【第三部-参】静寂の部屋に届く声 #見つめる時雨

時雨×龍鳳 ※R-15
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誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「…んっ…ぁ…」 深夜の暗い部屋から聞こえてくる、切なさを噛み潰したようなか細い声が、秋の虫の音をかき消していく。 「…あっ…ん…時雨…」 声が僕の名前を呼ぶ。色香で溢れ、ひどく艶やかなその声が、僕の耳に注ぎ込まれていく。龍鳳…もっと声抑えて…。

2014-09-20 01:10:10
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「…あ…んっ…ふぁ…」 彼女の声はとても、とても小さかった。しかし、その声をかき消してくれる音が、この部屋にはなかった。彼女の官能的な湿度を帯びた声は、僕の耳にひどく鮮明に届いていた。…やがて、彼女の声に混じって、水音が聞こえ始めた。

2014-09-20 01:15:09
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…彼女のこの行為に気がついたのはいつだっただろうか。はじめは悪い夢を見てうなされているのだと思った。…でも、それは違っていた。背中越しに聞こえたその声は、あの時の夕立から溢れ出た声と同じ色を含んでいた。…その声で、彼女は僕の名前を呼んでいた。

2014-09-20 01:20:08
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…龍鳳が僕と同じ理由でその行為をするんだとしたら、龍鳳…やっぱりキミは、僕のこと…。 「…時雨…ぁ…あぁ…」 龍鳳が切なそうな声を漏らす。その声は甘くて、でも、とてもつらそうだった…。

2014-09-20 01:25:10
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…龍鳳、キミは僕にとって…大切なひと。あの戦争で、僕は姉妹を失い、西村艦隊の皆も護れず、雲龍も護れなかった。でも…最後にキミを護ることができた。そして、キミに終戦の空を見てもらうことができた。キミがいるから、こんな僕でも誰かを護ることができるんだって…思えるんだ。

2014-09-20 01:30:11
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そんなキミに好きって言われたら…僕はどうすればいいんだろう…。僕は、また…大切なひとを泣かせちゃうのかな…。出来ることなら…僕は今のままでいたい。僕はこのまま気づかないことにするから、キミも胸にしまっていて欲しい。キミには…泣いて欲しくない…。

2014-09-20 01:35:10
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…違う。それじゃいけない。僕自身がそのせいでどれだけ泣いたか、忘れたわけじゃないだろうに。自分の中に想いを抱えて好きなひとと過ごすことがどんなに辛くて苦しいことか、僕は知っている。…山城も、こんな気持ちだったんだろうか…。それは、自惚れかな…。

2014-09-20 01:40:09
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突然、僕の背中に何かが触れた。それが龍鳳の手だと気づくのに、そんなに時間はいらなかった。龍鳳が、僕の布団に潜り込んできていた。…そんな、龍鳳…。 「…時雨…」 龍鳳が僕の背中にぴたりと身を寄せる。背中越しに、彼女の胸の鼓動が伝わってくるような気がした…。

2014-09-20 01:50:11
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龍鳳の心音に呼応するようにして、僕の胸の鼓動も早くなっていった。二つの心音が、重なるようにして部屋にこだまする。 トクン、トクン、トクン。 …身体が、熱い。

2014-09-20 01:55:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「…っ…ぁ…」 …龍鳳が僕のうなじにゆっくりと頬ずりをする。龍鳳の熱い吐息が、僕の肌をかすめる。ぞくぞくした感覚が背中を走り、僕はひくついてしまいそうな自分の身体を、必死に抑えた…。我慢しないと…。龍鳳に起きてることを気づかれちゃう…。

2014-09-20 02:00:22
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

…え? 龍鳳の手が、腋を通って僕の前に回ってきた。それはお腹の辺りを、ゆっくりと這ってきた…。 まって…だめ…ダメだよ…龍鳳…。 首に吹きかかる龍鳳の吐息が、ますます熱くなっていく。同時に、「ごめんなさい、ごめんなさい」と言う彼女の微かな声が聞こえてきた…。

2014-09-20 02:05:09
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僕の身体が、ぴくんと弾んだ。龍鳳が触れた僕の胸の膨らみから、じわりとした甘い刺激が波紋のように広がった。僕は零れてしまいそうになった声を、懸命に飲み込んだ。 「…っ…」 龍鳳がおそるおそるとした手つきで僕の胸に触る。そのぎこちなさが、却って僕の神経を鋭敏にさせていた…。

2014-09-20 02:10:10
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…僕の胸の一番敏感なところが圧迫された。自分でも、そこが固くなっているのがわかった。龍鳳、お願い…これ以上されたら…僕…。 「…んっ…」

2014-09-20 02:15:11
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

声が溢れ落ちた。それはほんの僅かな量であったけれど、静寂に包まれたこの部屋ではあまりに大きかった。…龍鳳の手が、止まった。しまった…。 「……」 彼女の手は胸の位置から動かない。起きてしまったんじゃないかと不安になっているんだろう。…僕はゆっくりと息を吸って、そして吐いた。

2014-09-20 02:20:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

背後で龍鳳のほっとしたような溜息を感じた。…よかった。気づかれてないみたい…。龍鳳はその後、固まっていた手を静かに引き抜くと、僕の耳元で一言…囁いた。 「…好き…」 …その言葉を聞いたとき、僕は胸に締め付けられるような痛みを覚えた…。

2014-09-20 02:25:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

龍鳳の気配が遠のく。そして隣の布団に入る音が聞こえた。…どれくらい時間が経っているのだろう。とても長い時間に感じられた。…僕の心臓は今もなお、激しく鼓動を刻んでいる…。 …龍鳳…。

2014-09-20 02:30:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

結局どうすればいいのか…答えは出せなかった。山城…僕、どうしたら…。 「…っ…ぅ…」 僕は両手で顔を覆い、声を抑えながら、ただ、泣くことしかできなかった…――

2014-09-20 02:35:10