アーバン・レジェンド・アブナイ #2

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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【アーバン・レジェンド・アブナイ】#2

2014-09-03 21:36:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(あらすじ:元ヤクザの囚人ヤマヒロは、スガモ重犯罪刑務所のグラウンドで、無意識のうちにスリケン図形を描く奇妙な囚人と遭遇。その男イシカワは、自らのニンジャ体験談を誰にも語れずにいたのだ。ヤマヒロという理解者を得たイシカワは、自らが見た都市の暗黒世界とニンジャ体験談を語り始め……)

2014-09-03 21:43:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「勿体振るなよ」ヤマヒロが監視塔の時計を見ながら、急かす。「勿体振ってるわけじゃない。自分の……記憶の整理をしながらなんだ。……実際大がかりなアタックだった」イシカワが語り始めた。「通常のハック&スラッシュは、多くても4人程度。その時は確か、8人は居た。スモトリが2人も……」 1

2014-09-03 21:50:04
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……そのパーティには、スモトリが2人もいた。俺が体験した十数回のアブナイ・ビズの中で、そんな偏った編成に加わるのは初めての事だった。俺たち8人はアヤセ地区の廃コタツ工場に集まり、初めてチーム全員と顔を合わせた。クライアントは、サイバーサングラスにスーツの謎エージェントだった。 2

2014-09-03 21:58:29
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エージェントの正体を探ろうとするような、ヤボな奴は皆無。エージェントはどう見ても、Y-12型かY-13型のクローンヤクザだった。他の連中にも、それは解ったようだ。クローン兵士は都市伝説ではない。ここに居るのは、少なくとも、その程度は闇社会に精通したアウトローたちばかりなのだ。 3

2014-09-03 22:04:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

皮肉な話だ。裏社会じゃあ、クローンヤクザの製造提供元は、ヨロシサン製薬だと言われている。出荷履歴をロンダリング偽装するための中古闇取引も横行しており、今では暗黒メガコーポの多くが、クローンヤクザを「最も忠実なコマ」として使い始めている。やがて俺たちの食い扶持は無くなるだろう。 4

2014-09-03 22:10:03
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俺は少し安心した。雇い主…つまりバックにいる後ろ盾は、クローンヤクザを使いに出せるほどのパワーを持っているからだ。それ以上は詮索しなかった。考えても無駄だし危険だからだ。俺は他の連中を見た。パラディン1、スモトリ2、スラッシャー2、オイランスラッシャー1、俺を含めハッカー2。 5

2014-09-03 22:17:06
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「ちょっとした戦争でも起こそうってのかね」熟練スラッシャーと思しきシゲオが、仕込みサイバネナイフを磨きながら軽口を叩いた。傷だらけの人工皮膚で覆われたその顔はロシア人を思わせ、目も青色に改造されていた。他は皆無口で陰気な奴ばかりで、誰も反応しなかった。 6

2014-09-03 22:23:09
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「軽口叩くなフクワライ野郎。ブリーフィング途中だ」パラディンのサダイエが、望遠型サイバネ義眼でシゲオを睨んだ。「最も経験豊富、俺がリーダーに選ばれた。百人殺した確かな実績。俺がチームを支配する。不協和音は排除する」パラディンと組むのは初めてだが、俺はこの男が気に喰わなかった。 7

2014-09-03 22:32:26
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……「お前もか?ハッ!あの野郎を気に入った奴なんざ、一人もいねえよ」俺の言葉にシゲオが同意した。オイランスラッシャーともう1人のハッカーも頷く。幸い、ミッション開始前に空中分解とは行かなかった。俺たちはもう2台のクルマに分乗し、重金属酸性雨の中、目的地点へ向かっていたからだ。 8

2014-09-03 22:42:36
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「あっちはさぞかし静かで快適だろうよ、喋り続けるバカもいねえ」シゲオが片手でハンドルを操作しながら言った。先行の大型車には、パラディン様とスラッシャー。スモトリは体が大きいので、これも前のクルマに乗っている。「俺は陰気なビズは嫌いなんだ。俺は楽しみでやってるからな」とシゲオ。 9

2014-09-03 22:48:47
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目的地まで1時間弱、夜のドライブ。これだけ集められたにも関わらず、俺たち8人は誰とも直接面識が無かった。「自己紹介しようか」と女が言い、皆が応じた。普段のビズと同じく、誰も怖じ気づいてなどいなかった。薬物をキメているか、狂っているか、その両方だろう。ちなみに俺は後者だった。 10

2014-09-03 22:58:51
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言わずもがな、こうした連中の多くは、抜け目無く情報を仕分けする。どこに住んでるだの本名だのを明かすイディオットは、早晩タマ・リバーに浮かぶだろう。自己紹介とは、経験やタイプ速度やキル数で自分がどれだけ有能かを知らしめ、また自分が真のサイコ野郎ではない事を証明する時間である。 11

