ブラックバーン・スクアと1930年代英国海軍艦上戦闘機の思想
Wikipediaのスクアの記事、やっぱり問題多い。「評価」の部分は特に。執筆者は「スクアは「本来爆撃機で戦闘機としての機能は付けたし」「適当な艦上戦闘機がいなかったので仕方なく戦闘機として運用された」「適当な艦上戦闘機がなかったのは空軍に責任」というロジックを展開(続)
2014-09-29 22:14:34しているが、これ開発経緯よく読んでいくとまったく事実と反することがわかる。以下Till, Air Power and the Royal Navy:1914-1945から1930年代なかばから後半の英海軍の艦上戦闘機に関する構想を記述した部分を引用してみる。
2014-09-29 22:15:11「1939年に第1海軍卿に「航空隊の戦闘機については憂慮に堪えない」と嘆かせることになった責めは、疑いなく大部分は海軍に帰せられるべきものだ。問題は傑作フェアリー・フライキャッチャーとその後継機である十分実用に耐えたホーカー・ニムロッドの退役が近づいた1930年代半ばに始まった。
2014-09-29 22:15:49素直にそれら単座戦闘機の後継を求めることなく海軍はほかに何かしらの任務をこなせる複座戦闘機を要求したのである。その結果現れたブラックバーン・スクア戦闘/爆撃機、フェアリー・フルマー戦闘/偵察機は日米海軍の単座戦闘機に全く劣るものでしかなかった。(中略)
2014-09-29 22:16:33「ある空軍省の参謀はこう警告した-「海軍は陸と関係なく戦争をするつもりか?もしドイツが高性能の陸上戦闘機を艦隊に差し向けたらどう対処するつもりなのだ?」
2014-09-29 22:16:51まったくもってもっともな疑問であるが、これに対し海軍は「一般的に艦隊を陸上戦闘機の飛行範囲内で行動させる意図などなく、爆撃機に対処するには空母には複座戦闘機があれば十分である」と回答したのであった。(中略)
2014-09-29 22:17:45そして1938年9月、空軍省はスクアを「要求性能を満たしたとしてもすでに陳腐化している」とキャンセルを勧告したが、海軍は「十分に戦闘機として使用できる」と主張してその勧告を却下したのである。」
2014-09-29 22:18:19こんな具合で、英海軍の主流は要求仕様書では爆撃機としての比率が高いスクアを「仕方なく戦闘機として運用」したのではなく、艦上戦闘機はそんな片手間に戦闘機としての任務をこなす機体で十分だ、と考えていたわけである。ノルウェーで痛い目を見るまでは。
2014-09-29 22:20:04そして空軍はむしろそんなあさっての方向を向いた海軍の構想を正そうと努力していた側にいたわけである。この項の執筆者は英海軍とスクアの評価を上げることにこだわって、自分の判断にバイアスがかかっていることに気が付いていないのだろう。
2014-09-29 22:20:19英海軍は艦隊防空の主力は対空砲であって戦闘機の必要性は低いと見なすものが主流で、1920年代後半から30年代にかけて、空母艦載機に占める戦闘機の割合は2/3から1/5にまでじりじり低下していった。そして戦争が始まってもこんなことを言っている人がいる状態だったのである。
2014-09-29 22:25:18「洋上で駆逐艦によるスクリーンを展開した主力艦隊は敵航空機にとって恐るべき相手になる。この艦隊の護衛のために戦闘機の必要性はまったくないだろう。可能であれば戦闘機を展開することは追加の予防措置としては有効であろうが。」第五海軍卿兼海軍航空本部長ロイル提督・1940年2月
2014-09-29 22:26:16戦間期の英国海軍のひとつの魅力はこうしたどうしようもない知的頽廃や保守性と、驚くような先進性が同居している点だと思っている。そして戦争が始まったら始まったでなんとか帳尻を合わせてくる驚異的な間に合わせ力。
2014-09-29 23:00:53