ハウス・オブ・サファリング #2

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「かけつけ」バーテンが呟く。コモモはコクコクと頷いた。ユミトは財布から素子を取り出す。「え?いいよ」コモモは自分のガマグチを開けた。「いや、彼氏だし」「じゃあ次奢るね」「OK」(((カネ大丈夫かな)))ユミトはぼんやりと考えた。バーテンがショットグラスをテキーラで満たした。24

2014-01-21 00:16:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「カンパイ」「カンパイ」「俺も」顔色の悪い男が横から現れ、手に持ったグラスを掲げた。コモモは笑った。一息にテキーラを飲んだ。ユミトはそれに倣った。音楽。煙。光。「スッゴイな」「秘密基地だもん」「いや……君、スゴイよ」ユミトは弱々しく笑った。「俺、ガキみたい」「あたしの勝ち?」25

2014-01-21 00:18:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガゴーン……奥ではボーリングピンがなぎ倒される音。「ストライーク!」「ヤッタースゴーイ!」キャバァーン!デロリロワーオ……経年劣化のせいか、やや間延びしたファンファーレが流れ、光が飛んだ。「君の勝ち、君の勝ち」ユミトは頷いた。コモモはユミトの腰に手を回した。「ね」音楽。光。26

2014-01-21 00:22:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

コモモがユミトの胸に顔をうずめた。ユミトはコモモと一緒に揺れながら、その肩越しに壁の巨大な影を見た。キャンドルライトが投げかける彼ら自身の影法師だ。音楽。煙。影は一つに交じり合い、神秘的な八本の腕を生やす。それぞれの腕には象徴的なブッダ武器が握られ……誰かが香炉に木を入れる。27

2014-01-21 00:26:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

地を這うようなベースライン、光、少しの刺激臭、覆い隠すような甘い匂い。「隠してても良かったけど、隠すのやめたの」コモモはユミトに顔をうずめたまま呟いた。「何日か、実際に一緒にいて、大丈夫かなッて。王子なら」「王子はやめろよ」ユミトは言った。「大丈夫?」とコモモ。「大丈夫だよ」28

2014-01-21 00:31:38
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「よかった」「スゴイよ」ユミトは繰り返した。「そりゃ、秘密基地だよな……」「うん。ジュースを投げたりとか、ナードの男子を女子トイレに閉じ込めたりとか、そういうくだらない事、無いよ」「ああ……」胸が痛む。バカども。そして自分もその側。コモモは言った。「でも卒業したからね」 29

2014-01-21 00:37:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

影は16本の手を生やす。それぞれの手にブッダ武器。わだかまる巨大な影法師と、イクサを始める。マッポーだ。「ストライーク!」キャバァーン……音が金色の輪になって二人を囲む。「座ろう」ユミトはコモモと一緒にソファに座った。彼の心臓はこの場の音楽と裏腹、凄まじいBPMを刻んでいた。30

2014-01-21 00:39:34
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「ダイジョブ?」「初めてだからさ」ユミトは息を吐いた。「ちょっと、こう、当てられたッていうか」「そうか」コモモがユミトの手を握った。16本腕のブッダデーモンがドラゴンと戦う。首を狩られたドラゴンが悶え苦しみ、煙をまき散らして四散する。煙の中から影めいた戦士が降り立つ。 31

2014-01-21 00:42:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

濃厚な空気だ。嗅いだことのない空気。音が綺麗だ。「ダメだ!アアアア!」誰かが急に泣き出した。「ダメじゃない。ダメじゃない。落ち着こう」近くの者がすぐにトイレへ引っ張っていった。影めいた戦士は両手に刃を光らせ、官能的に舞う。コモモは目を閉じた。ユミトは彼女の髪に触れた。今だ! 32

2014-01-21 00:49:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ユミトはコモモにキスした。コモモは応えた。……その時である。「イヤーッ!」「アバーッ!?」エコーのかかった叫び声が、エコーのかかった悲鳴と溶けた。影めいた戦士がクルクルと刃物を弄び、膝をつく。揺れていた男の一人が己の頭を両手で抱え、数歩歩いて倒れた。首の切断面から血が流れた。33

2014-01-21 00:51:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

血が蛍光色の煙となり、世界と交じり合った。音楽。光。キスは続いた。二人はお互いを離さなかった。と同時に、ユミトは離人症めいて状況を俯瞰する自分を捨てきる事ができずにいた。(((すごい幻を見ている。ハッパどころじゃないな。何だろう。化学かな、有機かな……)))刃が、装束が踊る。34

2014-01-21 00:55:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「ンアーッ!」入り口近くにいた女が背中を斜めに切り裂かれ、その血が光り輝く飛沫となって虹をかける。影めいた戦士は斬撃から流れるように身体を捻ってブリッジし、カラカラと笑った。その笑いは世界を揺らし、地を這うベースラインをざわつかせ、ノイズが蝙蝠めいて飛び回った。35

