レイズ・ザ・フラッグ・オブ・ヘイトレッド #4

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「さあビジネス再開だ。忙しくなるぞ!」マジェスティは立ち上がり、鏡の前でスーツを整える。恐れを知らぬ青年。挑発的な甘いマスク。自己主張の強い伊達眼鏡。冷たい笑み。内側から情熱を溢れさせながら、彼は配下のアマクダリ・ニンジャや奴隷ビジネスパートナーに携帯IRCで指示を飛ばす。 45

2014-04-01 23:05:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「最高級のシャンパンを振る舞ってやれ!」彼は赤スーツの秘書たちに指示を飛ばす。そして先程爪ヤスリをしていた秘書の一人を、にこやかに指で手招きした。次の瞬間、彼は権威の象徴たるプラチナロッドを握り、ニンジャの力で振り抜いた。彼女は一撃で首から上を飛ばされ、死体となって倒れた。 46

2014-04-01 23:21:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

理由の説明など無い。彼女が何かサービスの提供に失敗したのだろう。「スカっとした!次のプレゼンは野球の喩えからいこう!」マジェスティは笑い、フスマを開いた。自我調律が施されたサイバーサングラス秘書軍団も淡々とそれに続く。部屋の隅に控える配下ニンジャたちは、彼のパワーに唸った。 47

2014-04-01 23:28:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

マジェスティは意気揚々と廊下を歩く。その足取りはまるで、リングへと向かうチャンピオン。間もなく、カラカミ・ファンド社はネコソギ・ファンド社すら追い落とすだろう。父の七光り故に殺されずに済んでいるだけの、あの“お飾りのガキ”の株価が下がるのも、時間の問題だ。彼は鼻歌を歌った。 48

2014-04-01 23:44:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「さあ、皆さん!私は帰ってきた。投資の時間だ!戦争も快調。どんどん死んで、どんどん忙しくなるぞ。張り切っていこうじゃないか!」ノシトは達成バーを見ながら満足げに頷き、シャンパンを振る舞った。 49

2014-04-01 23:53:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

割れた窓から忍び込む陰鬱な重金属酸性雨の雨音だけが、薄暗いアジト内に響いていた。そして重い溜息の音だ。「音楽かけない?滅入っちまうよ。ゼン・ストームがここに居たら、笑ってそう言うはずさ」KMCレディオの音響担当、チェリーが言った。ハイデッカーに折られた鼻は、応急処置済みだ。 51

2014-04-02 00:05:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「レディオで?」機材に腰掛けたマンタが問う。「ダメだ。電波は飛ばすな。俺たちの居場所はここですって、大声で叫んでるようなもんだ」ミートパイが言う。彼は注意深い男だ。「ここで聴くだけさ」チェリーは湾岸防衛軍払い下げのロケットランチャーを整備しながら笑った。虎の子の自衛武器だ。 52

2014-04-02 00:18:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「提案。交代で1曲ずつ……アイエエエ!……イタイ、イタイ!ドク、おい!」ソクトウが顔を歪ませた。彼はスゴイ級の物理タイプを誇るハッカーだ。だが長年の矜持を捨て、生体LAN端子を開けるべき時が近い。散弾を食らったからだ。「酒飲むか」しかめっ面の三本腕サイバネ小男、ドクが言う。 53

2014-04-02 00:34:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「クソ!派手にやられたもんだぜ!痛えか!ZBRの備蓄がありゃあな!」ドクは精密スシアームを駆使し、温かみのある医療行為を行う。「じゃあ言い出しっぺのアタシから。やっぱ最初はアレだろ。タナカ・メイジンだ!マンタ、頼むよ」「アイ、アイ」湿気ったコンクリを爆発的音楽が殴り始める。 54

2014-04-02 00:43:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

壁には、年季の入ったKMCフラッグが掲げられていた。その横には「暴力しない」「反撃はする」などのショドーが並ぶ。タニグチとニスイを失った11人のクルーは、小型スピーカーを囲んで座り、順に曲を流した。ノイズ混じりのその音量は、実際レディオじみていたが、確かな力があった。 55

2014-04-02 00:57:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

青いカリフォルニアの海。晴れやかな日差し。豊かなコメ。港に吊り下げられた大きなカジキマグロ。現在からは想像もできぬ、軽快な反抗を歌った、旧世紀のアーカイブ……時にはそうした音も必要だった。だがやはり、最後にはBSCVATMだった。奮い立たせる爆発的パワーの音楽が必要だった。 56

2014-04-02 01:06:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「レディオ、やりてえな」ホタルダが、イカケバブを食いながら言った。皆を代弁するように。リスナーは皆、抑圧的暗黒メガロシティの片隅で、孤独と不安に押し潰されそうになりながら、日常生活という名の抵抗を続けている。彼らは今夜も、これと同じレディオの力を必要としているのだ。温かみを。57

2014-04-02 01:20:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

少しして、無線IRCが入った。タニグチだった。クルーは初め、それが敵の罠ではないかと警戒した。彼は拘束されたはずだからだ。しかしノイズ混じりに聞こえるタニグチの声が、疑念を払拭した。「ヘイ、俺は帰ってきたぞ」クルーは警戒を解き、迎え入れた。タニグチが仲間を売る筈は無いからだ。58

2014-04-02 01:42:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

チェリーたちが内側から装甲壁を開け、暗い戸口に立つタニグチを見た。彼は黒とオレンジ色の大きめのサイバー・レインコートを、目深に纏っていた。「ドーモ」顔はヌンチャクで殴られ酷い有様だったが、その目は闘志に燃えていた。すぐにチェリーは気付く。彼の足と腕が無い事に。「オバケ!?」 59

2014-04-02 01:51:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「生憎、まだ生きてるぜ。ファック野郎共にサイバネをブッ壊されて、このザマだ。じゃあ何で俺がここにいるかって?ニスイが俺を背負ってんだ。後ろ向いてんだよ」タニグチが少し複雑な表情で笑った。ニスイの名を聞き、クルーは一瞬言葉に詰まった。彼は明らかに重体…あるいは死んだ筈なのだ。 60

2014-04-02 01:58:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

デリヴァラーは振り返った。彼はクルーの受けた損害を見渡しながら、無言でドクの治療台に向かって歩き、父を降ろした。「治療を頼む」「…ニンジャ?」誰かが呆気に取られて言った。「ああ、ニンジャだが、こいつはニスイだ!正真正銘だ!ワケが解らねえが、そう言う事だ!」タニグチが言った。 61

2014-04-02 02:14:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……おい、ワケなんか、どうでもいいだろ!こいつら生きて帰ってきたんだぞ!」ホタルダが目を潤ませ、声を震わせながら父子の肩を順番に叩く。「何か忘れてる事があるだろ!ウォーホー!」そしてキツネ・サインを高々と掲げた。他のクルーも歓声を上げた。 62

2014-04-02 02:30:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タニグチも笑った。この先には、過酷なレジスタンス闘争が待つだろう。だが今は、体勢を立て直し、力を蓄えるべき時だ。デリヴァラーも同じ考えだった。だが、彼の考えるイクサと父の考えるイクサは、次元が異なっていた。「武器を、調達してくる」死の静寂を纏い、彼は13階の窓から跳躍した。 63

2014-04-02 02:40:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「レイズ・ザ・フラッグ・オブ・ヘイトレッド」#4終わり #5へ続く

2014-04-02 02:43:02