- tenndouaruku
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「寒いな~」こたつ布団に大きな隙間を作ってあの人が言う。当たり前だろう。「早く布団を整えて隙間を無くせば良いんじゃないですか?」職人仕事でかじかむ手を擦りながら言うと、笑ってこう返された。「ここにポルクスが入れば暖かくなるな!」 この人なりの親切に甘えることにした、寒い冬の一時。
2014-01-28 08:48:30ピンセットを構え、獲物を狙う。下手をすれば更に奥に入り込んでしまうので慎重に。少しだけ、皮膚を切ってしまった方が良いのかもしれない。…実際の所、一分もあればすむことなんですが- 「…トゲ抜くのって大変なんだな~」 彼がこんなしおらしい顔をするのが珍しくて、悪戯したくなっただけで。
2014-01-29 08:49:49「この前色のついた筒みたいなのを口に塗ってパクパクしてるやつがいたんだ。あれって新しい“けーたい食糧”ってのじゃないか!?腹が減った時に舐めるんだよな!きっと色で味も違って-」 輝く瞳を前にぼくは迷っている。どのタイミングで「それ口紅ですよ、食べ物じゃないですよ」と言うべきか。
2014-02-02 01:40:12話を聞いた時から、ずっとおまえのことを考えてた。いつかこの手で触れられればって。そしてついにチャンスが来たんだ!もうすぐ姿を見れると思ったら、待ってる時間も辛くなかった、のに。 おまえも、オレの前でいなくなるのか-? 「売り切れは仕方ないですよ…;」「…桜もち~…(じたばた)」
2014-02-04 08:38:16ぼくたちは遺跡の一本道をすごい勢いで走っている。後ろから大岩が迫ってるからだ。 「なんですかこれ!?」「スイッチ押したら出てきた!」「!なんで押したんですか!」「押せって書いてあったからな~」「え」「でもその後走れってのもあったぞ!親切だな!」 改めて身にしみた。この人は本当に―
2014-02-07 09:22:08町外れの獣道。そこに、今にも魔法力が尽きて消えてしまいそうな街灯が立っていた。かつては多くの人が行き交ったこの道も、人通りが絶えて久しいのだろう。そして、忘れられた。 「ありがとな、お疲れさまだ」 仄かな灯りが最後に照らしたのは、ぼくたちと、寄り添うように咲いていた花だけだった。
2014-02-10 09:04:42扉を開ければそこは夢の国。楽しげな音楽と、きらびやかな衣装で着飾った絵本の世界の住人達。たまたま通りかかった旅人も、手を取り合って踊り出す。夢から覚めても思い出だけは色あせなくて。 こんな良いことがあった次の日は- 「今日の飯はなんか“ごーか”だな!」 ほんのり幸せ、お裾分け。
2014-02-13 09:02:55雪の降る中、作業場に戻るとホットミルクがコタツの上に置かれていた。驚いていると風呂場からあの人の声が。「お仕事お疲れさまだ!風呂、もうすぐ沸くからな~」…おかしい。 と、その時、側にあったタオルの山から子猫の鳴き声が聞こえた。 暖まるなら二人も、二人と一匹も変わらないというのに。
2014-02-14 09:05:08「にゃあ」 文字通りゴロゴロと転がりながらそう言ったのは、猫…ではない。またいつものが始まったと、ぼくは目の前の仕事に集中し直す。 「にゃ~」「…」「にゃ」「……」「にゃにゃ~あ!」「…もう少しでご飯ですから」「うにゃん」 最低限、意志疎通のできる語りかけにしてほしいものです…。
2014-02-24 08:34:15あの人が喧嘩をして帰ってきた。理由を聞いても何も喋ってくれない。後日、一緒にいたみかんさんに話を聞くとぼくの作品をけなされた、というのが原因らしい。 『あいつらのほうが明らかに腕前は上だったのに、アホみゃ』 全くもってその通り。…怪我をせず帰ってきてくれたほうが、嬉しかったのに。
2014-03-04 12:22:08「…平気ですよ、だからそれはしまってください」「ダメだ」 じわじわと血の流れ出す腕を前に、先程から同じ問いかけの繰り返し。せかいじゅのしずくなんて、ぼくには勿体ない。第一、自分がこれ以上の怪我をしていた時、平気だと笑っていたくせに。 少しぐらい、強がらせてくれてもいいじゃないか。
