#空想の街 ハンツピィの宴2015 #作家と女房

タイトル通り空想の街、ハンツピィの宴です。前回より編集かけてます。
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自己紹介

佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

自己紹介① #作家と女房 の作家(40代前半、白髪がぽつぽつ出ている) 非常に言葉が足りない性格。結果女房がやきもきするを繰り返している。 女房Love。ほんとうに好き。でも口に出せない不器用。 小説家だが小説を書いていない。不思議なものが見えて魅入られるひと。#空想の街

2015-10-24 00:08:51
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

自己紹介② #作家と女房 の女房(20代中頃、髪の長い女性) 直情的だが優しくしっかり者、素直になれないことも多い。恋愛に難のある性格。 3年前以上に作家と知り合い、2年前に結婚した。 作家の作品のファンであり、作家Love。でも作家の言動の足りなさにやきもきする。 #空想の街

2015-10-24 00:12:37

プロローグ

佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

晴れの日のことである。 ある国で作家と暮らす女房がいた。 年若くもしっかり者の彼女は、作家を助け、作家もまた女房のことを気にかけていた。女房は元は作家の熱心な読者だった。作家の作る物語は読んでいると何かしたいと思うような、情熱的な作品が多かった。 #空想の街 #作家と女房

2015-10-24 00:25:47
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

しかし女房と作家が以前住んでいた国で、言論弾圧が吹き荒れた時、作家は筆を折られ、一時的に拘束された。 その後、今住んでいる国に二人は移り住んだのだが、彼はそれ以来小説を書いていない。ただ食べることが好きなので、それを読み物として売って生計を立てている。#空想の街 #作家と女房

2015-10-24 00:26:23
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

これは女房にとって由々しき事態であった。何故、小説を書かないのか。 彼の新作を読みたかった。彼女は女房になっても、少女時代と変わらず、熱心な読者だったのだ。 しかし弾圧された時の、その言葉に尽くせぬ哀しみを味わった作家のことを考えると、女房は何も言えない。#空想の街 #作家と女房

2015-10-24 00:27:02
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

本当にひどい時代だった。女房はかつてを振り返ると背中が引きつるように痛む。傷痕が泣くのだ。 さて……語り部の前説はここまでにして、物語をはじめよう。 焦れったい話だ。 言えばいい話を二人は言えない、不器用な話だ。それでもよければ、少し時間をお借りしたい。#空想の街 #作家と女房

2015-10-24 00:28:08
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「時計塔のある街ですか?」 女房が目を丸くしてそう言うと、不惑も過ぎて、髪の毛にぽつぽつと白髪が見え出した作家が頷いた。 「そう、今度行こうと思う。どうだ、花月。君も行かないか?」 #空想の街 #作家と女房

2015-10-24 00:29:16
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

作家が女房を旅行に誘うなど珍しいことだ。作家は不思議なことが好きだった。きっと、その街には彼の興味の引くような「不思議」があるに違いない。 「わかりました。荷物を用意しますので、待っていてください」 「そうか、行ってくれるのかい」 #空想の街 #作家と女房

2015-10-24 00:30:29
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

「行くも行かないも、聞かれるまでもありません。行きますよ。それに……」 「それに?」 女房は少し拗ねて、唇をとがらせた。 「あなたの帰りを待って、あなたのお土産話を聞かされてばかりで、少し癪でしたから」 そう言って、女房は襖をしめた。作家は思った。#空想の街 #作家と女房

2015-10-24 00:31:20
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

ひどく自分は、花月に寂しい思いをさせていたらしい。 取材であちこちに行く日々は女房はたまらなかったのか。 懐から作家は蝶の髪飾りを取り出した。紅の飾り紐がついた細工の細やかな髪飾りを、作家は持て余した。 女房によく似合うと思うけれど。 #空想の街 #作家と女房

2015-10-24 00:32:17
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

あの様子では素直に受け取るまい。 作家は卓袱台の上に置かれたみかんを見る。甘い芳香を漂わせていた。一つ剥いて歯を立てて齧る。口の中に爽やかな酸味と果実の甘みがまぜこぜになって、狂騒する。 髪飾りの蝶をみかんに置いた。蝶がみかんと戯れているように見える。#空想の街 #作家と女房

