ハリウッド映画人はなぜ『アマデウス』に投票したのか

音楽映画の傑作を分析します。
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It happens sometimes @ElementaryGard

私のだーい好きな映画のひとつ『アマデウス』について。アカデミー賞をどっさりいただいたことでも有名です。なぜ票を集めることができたか?それは、映画人の胸のうちを代弁してくれる台詞があちこちに仕込まれていたからです。

2014-08-31 22:58:07
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中盤。モーツァルトの野心作『フィガロの結婚』の上演がようやく認められます。ところが稽古中、劇場責任者の伯爵さまがモー氏の楽譜を検閲してどんどん破り捨ててしまいます。怒るモー。

2014-08-31 23:04:21
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What are you doing? 「何するんだ」 Taking out what you should never have put in. 「楽譜に書きこむべきではなかったものを取り除いておる」 pic.twitter.com/QnMes2KzWs

2014-08-31 23:07:01
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仮定法が効いてます伯爵の台詞。彼はモーを前から好いていなくて、皇帝の勅令を盾にモーの妨害にかかるのです。検閲は自分の権利である、と。

2014-08-31 23:09:01
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モー氏、この映画の主人公(彼も作曲家)に泣きつく。 l have no one else to turn to. 「他に頼れるひとがいなくて」

2014-08-31 23:10:58
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The Direktor has actually torn up a huge section of my music. 「劇場監督がぼくの曲をどっさり破り捨てたんです」 actuallyには「信じがたいことに」のニュアンスがあります。

2014-08-31 23:14:08
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They say l have to rewrite the opera. 「今度のオペラは書きなおさないといけないって連中がいうんです」 主語がtheyです。劇場監督とその一派のこと。

2014-08-31 23:15:35
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But it's perfect as it is. I can't rewrite what's perfect. 「だけど今ので完璧です。完璧なものを書きなおすなんてできません」

2014-08-31 23:18:11
It happens sometimes @ElementaryGard

主人公どのはモーを誰よりも憎んでいて、観客にはそれがすでに伝わっているのですが、劇中でそのことは誰も知らない。モー氏もです。知らないので彼に相談を持ちかける。観客にすれば「ばかなまねはよせモー。それは逆効果だ」と心のなかでツッコミを入れるところです。

2014-08-31 23:20:45
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主人公アントニオ氏の表情に注目。モーにすれば、自分の窮状を知って驚いてくれている顔と取れるし、我々観客にすればそれが仮面だと取れます。二つの視点を意識してこの役者さんは顔を作っているのです。 pic.twitter.com/e6l9ZUXDDh

2014-08-31 23:23:16
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なぜ仮面(作り笑いならぬ作り驚き)と観客にわかるのかというと、これの少し前にアントニオさんは、問題の劇場監督に皇帝の勅令のことを思い出させているからです。

2014-08-31 23:24:55
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Mozart is already rehearsing. 「モーツァルトはすでに稽古にかかっている」by伯爵 pic.twitter.com/i9sYAgvipH

2014-08-31 23:27:08
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アントニオ、伯爵、それにでぶの宮廷楽長。この三人はイタリア系でして、イタリアはオペラ先進国ということでオーストリア音楽界でも権力を持っています。伯爵と楽長は露骨にモーを嫌っているのですがアントニオは中立、という顔を続けています。むろん腹では死ぬほど嫌っているのですけど。

2014-08-31 23:33:34
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公正で高潔な作曲家として通っている(腹は違うことは映画のはじめのほうですでに観客に提示されています)彼としては、二人に同調してモー妨害策を提案するなんてことはできません。

2014-08-31 23:35:33
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ここでもアントニオの表情に注目。伯爵&楽長からの視点と、我々観客の視点の両方を意識した表情を役者さんは作っています。 pic.twitter.com/wPPXlqur40

2014-08-31 23:36:49
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こうやってことばにすることで改めて感心しますねこの映画。劇中人物と観客の二つの視点が主人公アントニオに注がれ、彼は常に葛藤状態に置かれるわけです。そして役者さんはどっちの視点で解釈しても成り立つ顔を作らないといけない。

2014-08-31 23:39:27
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イタリア仲間に同調しないといけないし、といって公正さが売りのイメージも崩せない…どうするアントニオ?と私たち観客はサスペンスを感じる。アントニオ氏が立ち上がる。「うーむ私はどうしたらいいんだろう」といわんばかりに。 pic.twitter.com/7LBohsOShU

2014-08-31 23:46:18
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切り出したのは思わぬ提案。 ln that case, gentlemen, l think we should help him all we can. 「そうとあればお二方、我ら全力で彼を手助けすべきだと思う」

2014-08-31 23:51:16
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びっくり。イタリア仲間である彼がなぜ、モーの肩を持つようなことを言い出すのか?と。 pic.twitter.com/JChdhcXHlZ

2014-08-31 23:52:27
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And do our best to protect him against the emperor's anger. 「そして皇帝のお怒りから我ら全力で彼をかばうのです」

2014-08-31 23:54:27
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What anger? 「お怒り?」 About the ballet. 「バレエの件です」 pic.twitter.com/0TZvmZtcw0

2014-08-31 23:55:40
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What ballet? 「バレエの件?」 ここも巧い。観客の私たちも伯爵といっしょに心の中でこのツッコミをするよう誘導してるのです。脚本の力。 pic.twitter.com/MidfyPzDcF

2014-08-31 23:58:56
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Excuse me, but didn't His Majesty specifically forbid the ballet at his opera? 「陛下は国立劇場のオペラでのバレエは禁じておられたのでは」 pic.twitter.com/5BapMLurd3

2014-09-01 00:02:41
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his operaをきちんと訳せないといけない。国立劇場すなわち皇帝の劇場で上演されるオペラだからhis operaです。

2014-09-01 00:04:07