レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード6 「ナラク・ウィズイン」 #2
「アイエエエエエ!」恐怖に駆られたビホルダーは、車椅子をこいで重役室の中を逃げ惑いながらスリケンを投げつけた。だがニンジャスレイヤーは、背を向けたまま紙一重の開脚ジャンプしてこれをかわし、着地と同時に、水面を進むアメンボのようになめらかなムーンウォークで迫ってくるのだ。ミズグモ!
2010-11-10 00:18:29「これが真のニンジャの世界だ」いまや両目がナラク・ニンジャと化したニンジャスレイヤーは、背筋も凍るような声を発してから、逆アンダースローでスリケンを投げた。「グワーッ!」スリケンがビホルダーの左肩に深々と突き刺さり、左腕を動かすための神経と腱が容赦なく切断された!
2010-11-10 00:21:09「音……音か!」ビホルダーは右手で車椅子をこいで逃げながら、スリケンを投げ、停止させていたオーディオシステムを再起動させる。 ズンズンズンズズポーウ! ズンズンズンズズポポーウ!! 重役室にボリュームMAXのサイバーテクノが鳴り響き、オイランドロイドたちがポールダンスを再開する。
2010-11-10 00:22:37「それで逃げたつもりか」しかし、この轟音の中でも、ニンジャスレイヤーはビホルダーの位置をソナーレーダーのように正確に把握し、ぴったりと背を向けてミズグモで迫ってくるのだった。 「何故だ!」ビホルダーが失禁寸前の表情で叫ぶ。
2010-11-10 00:24:03フジキドは未だその正体を知らなかったが、彼の体に憑依した謎のニンジャ、すなわちナラク・ニンジャは、ビホルダーが放つニンジャソウルの痕跡を感じ取っていたのだ。敵が放つスリケンにも、微弱なニンジャソウルの痕跡が残留している。……無論、こんな芸当をやってのけるニンジャはそうそういない。
2010-11-10 00:26:45「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーは後ろ向きのまま、ヤリのように鋭い右足の蹴りを五連発でくり出し、ビホルダーの腹と顔面をえぐった。そしてビホルダーの動きが止まった一瞬の隙をつき、大きくバク宙を決め、ビホルダーの背後を取ってハンマーのように握った腕を振り下ろす!
2010-11-10 00:28:53「イヤーッ!」「グワーッ!」ビホルダーの頭蓋骨が折れ、首が10センチほど陥没する。逃げようとしても、ニンジャスレイヤーのニンジャ筋力が車椅子をホールドして離さない。「……まだ殺さん。貴様は知性が高いと見えるので尋問する」。いつしか、ニンジャスレイヤーからナラクの気配は消えていた。
2010-11-10 00:33:32「答えるものか」「イヤーッ!」「グワーッ!」腕ハンマーが振り下ろされ、ビホルダーの頭蓋骨が粉砕された! 「私を殺してもソイカイヤが貴様を」「イヤーッ!」「グワーッ!」腕ハンマーが振り下ろされ、ビホルダーの脳の一部がトーフのように砕け散った!「…答えろ、他のシックスゲイツはどこだ」
2010-11-10 00:36:37「バンディット=サンは行方不明だ」「殺した」「ア、アイエエエエ……、ヒュージシュリケン=サンとアースクエイク=サンは、ドラゴン・ドージョーのアジト発見と放火を命じられている……」「何だと?」思いがけずドラゴン・ドージョーの名を聞き、ニンジャスレイヤーの声に僅かな動揺の色が見えた。
2010-11-10 00:42:26その隙を突き、ビホルダーは最後の賭けに出る。彼は残っていた右手をおもむろに自らの眼窩に突き刺した! コワイ! これはセプクであろうか? いや違う! 彼は自らのイーヴィル・アイをえぐり出して眼球を背後に向け、ニンジャスレイヤーをカナシバリ・ジツにかけようとしたのだ! 何たる執念!
