加賀さん観察日記 Part9

キタユキ @k_t_y_k

「…で、いくつかの罠や仕掛けを超えて、マリオはゴールだ。花火があがるな」陽気な音楽を口ずさむのに合わせて、ゴールの棒人間の上にヘロヘロのゲジゲジが沢山産み出された。ところで僕は一体何に付き合わされてるんだろう。武蔵はこのマリオ絵かき歌を見せたかっただけなのか？ #加賀さん観察日記

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一体僕が若くて物を知らないのと、このマリオに何の繋がりがあるんですか。僕は思い切って聞いた。「まあ待て、今のは一連の流れの一つだ。これからが本番だ。例えば、穴があり、飛び越えようとすればトゲに当たる場面がある。そういう時、貴様ならどうする？」 #加賀さん観察日記

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トゲに当たらないようチャレンジして飛び越えます。「貴様の答えはそうか。私なら、こうだ」武蔵はナプキンの空いた部分に、元来た道を戻る棒人間を描き加えた。「戻って、トゲを壊せるものがないか。穴の上に橋をかけるスイッチがないか探す」そうですか、としか言いようがない。 #加賀さん観察日記

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「で、だ。問題だ。今、穴の越え方を学んだのは貴様とマリオ、どちらだ？」そんなの、僕に決まってるじゃないですか。「偉いぞ。その通りだ」少し考えれば解ることだ。操作してるのは人間なのに。僕はまた缶の中を飲む。思ったより早く空になって、指で押した部分がべコリと凹む。 #加賀さん観察日記

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「見習いよ、このマリオと操作している者の関係を、そっくりそのまま我々に適応できると思わんか？」艦娘と、提督の関係に？「いいや、艦娘と、艦娘の中にいる【分霊】の関係に、だ」武蔵はペンを置き、またグラスに並々酒を注いで、煽った。 #加賀さん観察日記

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「【分霊】は全国の神社から集められた、艦に所縁のある神霊…もとい、かつて軍艦に寄生し、そこから人間を経て神社に居を移した宇宙飛来の微生物達だ。それぐらいは知っているな？」僕は頷く。古典にはこういうフィクションの本もあるらしいけど、艦娘も【分霊】も、現実の話だ。#加賀さん観察日記

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「艦娘は【分霊】の入れ物にすぎん。例えば…榛名だけでもこの日本に何体登録されている？数百万には下らないだろう。提督の数だけ、いやそれ以上に艦娘は存在する。この武蔵とて同じことよ」榛名の名前を出されて、僕は少し動揺した。武蔵はそれを見透かしたようにほくそ笑む。 #加賀さん観察日記

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「何故こんなに艦娘が存在するか、貴様は考えたことがあるか？」僕は首を横に振る。艦娘は道具だ。家電製品と同じぐらい身近で、当たり前に存在するモノ。街を見ても艦娘がいるのが普通で、いない方が珍しい。野良の艦娘もいるところに関しては、犬猫に近いかもだけど。 #加賀さん観察日記

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「まあ、それが普通だろうな。艦娘は便利なガイノイド、そう言われた方がしっくりくるだろう。人間と艦娘の歩み寄りが学びたいなら歴史の本でも読めばいい。問題は『何故』だが、『何の為に』だ。この武蔵、他人に物事を教えるのが苦手でな。自分で閃かねば身につかんだろう」 #加賀さん観察日記

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武蔵の質問に乗せられているようで嫌だけど、確かに言われてみればなんでこんなに艦娘がいるのか考えたことがなかった。深海棲艦を殲滅するだけなら今の半分以下でもいいはずだし、提督になる免許だってもっと選りすぐりの軍人にだけ与えればいい。 #加賀さん観察日記

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深海棲艦と艦娘の本体は全く同種の宇宙人だ。最初は問答無用、本気で殺しあってたらしいけど、数十年前、急に【条約】が締結されて、今の艦隊決戦方式になったのは教科書にも載ってる通りだ。定められたルールに沿って戦い、戦果をカウントする。 まるでスポーツかゲームだ。#加賀さん観察日記

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「そう、ゲーム。我々はゲームのコマにすぎんのだ。億戦万単位の残機で、たった一つのゴールに100年近くも挑まされ続けている」机をボードに見たて、武蔵の黒い爪がグラスを進めた。中に入ってる酒が零れ、小さな分身を飛び散らかす。「たった一人のお姫様を救う為にな」 #加賀さん観察日記

