目を細めて僕達のために祈るおじさんがいる。思い思いのおじさんを2つに割ってもぐもぐ頬張る。そしておじさんは僕達の血肉となる。

2013-10-15 17:29:12
♍≠様♍ @XavierCohen

「ごちそうさまでした」と僕達は手を合わせる。おじさんはバイバイと手を振って、甘くて香ばしい湯気の向こうへ去って行った。

2013-10-15 17:32:07
♍≠様♍ @XavierCohen

「ウォルマートで安売りしてたマーズ・バー」「イラね」「隣」「マーティン家」「デボラおばさんのクッキー!」「やみー!」「でももう食べらんない」「おばさん、腰を痛めてらしたのでしょう?」「見逃してあげれば良かったのに」「例外は認めない。お菓子をくれなきゃ…」「ぶー!」#twnovel

2013-10-21 17:13:13
♍≠様♍ @XavierCohen

日照りの夏に田畑も枯れて御供へ物が何とも尠ない 腹を空かせた地蔵共はどうしたもんかと思案した ―南蛮人が妙な事をの ―そいつは愉快さうぢや ―源蔵どん、餅を恵んで呉れんかの ―ひやあ、ばけもの 鋤の一振りで南瓜の笠は木端微塵 石頭をぶつ叩いた源蔵の腕は八日の間も腫れておつたそうな

2013-10-22 17:47:56
♍≠様♍ @XavierCohen

暗く冷たい海を渡り奴等が帰つて来た。おんぼろ筏に張られた帆は雨風に晒され穴だらけ、そいつが一寸髑髏の様にも見へる。爛爛と赤い目が輝いてゐる。ずさずさと砂を踏む音が聞こへる。私はランタンの灯を吹き消して奴等を迎へる。オーヴンでは焼けた芋の皮がふちふちと鳴つてゐる。 #twnovel

2013-10-31 17:53:52
♍≠様♍ @XavierCohen

「お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ!」「一緒に住まへんか?」「え?」目が赤く輝いた。「ちょ、何言うてんの、もう!」大笑いしながら僕の胸を打つ。「何やねん、真面目に訊いてるのに」南瓜頭をこつんと叩くとぱっくり割れて下には何も無かった。結局返事は聞けず仕舞いだった。 #twnovel

2013-10-31 17:57:22
♍≠様♍ @XavierCohen

「トリック・オア・クラック!」「おお、子供じゃ」「久し振りの子供じゃ」「クラックは無ぇから悪戯して見せろ」「腹の底から笑える悪戯を」「腸の煮え繰り返る様な非道ぇ悪戯を」丸々した赤ら顔の爺さんらがトニーを取り囲んで、掴み掛って、ばきばきって、俺もうワケ判んねぇし… #twnovel

2013-10-31 18:01:24
♍≠様♍ @XavierCohen

深更の鐘が刻を告げ八百万の神々は降臨す。「宴は仕舞いぢや、悪戯餓鬼ども」無謀に立ち向かふ者も在つたが神の拳に掛かつては一溜りも無い。「いやはや、今年も大収穫よの」大國主神は呵呵と笑はれた。「小豆もたんと用意した。一緒に甘く煮て食はん」大鍋を囲みて神々沸き立てり。 #twnovel

2013-10-31 18:06:50
♍≠様♍ @XavierCohen

昔何某の村に齢数百を重ぬる老木在り 寒風の下に在りても青青と葉を繁らせて在る由 さぞやの霊験有らむと勘へ人様様に願掛けするに 老木悪しく酔ひて葉悉く紅に染まる 冬立つ夜に大火生じ村人家諸共灰燼に帰す 難より逃れ得たる者無し 老木枯枝を秋風に晒し尚其村に立ちて在り #twnovel

2013-11-07 16:20:18
♍≠様♍ @XavierCohen

「汝妾の眷属と為りて千秋満歳の彼方迄妾と共に在る事を誓ふか」「誓ふ」「親兄弟は元より縁者朋輩の尽くを喪ひ魂は哀しみに磨り潰されてゆくであらう。其れでも佳いのぢやな」「ああ」象牙に似た何かが口唇を割り開き痺れる様な甘味が拡がる。鬼娘は眩惑されし美童の頭を胸に抱き… #twnovel

2013-11-12 17:40:54
♍≠様♍ @XavierCohen

―だあん。紅の面は鉛玉に砕かれ、脳漿は霧と成つて散じてゆく。眼窩より零れ落ちんとする金の瞳は柔らかな日差しを睨み、尚沖天に留まらんと大翼を打ち揮へども黒き羽根は虚しく解けて、力尽きし太郎坊は終に深緑の杜に呑まれて仕舞つた。さうして愛宕の山は緋色に染まるのだつた。 #twnovel

2013-11-26 19:32:00
♍≠様♍ @XavierCohen

その年は天地が荒れに荒れ、人畜は皆惨めに餓へてをりました。感謝される謂れも無きでみうるごしは、犠牲の羊さへ物欲しげに見つめる民草の姿に一層気が塞ぎました。と、祝詞を上げる神官が大ひに屁を放ち、屈辱に赤面せるでみうるごしは雲の向ふに御隠れあそばされたと云ふ事です。 #twnovel

2013-11-27 17:42:59
♍≠様♍ @XavierCohen

老紳士の鍔付帽がさつと吹上げられた。黒い帽子は暫く宙を漂つて枯木の高枝に引つ掛かつた。老紳士は口惜しさうに帽子を見上げてゐた。何か思ひ入れの在る品に違ひ無かつた。雲が切れて日差しが師走の雑踏を包んだ。老紳士は背を丸めて歩き出した。空缶がカラカラ鳴つて猫が強張る。 #twnovel

2013-12-13 17:06:37
♍≠様♍ @XavierCohen

さくさく さくさく ―来たやうだね  冬の眠りに就く前に、たんまり腹を肥やさねば  あれは何時だつて餓えちゃあゐるのだが  妹を覚へてゐるかい  ああ、あん時ゃお前も小さかつた さくさく さくさく 幼子よ、逃げよ 生え初めし霜踏んで一目散に 妹御の墓は空ろなり! #twnovel

2013-12-09 17:57:51

*intermission "Last Christmas"

"Silent Night"

♍≠様♍ @XavierCohen

鼻面を撫でてやると頬ずりし乍ら、ごうと咳き込むやうな息を洩らしました。立派だつた顎髭は脂が抜けてごわごわしてゐましたし、自慢の鼻は熟れ過ぎた柘榴みたいに赤黒く艶を失つてゐました。サンタのおじさんは眉間に銃口を当て、静かに撃鉄を起こしました。―おやすみ、ルドルフ。 #twnovel

2013-12-16 17:37:40

"Chestnuts Roasting On An Open Fire"

♍≠様♍ @XavierCohen

「こう固くては堪らない」と侏儒は訴へました。「横着爺めが良ぉく肉を叩いてをかなかつたからだ」別の侏儒が指摘しました。「老い耄れ爺の小っちゃな木槌」侏儒達は声を合はせて歌い始めました。満足気に微笑んでゐたサンタのおじさんは、葡萄酒の壜を抱へたまま何時しかうとうと… #twnovel

2013-12-17 19:33:00

"Deck the Halls"