小さなお客

語り部は見知らぬ「街」へ辿り着く。 外套に身を包み、その顔は烏の仮面に覆われていた。 その姿は街人達に、不審な者として認識させた…… 続きを読む
0
コルニクス @lemures0

街へ降りるとそこは随分と賑やかな場所だった。前の街はこの時間になれば、殆どの店は”店仕舞い”を終え、静まり返っていたのに… 黒いマントにフードを深く被り、更に顔は白い鴉の仮面に覆われているーーそんな人物の姿は珍しい様で、酒に酔った大男が、ついに”彼”の肩を掴み引き止めた。

2014-08-21 20:22:50
コルニクス @lemures0

ーおい、見ない顔だな兄ちゃん。名は? 「私は”コルニクス”、『語り部』です。」 ー『語り部』ェ?なんだいそりゃ。 「『語り部』は、人々に様々な”話”を語って聞かせ、旅をします。」 ーその仮面は? 「『語り部』は皆仮面を付けなければなりませんー。」

2014-08-21 20:29:13
コルニクス @lemures0

男は”彼”がこの街に害を成す人物で無いことを認めると、肩を掴んだその手を離す。 ーこの街に何か悪いものを齎すなら、俺は絶対に許さない。 酒に酔った大男はそう言った。 『語り部』は物語を語るだけ。そんなことはしない… ”彼”は独り言のように呟くと、再び街の更に奥へ、歩を進めた。

2014-08-21 20:34:23
コルニクス @lemures0

街の奥の更に奥ーー…賑やかな場所とは一変し、人っ子一人姿を見せぬ廃墟のようなその場所で、”彼”は路地に腰を下ろした。 小さな鼠が”彼”ー語り部の足元に現れた。 「…そうだな、今宵のお客様は君としようか。」 語り部は鼠を掌に乗せ、僅かに口元を緩ませる。

2014-08-21 20:44:56
コルニクス @lemures0

「語ってあげよう、君だけに。僕の初めてのーーとても小さな、お客様…」 まだ大人になりきれぬ、子供としての未熟さを残した語り部の声が、静かな路地に響き渡る。 そして語り部は語り始める。 街の噂、御伽噺、またはそれに纏わる、誰かの物語を… pic.twitter.com/qOsMMPlXTE

2014-08-21 20:48:57
拡大
コルニクス @lemures0

語り部の手から鼠が飛び降り、真っ暗な路地裏へ走り去って行った。残された語り部はフゥと一息つくと、腰を上げマントの砂を払う。 「宿など取れそうにない…どこか安全そうな所で眠ろう」 月明かりを頼りに、足元も見えないような暗い街中を歩き始めた。

2014-08-21 21:54:23