2014-03-20 08:56:32「…本当にお腹が痛いんですか?」「うん、すごい痛いぞ!」「押さえていないと辛いほど?」「ああ!ズキズキする」「なら薬を飲まないと」「…苦いのは飲みたくないな~」「でしょうね、仮病なんでしょうから」「えっ!?(なんでバレたんだ…?)」 首をかしげながら、オレは頭から両手を離した。
2014-03-25 08:49:20「あーつーいー…ポルクスー、服脱いでいいかー?」「ダメですよ…男の裸とか見たいわけないじゃないですか…」「女ならよかったのかー?」「…豊満な方ならいいですね…」「…?」「……」 「なあなあ、豊満ってなんだ?」「…」「豊満ってなんだ?それが好きなのか?」「…勘弁してください…;」
2014-04-04 21:13:38友達と呼ぶには近すぎて、家族と言うには遠すぎる。仲間も少し違う気がして尋ねてみた。「よくわからないけど、オレとポルクスは、オレとポルクスだ!それでいいんじゃないのか~?」 相変わらずのスッキリしない返答。けれど、ぼくたちの関係はそれで正しいのだろう。答えはきっと、ひとつじゃない。
2014-05-02 19:37:36「ポルクスはすごいなー。片付け早いし、料理もできるし、裁縫も得意だもんな!」急に彼がぼくを誉め始めた。それは誰かさんがよくランプを爆発させますし、朝昼晩ご飯ねだりますし、生きるための力ですから。上手くもなりますよ。 で、欲しいものは何ですか? (いつものおねだりなんでしょう?)
2014-05-04 22:21:51作業場での平和な一時。戸棚の中にいた、あれを目にするまでは。 「なんです!?あの黒くて気味悪い虫は!」「ああ、あれはゴ「やめてください!あれに関する余計な知恵をぼくに与えないで!早く追い払ってください!!」「まかせろ!それじゃ扇借りるぞ~」「ちょ、何を…!や、やめてえぇぇぇ!!」
2014-06-10 21:18:40アルクさんの家で居候をしていた時、彼女の真似をして家族に手紙を書いたことがある。もちろん空想上の家族だったけれど、そうすることで心の隙間が埋めれる気がしていたから。 「そういえば、ネオさんは手紙書いたりしないんですか?」 「ん~、書いたことないな~ …直接会って話したいからな」
2014-06-11 08:48:12「前に、一度だけ夢みたいなところでアルクに会ったことがあるんだ。『また夢』って知ってるか?夢が本当になるってやつ。あれはきっとそれだ!だからアルクとはいつかまた会えるんだぞ!楽しみだ!」 多分、正夢のことだろうと思いながら訂正しないのは、呆れよりも羨ましさが勝ってしまっただけで。
2015-02-26 08:52:17
◇連作◇
・1人より、2人で食べよう
昔、エテーネの村で暮らしてた時の話。小さい頃、おやつの果物は全部オレのものだった。アルクが生まれても果物の量は増えなかったから、二人でわけるとこにした。腹一杯にはならなくなったけど、アルクが「おいしいね」って言うとオレも嬉しくなったんだぞ! だからあの時、果物は二人分あったんだ。
2014-05-17 13:15:38確か1つのケーキを2人でわける話をしてたんだ。なのに突然「わけたケーキは1人分だから、元に戻すと2人分になるんだぞ!」というとんでも理論が飛んできた。なんですその計算式。さて、どう説め『食いもんの話ならみかんもまぜろみゃ!』 …(ズル)賢い猫も加わって、余計混乱してきたんですが。
2014-05-18 12:50:24・便りが無いのは
整った本棚、汚れていないキッチン、そして一人きりの空間。心落ち着く時間のはずなのに、どこか落ち着かない。またいつ帰るか告げずに出ていった誰かさんのせいだ。何度言えば学ぶのか、まったく- …無事で帰ってきてください。黒い感情に乱れ、押し潰れてしまいそうなこの気持ちを治めるために。
2014-04-06 10:37:18「ベホ…イ、ミ…」手から溢れ出した光を傷口にあてる。が、傷はまだふさがらない。真面目に呪文の勉強をしておけばよかった。 …絶対、死なない。妹に会えてないし、待ってるやつもいる。この命、死神だかに奪われる前に奪い返してやるんだ。 置いてかれる悲しみなんて、もう誰も知らなくていい。
2014-04-07 21:06:18