【超常科学NVL OCCULTIC;NINE】Twitter連載
「今の、女の子の声……だよな」 少なくとも、父さんの声じゃないことが分かって、少しガッカリした。 でも、だとしてもなんらかの電波を受信したのは確かだ。 もう一度、今の女の子の声を聞いてみたいとは思った。 なにかを伝えたがっていたように感じたんだ。
2014-07-28 22:14:36「“このままだと世界は”……とかなんとか言ってたような気がする」 もしかして、どこかのラジオ局が放送しているラジオドラマが混線しちゃったのかとも思った。
2014-07-28 22:15:04でも、そんな混線はあり得ない。スカイセンサーはそのとき、短波しか拾わない状態になっていた。そして、今のこのご時世に、わざわざ短波でラジオドラマを放送する人なんていない。 「父さんなら、分かったのかな」 僕は改めてスカイセンサーにかじりついた。
2014-07-28 22:15:58その後もダイヤルをさらに微調整したり、一度電源をオフにしてもう一度オンにしたりと、色々やってみたけど、どれだけ粘ってもスピーカーからあの声が再び聞こえることはなくて。
2014-07-28 22:16:26気が付けば暑さで汗びっしょりで、ひどく喉が渇いていて。 たまらずベンチの背もたれにぐったりと身を預け、夏の夕焼け空を見上げた。 夕日が、目の前の十階建てマンションの向こうに沈もうとしていた。 やけに眩しく感じて、太陽に向かって手をかざした。
2014-07-28 22:17:13世界はそのとき、黄昏色と、長く伸びた影の黒色と、二色に分断されていて。 公園内は、目の前のマンションのせいですべてその影の中に没していた。 影の色が、やけに濃かった。 どうしてそう感じたのかはよく分からなかった。普段、影の濃さなんてまったく意識しないのに。
2014-07-28 22:18:08ふと、視界の隅でなにか動くものがあった。 公園の中央。カラフルな遊具の上。 何気なく僕がそちらへ目をやったのと―― トン、と彼女が滑り台の上に“着地”したのが、ほぼ同時で。 ――いつから、彼女はそこにいた? 僕が座ってるベンチからは、公園の全体が見渡せた。
2014-07-28 22:19:08公園の中央にある滑り台へ行くためには、入り口から少なくとも五メートルは歩く。 彼女は公園に、いつ、入ってきて。 いつ、遊具に上り。 いつ、滑り台の上でジャンプしたのか。 思考が整理できなかった。
2014-07-28 22:19:46そんな戸惑ったままの僕の前で、着地した彼女のふくよかな肢体がよろけた。そのままサーフィンでもするように立ったままズルズルと滑り台を滑り降り、一番下でつんのめった。
2014-07-28 22:20:22よろりと前のめりに倒れ……ることはなく、一本足のまま器用にバランスを取ろうとして両手を広げ、さらに足を取られ、もつれるように身体を右へ左へとひねりながら、僕が座るベンチの方へヨロヨロと向かってきた。
2014-07-28 22:21:05僕は――魅入っていた。 彼女が人間だとは思えなかった。 空から降ってきた天使かなにかだと、本気で錯覚した。 だから、動けなかった。 ただ間抜けにベンチに腰かけたまま、よろけた彼女が迫ってくるのを見ていた。
2014-07-28 22:21:51ぶつかる――と思って身をすくめたとき、その寸前で、ようやく彼女は僕の目の前で立ち止まり、 「ぽんや!」 と、意味不明の単語を叫んで、背筋を伸ばし、両手をYの字に掲げた。 「ウルトラしー!」
2014-07-28 22:22:48彼女の顔を見るより先に、僕の目の前に、凶器と呼んでも過言じゃない豊満な胸が突き出され、ぶるるんと、揺れていた。 「うぉぅふ!?」 思わずのけぞっちゃって。 そこでようやく、目が合った。 僕とほとんど歳が変わらないくらいの、瞳の大きな女の子。 不思議そうに、僕を見ていた。
2014-07-28 22:23:58「おはこんばんにちは」 第一声がそれだった。レトロアニメのアラレちゃんのそれとはちょっと違っていて。 「あ、おお、おは、こんばん、にちは……」 いきなりヘンテコな挨拶をされて、戸惑った。
2014-07-28 22:24:43次いで、強烈な罪悪感と恥ずかしさに襲われた。至近距離で爆乳をまじまじと見つめちゃったのが申し訳なくて、顔が熱くなった。でも、少しでも動けば目の前のおっぱいに触れちゃうから、逃げ出すこともできなかった。 「いししゅ。手を上げろぉ」 そんな僕の側頭部に、なにかが突き付けられた。
2014-07-28 22:25:57視界の端にかろうじて見えたのは、彼女の手に握られた銀色の……拳銃のようなもの。 ――彼女は、そんなもの持ってたっけ? 分からない、まったく意識していなかった。そしてその拳銃が本物なのかオモチャなのかも、動けない僕には確かめる術がなくて。
2014-07-28 22:26:51「上げないと、撃っちゃうぞぉ☆」 そんな緊張感のない脅迫を前に、僕はますます混乱して、彼女の胸に触れないように恐る恐る両手を挙げていた。 「おぬし、お名前は?」 「お、おっぱいは、見てません……、だから、殺さないで……」 「オッパイハ、ミテマセン?」
2014-07-28 22:27:43「あ、僕の、名前? な、名前は、我聞悠太……!」 「ガモタン!」 そんな呼ばれ方をされたのは初めてだった。 「りょーたすは、りょーたす!」 それが自己紹介のつもりらしかった。だけど、まったく意味不明だった。 ますます混乱して。
2014-07-28 22:28:23「君は、いったい……?」 思わずつぶやいたら。 「いーしーしゅ☆」 いきなり、衝撃が全身を貫いた。 「あばばばばば!」 視界が虹色の閃光で埋め尽くされる。
2014-07-28 22:29:01雷にでも撃たれたみたいに身体が痙攣して、言うことを聞かない。身体中を無数の針でひたすら刺され続けているようで、頭がおかしくなりそうだった。 りょーたすに、本当に撃たれたのだと理解して。 「やめ……あぎぎぎぎぎ!」
2014-07-28 22:29:45いつの間にかりょーたすのおっぱいに顔が挟まっているという緊急事態に気付き、急いで顔をおこす。 そこで、ふっと痛みが消えた。 身体中から力が抜け、たまらずその場に崩れ落ちる。
2014-07-28 22:30:26いきなり撃つなんて、めちゃくちゃだ。この女の子はヤバすぎる。いくらかわいいからって、許されることじゃない。
2014-07-28 22:30:44