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姫…僕の脳裏に、昔見た提督の顔が蘇ってくる。「見習いよ、貴様は今、身近な人間の顔を思い浮かべただろう」図星で、目が泳ぐ。「だが、それは大きなミステイクだ。たかが割り箸が一本折れた程度で大きな物事が動き出すと思うか？それに我々は一度、ゴールに辿り着いている」 #加賀さん観察日記

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「我々…いや、奴はゴールに辿り着いた時、目標は達成したが、過程を不満に思った。より感動的なゴールインを求めた。それに満足したら、次は最高の状態での、次は人数を絞り、次は最短の手筈を、そうして何度も何度も遊び方を変えていった。でもまだ奴は満足していない」 #加賀さん観察日記

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武蔵は椅子に持たれ、天井を見上げて長く息を吐いた。僕には武蔵がでたらめをいってるようにしか聞こえない。僕達は、人間と艦娘は誰かのゲームの為に戦いを続けていることになる。そんなはずがあるわけない。元々この戦争は、深海棲艦と海底資源の利権を巡ってのものだ。 #加賀さん観察日記

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「…信じられないという顔をしているが、信じようが信じまいが事実だ」武蔵は足を組み直してから、眼鏡を指で押し上げた。僕は目を見開く。いつのまにか、武蔵のグラスが割れている。音はしなかったはずだ。それだけでない。白かった机は黒ずみ、目の前を百足がくねっていく。 #加賀さん観察日記

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「本来、このゲームの話はされるべきではなかった」食堂の照明が白黒する。「配管工の親父とて、自分が量産可能な捨て駒で、自分の経験と思わしき記憶は全て他者のもの、しかも何度も何度も城に乗り込んで宿敵と闘わされているだなんて知りたくもないだろう」 #加賀さん観察日記

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食堂はもはや廃墟と化していた。談笑していた艦娘達も、綺麗に並べられていた食器も、飾られていた花もどこにも見当たらない。床は油でぎらぎら照り、壁には薄汚れた色の蔦が走っている。僕は目を疑った。たった数秒で、まるで長い間人が足を踏み入れていないかのようにーー #加賀さん観察日記

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周りの急変に立ち上がる僕を、武蔵は平然とした顔で見ている。何に驚いているのか、とでもいいたげだ。僕は武蔵に声をかけようとする。でも何故か声が出なくて、代わりに口の中からゴボゴボ音を立てて黒い泡が流れ出た。口を押さえても、間から止めどなく溢れていく。 #加賀さん観察日記

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≪ぴんぽんぱんぽーん≫突如として、食堂にアナウンスが響く。音は割れてガビガビだ。≪武蔵さん、武蔵さん、退去してくだち≫「まあ暫し待て。猶予はまだあるだろう」≪でもぉ≫「ただでさえ予定が早回しだ。いいだろう、数分ぐらい」≪はぁい≫声は陽気に後を引いて消える。 #加賀さん観察日記

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僕の口の泡は止まらない。体の内側がひっくり返されそうだ。前に吐いた時よりも、もっと酷い。手は真っ黒に染まりって、泡と一緒に指が腐り落ち、机に滝を作っていく。武蔵は何も言わない。色褪せた空間に、彼女の紅い目だけが爛々と輝いている。「何が起きたか、知りたいか？」 #加賀さん観察日記

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僕は壊れた玩具みたいに、首を縦に振った。紅い目が細まる。「修復が完了した。あいつが放棄したものだから、先から繋ぎを持って来れなくてな。だから、別の分岐を真似て間を持たせていた。だが、もうそれも必要ない。何を言ってるか解らんだろうが、必要ない。もう用済みだ」 #加賀さん観察日記

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≪現在メンテナンス中です。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします！≫ #加賀さん観察日記

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(何もない空間に、武蔵だけがいる…何故か椅子に座って。作りの豪華な、恐らくロココ調とか、そういう名前のつく格調のものだろう。これでテンポ良く背景が変われば三倍アイスクリームのPVだがそんなことはどうでもいい。武蔵はは艤装も付けず、ただ静かにそこにいる…) #加賀さん観察日記

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「ああ、久しぶりだな…息災か？まあ無事ではないだろうが」 (武蔵はこちらを見て安堵したのか、体重をゆったりと椅子の背に預ける。無事ではない？どういうことだ…確かさっきまで本部から調査兵団がきて…それで地下室に入ろうとして…確か…うっかり階段から…落ち…) #加賀さん観察日記