「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」 #6
(親愛なる読者の皆さんへ)インガオホー!本日は一時間以降後に夜の部の更新を予定しています。ワッショイ!
2010-11-05 20:33:41「あー、イイ……あんまり邪魔しないで……とても困ります……ちょっとずつ消費していかないと……つまらなくて……」 アゴニィは震えながら、腰のバイオ巾着袋をまさぐる。新たなタタミ針だ。それを自らの体にブスブスと刺し始める。「あ、あ、イイ…!!」
2010-11-05 22:03:08血気盛んなパンクスたちも、そのさまをただ黙って見ているしか術がない。アゴニィというこのラバースーツ・ニンジャは、ほんの数分のうちに6人を殺害してみせた。しかも、そのうち4人はアイキドーの使い手だ。これにより彼は完全に「ヨタモノ」のフロアを掌握してしまったのである。
2010-11-05 22:11:14「ハイ、では、次は、あなたに決めました、わかりますね?」アゴニィが手近のリバースモヒカン・パンクスのアゴを右手でわしづかんだ。「ア……アイエエ……」恥も外聞もなく、そのパンクスは情けない悲鳴を漏らした。その眉間に、アゴニィは自分の体から引き抜いたタタミ針を……ナ、ナムアミダブツ!
2010-11-05 22:15:22「アイエエエエエエ!」リバースモヒカンパンクスは飛び出さんばかりに目を見開き、絶叫する。「イイーッ!」アゴニィは上体をのけぞらせ、感極まって痙攣した。「アーッ!あなたの苦痛! これでニンジャソウルが、とても湧いて来るんです!わかってください! さあ、二本目です!オ、オブジェ!」
2010-11-05 22:20:07「アイエエエエエエエ!」リバースモヒカンパンクスの絶叫が再びフロアに反響する。イチジクは顔を引きつらせ、目をそむけた。カンタロがそれを気づかい、小声でささやきかける。「大丈夫だ、きっとチャンスがある」 イチジクは青ざめ、目を閉じたままだ。チャンス? なんのチャンスが?
2010-11-05 22:24:39「アイエーエエエ!アイ、ア、アイエエエエエエ!」「イイーッ!」ナムアミダブツ! これ以上のマッポー地獄がどこにあるというのか! 「アイエエエエ!」耐えかねたゲイシャ・スキンズ・パンクスの一人が脱兎のごとく出口へ駆け出す。「イヤーッ!イイーッ!」「アイエエエエエエ!」
2010-11-05 22:28:35もちろん、それを見逃すアゴニィではない! ニンジャ筋力によって射出された八本のタタミ針がスキンズ・ゲイシャ・パンクスの首から腰にかけ 縦一列に突き刺さると、哀れ、棒立ちになって絶命した。
2010-11-05 22:31:12(……いったいどうして、こんなことに!?) 階段からわずかに顔をのぞかせ、「ヨタモノ」の中の様子をかろうじて伺うギンイチもまた、まったく同じ文言を脳裏に思い浮かべていた。
2010-11-05 22:34:11ムコウミズ・ストリートを駅へ向かっていくらか歩き、そしてやはり後悔と胸騒ぎを抱きつつ引き返したギンイチに、こんな光景は想定できようはずもない。彼はただ、最後にイチジクに一言声をかけたかった、ただそれだけなのに。それで、ふんぎりをつけ、日常に戻ろうと……。
2010-11-05 22:37:52「アイーアイエエエーエエエーーー!」犠牲者が4本目のタタミ針に悲鳴を上げる。ギンイチはわれに返った。どうしよう。どうにかしなきゃ。どうしたらいい? 飛び込むか? そしてサムライ探偵のようにサムライ・カラテで……ギンイチは妄想を振り払った。イヌジニだ!
2010-11-05 22:43:46ギンイチは奥歯を噛み締め、そろりそろりと、階段を再び上がり始めた。今この状況を外に伝えられるのは自分だけだ。イチジク=サン、どうか、どうかそれまで。「アイーアイイイイイエエエエエエエ!アイエーエエエエー!」「イイー!」
2010-11-05 22:46:52背後の闇に悲鳴を置き去りにしながら、ギンイチはウシミツ・アワーのムコウミズ・ストリートへ転がり出た。防塵トレンチコートを着込んだ人々が雨水を蹴り散らかしながら足早に駅の方角へ歩いている。ギンイチは路上を見渡す。そして朱塗りの瓦屋根を発見した。マッポ・ステーションだ。
2010-11-05 22:49:30「タスケテ!タスケテください!」両開きのフスマ式自動ドアーを開け、ギンイチは中へ飛び込んだ。デスクのスズリで墨を磨っていた若いマッポが立ち上がり、「どうしました。君ぃ、IDを見せなさい。ダメでしょう、子供がこんなウシミツ・アワーに……」
2010-11-05 22:57:23「その話は後で何でも聞きます!今は、お願いします、『ヨタモノ』で……」「ヨタモノ?またあそこか。ケンカか。仕方がないな。だがねェ、あそこは元来そういう所で…」マッポがしぶしぶスタン・ジュッテを手に取ったが、ギンイチはその腕を掴み、ゆさぶった。「一人じゃダメだ!殺人事件なんだ!」
2010-11-05 23:03:25「どういう事か」マッポの表情が険しくなる。障子戸が開き、奥の茶の間から年配のマッポが出てきた。「殺人事件?詳しく話しなさい」「ニンジャです!」
2010-11-05 23:07:20「……ニンジャ……」 若いマッポは絶句してギンイチを見つめた。沈黙を経て、年配マッポが若マッポの肩を叩き、再びデスクに座らせた。「書き物、続けなさい。明日になっちまうぞ」「え……」ギンイチと若マッポは同時にその言葉をいぶかった。
2010-11-05 23:15:54「それはどういう……」ギンイチは年配マッポの背中に問いかけようとした。彼はもう茶の間へ戻るところだった。衝撃!何たる職務怠慢!「出動無しですか?いいんですか?」若マッポも質問するが、年配マッポが「書き物!」と叱責すると、すぐに気持ちを切り替え、再びスズリで墨を磨りはじめた。
2010-11-05 23:20:14「そんな!タスケテクダサイ!ニンジャがたくさんの人を殺しているんだ!早くしないと、もっとたくさんの人が……」ギンイチが言い募るが、年配マッポは険しい顔で首を振るだけだった。「ニンジャっていうのはな。まあ、いろいろ難しいんだ。そのうちわかる。残念だが、帰ンなさい」
2010-11-05 23:29:54ピシャリ、と音を立てて、茶の間の障子戸が閉まった。ギンイチはすがるような目で若マッポを見た。だが、もはや若マッポはその表情から人間らしさを自ら拭い去り、機械的にスズリで墨を磨るばかりであった。「帰りなさい」 ギンイチを見ずに言った。上司の命令は絶対なのだ。
2010-11-05 23:37:45ギンイチはよろよろとムコウミズ・ストリートをあてもなく歩く。霧のような重金属含有雨が降り出し、行きかう人々はトレンチコートの襟をかきあわせて、足早に通り過ぎていく。「重複すると不利益」と書かれたネオンサインが雨水を受けてバチバチと音を立てる。
2010-11-05 23:53:43