2010-11-10 00:44:54「イヤーッ!」しかしニンジャスレイヤーの腕が一瞬早く動き、ビホルダーの眼球ごと右掌をめきめきと握りつぶして粉砕した。「グワーッ!」最後の望みを絶たれたビホルダーが絶叫をあげる。「さあ、尋問の続きだ。答えんならば、このまま貴様をジェネレータの中に放り込んでやるぞ」
2010-11-10 00:49:15「アイエエエエ……ヘルカイトはさっきまで近くを飛んでいたが、今頃は次の任務に向かっているだろう……ダイダロス=サンたちはどこにいるか分からない……これで全部だ」 「そうか、では最後に聞こう……」今すぐにでもビホルダーの首を叩き落したい殺忍衝動を堪えながら、フジキドはこう問うた……
2010-11-10 00:54:42「…フジキド。…フジキド・ケンジというサラリマンを、数ヶ月前にマルノウチ・スゴイタカイ・ビルで、その妻子もろもと殺したニンジャは誰だ? 彼の妻の名は…フユコ。まだ幼い息子の名は…トチノキ」 「知らない…本当だ。だが、数ヶ月前のマルノウチ抗争ならば、恐らくは、ダーク……グワーッ!」
2010-11-10 01:03:17ナムサン! 突き破られた防弾ガラス窓の影から、突如何本ものクナイ・ダートが投げ込まれ、そのうちの一本がビホルダーの頭を貫通したのだ! ニンジャスレイヤーは危険を察知して、素早いバク転でこれをかわしていた。 「サヨナラ!」ビホルダーが爆死する!
2010-11-10 01:05:02壁に張り付いて尋問されているビホルダーを発見し、ソウカイヤの秘密を守るためにこれを殺害したのは、ラオモト=カンの懐刀ダークニンジャであった。ニンジャスレイヤーは舌打ちすると、窓に張り付いた姿見えぬ謎のニンジャめがけて牽制のスリケンを投げつけてから、弾丸のように飛び掛っていった。
2010-11-10 01:08:01抜け目ないダークニンジャはニンジャロープで素早く移動し、ニンジャスレイヤーの突撃をかわす。そのまま二人のニンジャは、スリケンを激しく投げ合いながら、オハナ・バロウの暗闇の中へと染み込むように消えていった。
2010-11-10 01:09:22地上では、硬いアスファルトに全身をしたたかに打ち据えられたシガキ・サイゼンが、ネオサイタマ・シティの灰色の建造物の間を飛び回る二人のニンジャという、幻想的でメランコリックな光景をぼんやりと見上げていた。何故、彼にまだ息があるのか? 順を追って説明せねばなるまい。
2010-11-10 01:12:02重役室から落下したシガキ・サイゼン。凄まじい風圧を受け、傷だらけのトレンチコートが前開きになり、「ブッダが大好き」と書かれた墨だらけの薄汚いTシャツが露になった。その直後、工場の窓から吹き出た黒煙によって激しく波打った「支配的な」という巨大な垂れ幕が、彼の体を包んだのである!
2010-11-10 01:15:38ゴウランガ! ブッダの慈悲すら無きこのマッポーの世で、垂れ幕が落下の衝撃を弱め、彼の命を救ったのである! だが重役室で掴んだ札束も、大トロ粉末も、すべて風圧に巻き上げられて失って、シガキは硬いアスファルトに叩きつけられたのだ。サイレン音が聞こえる。ケンドー機動隊が近づいてきた。
2010-11-10 01:18:37ズバリの効果で痛みは無いが、骨や内臓がいくつかやられているかもしれない。シガキは死ぬだろうか? それともマッポーの世に生き残って、死よりも過酷な生を送るだろうか? それはわからない。
2010-11-10 01:21:26ただ、彼はトーフ工場から吐き出される墨のように黒い煙を見上げて、マッポーのごとく染め上げられた暗く幻想的な空を見上げていた。二人のニンジャが工場の窓から窓へと飛び渡り、スリケンを投げ合っていた。ドクロのような満月が霧に揺らめき、シガキに「インガオホー」と呟いているように見えた。
2010-11-10 01:23:10第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「レイジ・アゲンスト・トーフ」 エピソード6「ナラク・ウィズイン」 #2 終わり (「レイジ・アゲンスト・トーフ」了)
2010-11-10 01:24:23