ブーブス海賊版「エピソード：フォクシー・レディ」

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

「悪魔と契約……四つ辻の悪魔よ……」ドールハウスがレッドアイをちびちびとすすりながらささやく。「命と、いいえ、人生で得られる幸福のすべてと引き換えに、天才的なギターテクを身につける……」黒いルージュのひかれた唇がにんまりと釣り上がる。　6

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

「……」フォクシーは無言でフォークを弄ぶ。その先に刺さっているのは、ハイウェイを行き交う車に轢き潰された野良犬みたいなチリポテト。このライブハウスの演奏はクソだし、バーテンとぼんやりした若造が作る料理はクソッタレだ。しかし……フォクシーが無言なのはそのせいではない。　7

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

彼女の視線は今、バーカウンターに座る男の背中に注がれている。くたびれたコートに身を包んだ広い背中はマイク・ハマーかダーティ・ハリーのよう。孤独で、危険で、ハードボイルドな背中。ラッキーストライクの箱を振る、細く節くれだった手の指には傷とタコ。あぶないふんいき！　8

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

それを見るフォクシーの表情は……おお、まるでロックではないぜ！フランスのションベンみたいな恋愛映画のヒロインみたいな目つき！ゆるく結ばれた唇はジャップの煮えきらいない態度のよう！我らがブーブスの、聡明で行動力に溢れたリーダーがどうしてこんなことに？と、その時だ！　9

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

カウンターの男が振り返った。一瞬、その視線がフォクシーの視線と絡み合う……男がニヤリとニヒルに笑った。フォクシーがぶるっと震えた。かと思うと男は視線をライブハウスの入り口に向ける。そこにはダサいネルシャツを着た痩せた男！ネルシャツ男はきょろきょろとあたりを見回している。　10

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

フォクシーは再びカウンターの男を見た。男はタバコを持った手を上げる。再びネルシャツ男を見れば、ダサい黒縁メガネの奥でマンホールみたいに目がまんまるになる！そのブシェーミじみた顔つきのネルシャツ男は、ロボットみたいな動きでカウンターに向かった。　11

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

その動きを目で追うフォクシー。その耳には、黒人男の奏でるしみったれたブルースも、「ちょっとファックしてきていいかな」というブロンディの声も、「アタシらの番はまだかよ」と吐き捨てるジェーン14の歯ぎしりも、ドールハウスの含み笑いも聞こえていない。　12

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

彼女が並々ならぬ興味を持つ、カウンターのハードボイルド・ガイは何者？その会話を聞いてみよう……「お、遅くなってすまない」ブシェーミじみた貧相な小男がスツールに座ると、「何を飲む？」と囁く声は低いバリトン！何度踏まれてもへこたれないホームベースみたいな顔がニヒルに歪む。　13

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

「び、ビールだ」ブシェーミじみた小男が震える声で言う。「彼にビールを」ハードボイルド・ガイのバリトンに、バーテンが床にタバコを捨ててビールサーバーに向かう。「それと、おれにはこいつをもう一杯」カラのウィスキーグラスをつつく。氷がカランと鳴った。バーテンが頷く。　14

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

「ま、まったく、冷や汗が止まらないぜ」ブシェーミじみた男が両手をせわしなく揉みながら言う。「こ、こんな危ない橋を渡るのはこれっきりにしたい」「報酬は弾むよ」ハードボイルド・ガイがニヒルな笑みを浮べて言う。「それにしたって、こ、このヤマは危険過ぎる」ブシェーミがぶつくさ言う。　15

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

「はいよ」バーテンが泡の少ないビールをブシェーミの前に置く。ドン！その音にブシェーミのケツがスツールから浮き上がる。「お、脅かさないでくれ」ブシェーミはグラスを受け取り、一息に中身を飲み干したあと、「の、喉が乾いてて」「いいってことさ」男はニヒルに笑った。「もう一杯？」　16

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

……一方その頃、ライブハウスの外では？グレープフルーツみたいな月が照らすハイウェイを、こ汚いシボレーがトロトロ走っている。車内でサザンカンフォートの瓶を回し飲みする五人の若者が聞いているのはカッコイイロック。もちろん我らがブーブス・バンドのホット・チューンだ！　17