2015-10-24 00:34:27
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

みかんを無造作に食べてしまったので、手は果汁でべたべたになった。作家は腰を重たげに立ち上がり、台所に向かった。 その頃女房は化粧して、着慣れている服から、外行きの服に着替えた。さらに化粧をして小さい薔薇の髪飾りをつけると。 鏡台に淑女が現れる。#空想の街 #作家と女房

2015-10-24 00:37:00
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

素直になれないだけで、女房は作家に誘われて嬉しかったのだ。女房は服にシワがないか確認すると、胸に手を置く。 自分はどうして素直になれないのか。自分の感情には素直だが、作家の前では可愛くなれない。作家との付き合いはそれなりになるのに。#作家と女房 #空想の街

2015-10-24 00:38:12
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

作家は一回り以上も若い妻の、感情の波の大きさに嫌気を差さないのか、不安になる。けれどそれを口にすれば、作家はきっと困ったように眉を下げるに違いない。作家は口下手で、説明足らずだ。けれど優しい。根は優しくて、悲しくなる性を持つ男だ。女房は作家を好きだった。#作家と女房 #空想の街

2015-10-24 00:41:11
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

愛想をつかすなんて想像できない。だけど作家から見て、自分は果たして可愛いのか。嫌にならないのか。分からなかった。 作家がいるはずの居間に行く。作家はいなかった。みかんが少なくなっている。置かれたみかんの皮にため息をつく。 ふと見慣れない物に気がついた。#作家と女房 #空想の街

2015-10-24 00:42:02
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

蝶の髪飾りである。細やかな細工が美しく、それ相応の代物であるのは一目瞭然だった。女房は優しい手つきで髪飾りに触れた。 「それをつけなさい。花月」 惚れ惚れと見ていると、作家が声をかけてきた。 「いたのなら。早く声をかけて下さい。藪から棒にびっくりします」 #作家と女房 #空想の街

2015-10-24 00:43:57
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

作家は一瞬バツの悪そうな顔をしたが、すぐにいつもの無愛想な顔になった。 「その蝶は君がつけなさい」 「でもこれ、とても高そうでつけるのがもったいない」 「どうして? いいじゃないか。君は花なのだから」 「え」 「花は蝶を纏うものだ。なんの不思議もない」 #作家と女房 #空想の街

2015-10-24 00:45:46
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

女房はうなじまで赤くなるのを感じた。作家は縁側に出る。とつとつとした足音が聞こえる。きっと自分の旅の準備を始めるのだろう。 女房は薔薇の髪飾りを外して、丁重に蝶の髪飾りがつけた。 金細工が柔らかな女房の髪によく似合う。 自分は作家から見て花であるらしい。 #作家と女房 #空想の街

2015-10-24 00:46:54
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

そういえば以前読んだ作家の小説にも、蝶と戯れる少女を「花」だと言った少年がいた。少年は少女への愛を心に秘めていた。 あれは国の方針で自分の思いを潰される少年と少女の悲恋の物語だったけど。 国の愚かさが人の心を壊すという批判がつまった彼の最後の小説だった。 #空想の街 #作家と女房

2015-10-24 00:47:39
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

女房は治ったはずの背中の傷がひきつるような感じがした。 ここはもう、作家から作品を奪う国ではない。安全な国だ。 けれども作家は小説を書こうとしない。 女房は普段は胸の奥底に秘めているざわつきが、鎌首を持ち上げようとしているのを感じ始めていた。#作家と女房 #空想の街

2015-10-24 00:49:26

雨が降る

佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

港から街に入り、役所で換金し、ポムの実をついでにもらった。明日の宴の頃にこれを食べると獣の特徴をつけたものになれるそうだ。 やはりただ行きたいから来ているのではないのですねと女房は思った。 「あなたは不思議なものが。好きですね」 作家は何も答えなかった。#作家と女房 #空想の街

2015-10-24 13:25:57
佐和島ゆら@星月堂へようこそ(新作)販売中 @sawajimayura227

女房も何も答えないことに何も感じない。 別に作家は好きで追いかけているのではない。 つい追いかける。不思議なものが自分をとりこもうとしているのにも関わらず、だ。 知らない土地では鈴でもつけないと、すぐに猫を見失ってしまう。初めての街は。女房は怖い。#作家と女房 #空想の街

2015-10-24 13:31:04
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