♮2 間奏曲 ♪ 反逆のアフタヌーン 前編 2/2
- hosidukuyo
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彼にとっては、使用人の仕事をする屈辱も貧乏人じみた空腹も、土下座と同程度には避けたいことであった。 『どうしたクズ?』 それでも彼の手足である使用人を急ぎ呼び集めるにはどうしても住所録は必要である。 『急げクズ』 「わ…分かった」 『ああン?』 「分かり…ました」80
2014-09-08 02:29:50ゆっくりと四肢を床につける。膝が着いた瞬間は虫でも潰したかのような不快感だった。そしてゆっくりと頭をを垂れる。 『早くしろよ托馬』 歯を食いしばる。深呼吸をしする。 「住所録を…場所を教えて…くだ…さい」 『…なんだって?』 「住所録の場所を教えて下さい!」81
2014-09-08 02:35:07『どうしたクズ?』 「おい!話が違うぞ!」 土下座のまま托馬が叫ぶ。 『急げクズ』 「も、もう頼んだだろう!」 『ああン?』 「た、頼んだでしょう!教えて下さい!」 『早くしろよ托馬』 「お願いしますっ!おしえて…下さい!」 泣きわめきながら叫ぶ。 83
2014-09-08 02:45:09そしてまた沈黙が続き。 『どうしたクズ?』 「…だ、だから!教えてくれと…」 『急げクズ』 「…?」 『ああン?』 「……」 『早くしろよ托馬』 そしてまた沈黙が続き。 『どうしたクズ?』 4周目でようやく托馬が気付いた。 84
2014-09-08 02:50:15「おのれぇっ!」 泣きながら受話器を投げつける。電話本体に当たり、台の上から落ちる。いつの間にか録音した物を流されていたのだ。托馬の一世一代の土下座と謝罪など、星護にとってはハエのすり足やゴキブリの羽音にも劣るものである。食事時に聞くものでは無い。 85
2014-09-08 02:55:12途方に暮れ、ゆっくりと立ち上がる。自然と目線が正面の電話跡に向かう。メモが置いてある。『住所録は祖母(托馬の妻)の部屋にある』という旨が書かれていた。星護の言った通り「土下座をすれば(そしてキレて電話を落とせば)分かる」様になっていたのだ。 86
2014-09-08 02:59:06彼は高確率でこうなると踏んでいた。こうならなくとも、托馬とてもう数時間あれば妻の元へ向かっただろう。例え老いて昔の美貌の影も無くなったが故に興味の失せた妻の元であっても。更にそうならなくとも水があれば明後日まで死ぬことは無い。星護に彼を死なせる気は無かった。それでは困る。 87
2014-09-08 03:05:05生きぬよう、死なぬように苦しんで欲しい…と言う以前の問題がある。今、彼が死ねば、彼が抑えていた不祥事や犯罪が明るみになる。娘に対する「虐待」や星護の生まれについても。そうなれば星護達の生活に悪影響が出る。 88
2014-09-08 03:12:10「ああああっ!」 そんな息子の意図など知らぬ托馬は慟哭する。何故、何不自由なく与えてやったのに星護は裏切ったのか?自分はこれからどうなるのか?この世のすべての不条理を背負い込まされたかのように錯覚しながら、托馬は床を殴り、みっともなく泣き喚き続けた。 89
2014-09-08 03:18:14一方の星護は未菜途や同居人達と共に、生まれて初めてとも言える「楽しい食事」に舌鼓を打っていた。そして、祖父の健康はともかく出来るだけ長命であることを、まあ割と心から祈るのだった。 90
2014-09-08 03:24:13~エバーラスティングアロー第18話 幕間 「♮2 間奏曲 ♪ 反逆のアフタヌーン」~ 前編終わり 中編に続く
2014-09-08 03:26:02