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

『大統領は大変だ～』可愛いブロンディの声が流れるスピーカーは、ジェーン１４の力強いドラムに発情期の牡牛みたいに揺れる。「たまんねえな！」助手席のヴィクが喚く。その手からサザンカンフォートの瓶を奪い取り、後部座席のジョージが「だろ！ブーブス・バンドはさいこうさ！」　18

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

フォクシーのジョン・ウーガンアクションみたいなリフに禍々しく絡みつくドールハウスのベースライン！『ホワイトハウスはいんぼうで真っ黒～』「こ、これはすごい……！」ジョージの隣では、牛乳瓶を加工したみたいな分厚い眼鏡をかけたケンが、ロックマガジンを舐め回すように見つめる。　19

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

彼が見ているのはもちろん、我らがブーブス・バンドのホットな演奏シーン！荒い写真だが、汗に濡れて光るフォクシーのおっぱいの谷間はバッチリ写っているし、ジェーン１４の肉食獣めいた太腿も、ドールハウスの禍々しい美貌も、ブロンディのシャツに浮き出るピンクチェリーもせんめいだ！　20

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

彼らがどこへ向かっているのか……答えは明白、ライブハウス！汚い便所みたいなテキサスの田舎町で、スポーツも苦手、勉強もぱっとせず、ジョックスの太い腕に絡みつくハチミツみたいなチアガールを童話の狐みたいに眺めるだけの彼らの楽しみは、コミックと深夜のＳＦと……ロックだけだから！　21

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

「ブーブス僕の故郷でも聞いていました」オリーブオイルでテカテカした髪のアリが目を輝かせて言う。「会える彼女たちが本物で留学したかいがあるです」「『ハンサムだけど信用しちゃだめ～』」ブロンディに合わせて歌うのは、ソーセージみたいな指でハンドルを握るチェット。こいつはデブ。　22

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

と、その時だ！ごきげんなシボレーの背後に黒い影！それは一体？月光に照らされて黒光りする車の一団！どれもスモークグラスで中身はよく見えないが、複数の人間が乗っている。そしてそれらを先導する車は……「ワルキューレの騎行」を響かせる漆黒のフォルクスワーゲン！　23

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

漆黒フォルクスワーゲンのハイビームが、五人の若者を載せたシェヴィーのサイドミラーに反射する。「ワッツ？」チェットが呟く。「どうした、チェット？」ジョージが赤毛に櫛を入れながら聞く。「後ろのやつが眩しいんだ」「どうしたんです？」ケンが後ろを振り向いた。その時！　26

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

ズゴゴーム！急加速したフォルクスワーゲンがシェヴィーに迫る！グリルが左右に開き、突き出されたのは黒く禍々しい銃口！「えっ？」ケンの声に、残る四人も一斉に後ろを振り向いた。「「「「ワッツ？」」」」ズババババババ！フォルクスワーゲンのマシンガンが火を吹いた！　25

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

「「「「「ギャーッ！」」」」」夜のハイウェイに響く若者五人の悲鳴！シェヴィーはその場でスピン！ハイウェイ脇の林に突っ込む！ズドン！シェヴィーは爆発！夜の闇にボーイスカウトのキャンプファイアみたいな火柱が上がる！『アメリカを守らなきゃ～』壊れたスピーカーからブロンディの歌声！　26

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

「ムッ……この声は」マシンガンをしまったフォルクスワーゲンのゆったりした後部座席で、ガスマスクをつけた男が唸った。「やつらの歌ですわ」ハンドルを握る氷のような美貌の女が唸る。「忌々しいブーブス・バンド……またぞろやつらが現れねばよいが……」鉤爪義手がキラリと光る。　29

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

フォルクスワーゲン、マシンガン、ガスマスク、鉤爪義手……これらが意味するものはそう、ナチスだ！しかし、ナチスがなぜテキサスなんかに？そして彼らが向かう先は……？ああ、なんてこった！ブーブスたちがいるライブハウス！今回はいったいどうなってしまうのか？でもその前にＣＭをどうぞ。　28

ブーブス・バンド・ブートレグ @BSSB_bootleg

【トウモロコシの海】