2014-09-03 23:08:04
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オイランスラッシャーが毒々しいマニキュアを左のサイバネ戦闘義手に塗りながら言った。「元は、とあるカチグミ企業のオーエル(原註:女のサラリマン)」その義手は最新式で艶かしく、おそらく特注品かカスタム品だった。「スゴイ」ハッカーが電子音声で無感情に言った。「スゴイ」繰り返した。 12

2014-09-03 23:17:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この調子で、時計回りに自己紹介した。オイランがかなり突っ込んだストーリーを持ち出したので、2周目が始まった。「湾岸警備隊で技術を学んだ。マグロだと思って殺すのさ」シゲオが言った。全員の開示情報がおおよそ等しくならないと、ムラハチにされる。秘密主義も語り過ぎもアブナイだ。 13

2014-09-03 23:26:37
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俺は次のビズでまた組めそうな奴を見極めるため、注意深く話を聞き、サイバネ耳管で全員の心拍数をモニタリングしていた。特に乱れは感じられなかった。こうした自己紹介は、潜入マッポの炙り出しにも役立つらしいが、今回その心配は無用だった。全員が筋金入りのハッカーかスラッシャーだった。 14

2014-09-03 23:36:51
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2周目が回ってきた時点で、俺の開示情報が少ないのが明白だった。モチベーションの札を切るのがいいと思い、俺は胸に入れていた難病少女の写真を見せた。有効だった。「そりゃ、贖罪のつもりか」シゲオが訊ねた。「贖罪?」俺にはその言葉の意味がよく分からなかった。「殺しの罪滅ぼし」と女。 15

2014-09-03 23:42:14
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「誰も殺してない」俺は笑った。実際そうだった。俺はハッキングをして扉を開き、中の連中を殺すのはスラッシャーの仕事だ。「罪滅ぼしでもない」俺は頷いた。実際なんでそんな事をしていたのか、自分でも解らない。「何か、行動に意味を持たせたいんだろうな」クルマは丁度ハイウェイを降りた。 16

2014-09-03 23:50:56
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……「今ではどう思ってんだ?」ヤマヒロが少々落ち着かぬ様子で聞いた。「贖罪について?」「ああ」「実際……俺は今、贖罪を求められているのかもしれない。俺が生き残って、ここに収容されたのは、何か意味があるんじゃないかと思えてきた。だから喋ってるんだ」「なら核心を聞こうか、兄弟」 17

2014-09-03 23:54:37
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……俺たちは業者用の偽造コードを提示して、ヨロシ・バイオサイバネティカ社の第8オフィス無人ゲートを堂々とくぐった。少し、記憶が途切れがちになる。この後に起こった事がショッキングだったからだ。俺たちは地下駐車場で装備を整え、パラディンの指揮の下、ハック&スラッシュを開始した。 18

2014-09-03 23:58:14
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最初の扉は二人掛かりでハックして突破した。廊下を進んでいるとツーマンセルの警備クローンヤクザが銃撃を仕掛けてきた。ここでスモトリが一人脱落したが、こちらには重サイバネ者が多く、チームワークも悪くなかった。パラディンが銃撃で支援し、スラッシャーたちが切り掛かって淡々と殺した。 19

2014-09-04 00:03:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

パラディンはクライアントから受け取った内部情報データをもとに、鬼軍曹か何かのように俺たちを目的のUNIXルームへ導いた。スラッシャーたちも順調にキル数を重ねた。夜勤社員はおらず、クローンヤクザばかり。途中の廊下の壁には「納期ゼッタイ」「毎日夜勤だ」の警句。今思えば妙だった。 20

2014-09-04 00:09:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

敵の抵抗は激しかったが、俺たちはそれ以上の脱落者も出さずにUNIXルームに侵入。「やや物足りない程だ」とパラディンは自画自賛していた。『もう少し死なねえと、取り分が増えねえな』シゲオは俺にIRCウィスパーで軽口を送った。次の瞬間「ンアーッ!」パラディンがオイランを銃殺した。 21

2014-09-04 00:15:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……シゲオは反射的にサイバネナイフを抜こうとしたが、留まった。パラディンは、オイランスラッシャーの手に握られたLANケーブルを示した。それはハッキング対象外である別のヨロシサンUNIXに接続されていた。「契約違反行為なので粛正した。追加で盗み出し小銭を稼ごうとしていた模様」 22

2014-09-04 00:24:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

険悪なアトモスフィアの中、パラディンは依頼主から渡されていたフロッピーをマザーUNIXに挿入した。「どうした、ハッカーども、やれ」彼は高圧的に命令した。増援のクローンヤクザが廊下を走ってきた。応じるしかなかった。スラッシャーとスモトリが廊下に出て、俺たちはタイプを開始した。 23

2014-09-04 00:29:33
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