2014-01-21 00:59:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

何かまずい。何かまずいんじゃないか。ユミトはコモモを抱きしめ、美しい虹の中を見透かそうとした。影が揺れ、ブッダ戦士が龍と踊る。光。音。何かが起こっている、それは本当に幻でいいんだろうか?ガゴーン……「ストライーク!」キャバァーン!「イヤーッ!」「アバーッ!?」 36

2014-01-21 01:04:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ンン……コモモ=サン」「え……何」「ちょっと俺、まずいな、入り過ぎてる」「ダイジョブ?」「一度、外、出よう」「うん」ユミトはふらつきながら、コモモの手を引いて立ち上がった。一瞬後、そのソファーが切り裂かれ、羽毛を噴き上げた。羽毛は白い無数の鳩になり、虹をくぐった。 37

2014-01-21 01:07:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「マズイな……何だろ……」頭の中を音と光がグルグル回る。だが、コモモを掴んだ右手は絶対に離すまいとした。煙と壁が交じり合い、無数の影が縦横に行き交う中で、彼女のひんやりした手だけがソリッドな存在だった。ユミトはコモモを引き寄せた。「ねえダイジョブ?」「ダイジョブじゃないかも」38

2014-01-21 01:11:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「外……どっちだろ」「なんか、あたしもちょっと……」コモモがふらついたと思うと、その場にへたり込んだ。ユミトは彼女をかばうように倒れた。音が木霊する。「「「「「イヤーッ」」」」」叫びが、風が頭上を通り過ぎた。壁が水平に裂けた。「「「「「イヤーッ」」」」「「「「アバーッ」」」」39

2014-01-21 01:12:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

また、誰かが死んだ。死。突然世界は真っ黒に塗りつぶされ、「死」という文字が頭上から彼を見下ろした。ユミトは縮み上がった。「イヤーッ!」「アバーッ!」遠くでまた影の戦士が男を殺した。影の戦士は哄笑した。「お前らも不運の極み!よりによってこの地で堕落遊戯に興ずるとは!」 40

2014-01-21 01:14:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その言葉は妙に具体的で、とても幻覚とは思えない。ユミトは己の頬を繰り返し張った。「ダイジョブ?」とコモモ。「ああ。ダイジョブじゃない事がわかる。ダイジョブ」ユミトはまばたきを繰り返す。「絶対これヤバイ」頭を振って、立ち上がる。コモモの手を引き、立たせる。肩越しに……ニンジャ。41

2014-01-21 01:16:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャ……ナンデ」ニンジャ。幻覚がニンジャを生み出してしまった。原初の恐怖がユミトの腹の奥底から沸き起こる。幻覚?これが?ニンジャの目……ユミトへの……非ニンジャへの侮蔑に満ちたその眼差し……「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」 42

2014-01-21 01:20:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ディレイじみて、カラテ・シャウトが等間隔で繰り返しユミトの鼓膜を震わせた。不可思議な残響音だ。なぜかユミトは死ななかった。刃は彼の首を刎ねなかった。「死」の文字が拡散して黒い霧となり、それらが床の赤い血と混ざり合って、もう一人のニンジャが生まれていた。それが刃を阻んだのだ。 43

2014-01-21 01:22:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「イヤーッ!」黒いニンジャの刃のカラテは、赤黒い煙を纏う第二のニンジャによって逐一弾かれ、阻まれた。「リ……」ユミトは呟いた。「リンピオトーシ……」コモモがユミトの手を強く握り返し、引き継いだ。「カイジンリッツァイゼン?」44

2014-01-21 01:29:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その言葉はユミトに、パブロフじみた反射を引き起こし、極度の集中を生み出した。一瞬、彼は、己が弓を引き絞り、競技場にいる錯覚をした。激痛がニューロンを揺さぶると、全ての幻は滲み、溶け、血と死体と悲鳴にまみれたボーリング場跡が現れた。そして二人のニンジャが消えることはなかった。 45

2014-01-21 01:31:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」目にも留まらぬ木人拳じみたカラテ応酬は、おそらく数秒の事だったろう。二人のニンジャは互いに6フィート後ろへ飛びすさった。黒いニンジャがオジギを繰り出した。「ドーモ。サンタラムです」刃が閃いた。「貴様……」 46

2014-01-21 01:37:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ユミトは失禁を堪え(レディの面前だ)、コモモを庇って二者から後ずさる。赤黒のニンジャはサンタラムにオジギを返す。「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」ジュー・ジツを構え、「コソ泥紛いの狼藉一つ、まともにこなせぬ狂犬め。私が貴様の無益な殺戮を嗅ぎつけるまで充分過ぎる時間があったぞ」47

2014-01-21 01:45:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「狂犬は貴様よ……ニンジャスレイヤー=サン!」サンタラムは刃をクルクルと回転させ、凄んだ。「おせっかい焼きの偽善者め。切り裂いて床にバラしてくれる。クズどもの切断死体に紛れ、廃墟ネズミの餌にでもなるがいい」「ネズミの餌には貴様ごとき下衆が似合いだ……ニンジャ……殺すべし!」48

2014-01-21 01:50:06