ハウス・オブ・サファリング #3

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

互いの死線が極限まで張り詰め、そこに神秘的な凪の瞬間が訪れた。二者は無言で互いを見た。「リンピオトーシ……」濃厚な空気を割り開いて、不意に若い男女の声が届いた。先程の二人か。ニンジャスレイヤーは眉根を寄せた。「カイジンリッツァイゼン……リンピオトーシ」チャントは繰り返された。21

2014-01-22 00:13:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

危険を冒し、ニンジャスレイヤーはそちらを見た。壁によりかかるように寄り添う二人が、祈るように、そのチャントを繰り返していた。電撃的な啓示がニンジャスレイヤーを打ち据えた。リンピオトーシ。カイジンリッツァイゼン。イクサの記憶がフィードバックする。このパワーワードに覚えがある!22

2014-01-22 00:18:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それはコフーン遺跡のイクサにおいて、神秘的古代ニンジャ、マスタートータスが唱えた言葉!因縁のシャドウドラゴンもこの言葉を用いていた!彼はこの記憶に賭けた。「リンピオトーシ。カイジンリッツァイゼン」二人に重ねあわせるように、ニンジャスレイヤーもまたこのチャントを唱えたのだ。23

2014-01-22 00:22:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その瞬間、何が起きたか?ニンポめいた激しい閃光が迸り出たか。否。なにひとつ劇的なエフェクトは無かった。だが、ニンジャスレイヤーは針のように研ぎすませた集中力を僅かコンマ秒だけ取り戻すことができた。彼は深く息を吸い込んだ。「スゥーッ……」彼は腰を落とし、チャドー呼吸を開始した!24

2014-01-22 00:27:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は己のニンジャ新陳代謝力、ニンジャ自律神経が、チャドー呼吸の助けを得て空気中の毒に打ち克つ力を急速に育てていくのを感じた。「ハァーッ……スゥーッ……ハァーッ!」(((フジキド……!)))ナラクの不満気な呻きがニューロンに波打ち、沈んだ。「スゥーッ!ハァーッ!」 25

2014-01-22 00:31:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何だそのふざけたチャントは」サンタラムは目を血走らせ、黒いニンジャソードで襲いかかった。「何だそのナメくさったニンポの真似事はーッ!イヤーッ!」刃が襲い来る!ニンジャスレイヤーは目を見開く!時間感覚が泥のように凝り、視界を覆う霧は取り払われ、サンタラムの躍動が伝わった! 26

2014-01-22 00:34:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

刃はまず右横から繰り出される。だがそれはフェイント。ニンジャスレイヤーの左側面へサイドステップで回りこむための予備動作なのだ。そののち身体を一回転させ、背向け状態から、脇の下をくぐらせるように刃を突き出す。幻覚下では複数の敵から一度に斬りかかられたように錯覚させる必殺剣! 27

2014-01-22 00:41:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」もはやニンジャスレイヤーには見えていた。迫る刃をヌンチャクの鎖で絡め取った。そしてもう一方の刃による追撃に備える。彼はヌンチャクを捨て、この追撃に集中する。「イヤーッ!」刃が繰り出される。ニンジャスレイヤーが先んじる。サンタラムの手首にチョップを打ち込む! 28

2014-01-22 00:43:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「グワーッ!」サンタラムは刃を取り落とす。腕が下がり、顔面ががら空きだ。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは顎先にコンパクトな掌打を叩き込んだ。「グワーッ!」サンタラムがのけぞり、たたらを踏む。サンタラムがニンジャスレイヤーを見た。死相。周囲の世界が消し飛び、闇が二者を包んだ。29

2014-01-22 00:47:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはその場で一回転!二回転!三回転目に、強烈極まる回し蹴りを放つ!「イヤーッ!」「グワーッ!」サンタラムの頭部に回し蹴りが直撃!刎ね飛ばした!吹き飛んだサンタラムの頭部は壁に当たって跳ね返り、ボウリングレーンをゴロゴロと転がると、ピンをなぎ倒して吸い込まれた。30

2014-01-22 00:50:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そして、「サヨナラ!」断末魔の叫びがボウリングレーンの奥から聞こえたと思うと、首の切断面から鮮血噴き出すサンタラムの身体は爆発四散した。 31

2014-01-22 00:51:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……恐るべきイクサの光景を、ユミトは目をそらす事もできず、ただ見つめ続けるしかなかった。「リンピオトーシ……カイジンリッツァイゼン……」彼はコモモを強く抱きしめ、必死に、必死に、すがりつくように、オカルトじみたチャントを唱えていた。「リンピオトーシ……」そして、コモモもまた。32

2014-01-22 00:55:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二人は散乱する死の只中に放置されている。生きているものはいるだろうか。キャバァーン!デロリロワーオ……間延びしたファンファーレは、今やただ不気味だ。気づけば彼らの横を、赤黒のニンジャが通過していった。「忘れろ」ニンジャは言い捨て、廊下の闇に消えていった。 33

2014-01-22 01:00:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」ユミトは目を閉じ、息を吐いた。生き物は本当に恐怖した時、もはや逃げることすらできなくなるのだ。それを理解させられた。二人はその場に座り込んだ。互いに言葉はない。廊下から冷たい空気が流れ込んでくる。血。死体。淡い光。ユミトは状況の理解を諦めた。だって……あんまりだ。 34

2014-01-22 01:05:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二人はどのくらいそうしていただろうか?やがて口を開いたのはコモモだった。「……ダイジョブ?ユミト=サン」「君は」「ダイジョブなわけないよ」コモモは首を振った。「ごめんね」「外に出よう」ユミトは言った。コモモは微笑した。「腰が抜けちゃった」震えていた。強いておどけているのだ。35

2014-01-22 01:09:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ユミトは生徒会長的責任感で考えようとした。マッポを呼んだり……生きている人がいたら介抱して……何もかも非現実的だ。少し休みたい。でも、ここは、ひどい。「ハッパ」不意にコモモが言った。一つを咥え、もう一つをユミトに差し出す。「もう、全部後にしよう」彼女は言い、ライターを灯した。36

2014-01-22 01:15:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハハハ……」ユミトは苦笑した。ここから離れたいのはやまやまだが、その元気すらない。「やってらンないものな」「うん」……凄惨なゴア光景がキャンドルライトに照らされるさまを、二人は静かに眺めた。 37

2014-01-22 01:19:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あのさ……あのチャント、コモモ=サンはどうして?」「チャント?」コモモはユミトを見た。「リンピオトーシのやつ?ブルシットだよ。このコミュニティに誰かが持ち込んで、それからしばらく流行ったんだ。その人、あの呪文を『神秘体験の鍵だ!』みたいなこと言って……ヤバかったな」38

2014-01-22 01:23:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「マジかよ」ユミトは肩を落とした。「俺にとっては、結構重要な……それこそ魔法の言葉だったんだよね。幼稚な話だけどさ……イカレた奴と同レベルか……」「二人で必死に唱えちゃったね」コモモは笑った。「三人だ」とユミト。「ニンジャも一緒になってた」「ニンジャもね」二人は力なく笑った。39

2014-01-22 01:28:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

間違いは……今日はもう無理だな。ユミトは不意に、そんなことを考えた。そして自分に呆れた。コモモが床にハッパを押し付け、火を消した。 40

2014-01-22 01:38:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ハウス・オブ・サファリング】終わり

2014-01-22 01:39:22