ロンゲスト・デイ・オブ・アマクダリ10100745:ショック・トゥ・ザ・システム #1
ゴウンゴウンゴウンゴウン……。そこはこの世の果てか、あるいは地球上の全生命が死滅した後の荒廃したランドスケープを思わせる、広大無辺な暗黒領域であった。上は太陽光を遮る分厚いイカスミめいた汚染大気によって蓋をされ、下では黒いタールめいた冷たい汚染水の海面が不気味に揺れていた。 1
2014-10-11 23:32:45ゴウンゴウンゴウンゴウンゴウン……。重々しく陰鬱な唸り音。海面近くに漂う灰色の霧を抜け、一隻の黒く重々しいサイバー艦が姿を現す。それに続き、さらに何隻もの艦が霧の中から現れた。赤や青のLED灯や漢字サーチライトを、バイオ深海生物が持つ小さく丸い発光眼の群めいて明滅させながら。 2
2014-10-11 23:45:42それは実際恐るべき艦隊であった。だが……マイコ級サイバー艦の威容すらも圧するほどの巨大な影が、いよいよ灰色の霧の中からその全容を露にする。この艦隊の中心部に、巨大海上都市めいて君臨するそのサイバー旗艦の名は……グランド・オイラン級超大型原子力航空母艦、キョウリョク・カンケイ。 3
2014-10-11 23:52:464個の滑走路。2基の巨大パラボラアンテナ。そして2基の大出力ジェネレータ冷却塔を備えるキョウリョク・カンケイは、言わずもがな、ネオサイタマ湾岸警備隊が有する最大級の航空母艦だ。この艦隊がもし、その全火力を解き放つ事があれば、ガイオン市街を少なくとも12回は焦土にできるだろう。 4
2014-10-12 00:03:43磁気嵐によって物理的鎖国状態にある日本が……ネオサイタマが……何故このような巨大航空母艦を建造することができたのか?いかな日本が暗黒メガコーポ群の支配下にあるとはいえ、どうやって予算を捻出したのか?……その答えは、カイジュウ対策法案とそれによって生み出された膨大な予算である。 5
2014-10-12 00:13:09カイジュウとは存在が実証されていない巨大海洋生物だ。1匹でも上陸すればネオサイタマを12回は焦土に変えるという科学的仮説が、ヨロシサン製薬らにより主張されている。市民はカイジュウの存在に対しやや懐疑的だ。だがもし実在したら…と考え、自然災害めいて万全対策を取る法案に賛成した。 6
2014-10-12 00:24:30しかし実際はどうか……?無論、カイジュウ対策法案は、兵器開発分野にマネーを行き渡らせるための欺瞞であり隠れミノだ。ネオサイタマ市民から吸い上げられたマネーは、公的機関から兵器関連企業の手に渡り、弾薬や戦闘機や原子力航空母艦として生まれ変わり、メガコーポ重役らを満悦させるのだ。 7
2014-10-12 00:31:46…だが、その先を見据える者もいる。暗黒メガコーポ群よりも一手先の、来るべき新統治機構を見据える者が。「ドーモ!」「ドーモ!」警備隊の高官らも、艦内の機密コリドーを歩むその男を見るや、立ち止まって敬礼を行う。SPを引き連れて歩くスーツの男。彼の名はシキタリ・シャンイチ官房長官。 8
2014-10-12 00:41:49シキタリ官房長官はアイサツを返す。「ドーモ」それは真の無表情であった。黒に染められたオールバックの頭髪。赤銅色に日焼けしたシワの多い厳めしい顔。フラットで細い目と硬い一重まぶた。同じ日本人でも……警備隊の高官ですら、シキタリの表情や口調からは、いかなる感情も読み取れないのだ。 9
2014-10-12 00:51:42「ネオサイタマでは、大規模テロが継続中とか……」高官の一人が不安げに問う。「イカン・ノ・キワミ」シキタリ官房長官は呪文めいて返した。「……だが、ここを離れるわけにはゆかん。洋上戦闘演習の手筈はどうか?」「ハイ、本艦隊は予定通り磁気嵐を抜け、10100800より開始予定です」 10
2014-10-12 01:02:36「ドーモ」官房長官は笑み、小さく頷いた。そして次の瞬間には笑みを消し、つかつかと歩き始めた。そして「来賓」と書かれたショドー立て札の前でSPを切り離し、自分だけで3段認証型の防弾ショージ・ゲートを潜る。この先にある船室4個は、全て彼のためだけに用意されたものだ。 11
2014-10-12 01:14:55艦内だが、狭苦しさは微塵も感じさせない。廊下にはシックなオーガニック絨毯が敷かれ、壁には安らぎを誘発するゼン・カケジク。まるでカスミガセキ・ジグラットの廊下のように快適だ。…シキタリ官房長官は船室の前で立ち止まり、ネクタイに秘密のピンバッジを嵌める。アマクダリ紋のバッジを。 12
2014-10-12 01:20:25シキタリ官房長官の顔が、目が、より一層無慈悲に変わった。これは彼にとって、一種の儀式である。官房長官という表の顔を捨て、ニンジャとなるための儀式。彼は頭の後ろにある6個の生体LAN端子のひとつからケーブルを伸ばし、直結して防弾フスマを開け、無人の通信ルームへ足を踏み入れた。 13
2014-10-12 01:27:40『スキャンするドスエ』天井からタレットめいて垂れ下がるスキャニング装置が彼を検知し、最高級電子マイコ音声が鳴った。その完璧に調律された流暢さは、生身のオイランの声にも匹敵する。『認証したドスエ』バッジを赤外線精密スキャンし終えた認証装置は、アマクダリ本部との通信路を開いた。 14
2014-10-12 01:34:55ノイズ混じりの大型モニタにアマクダリ総帥ラオモト・チバの不機嫌そうな姿が映し出された。『ドーモ』キョートとの国境付近から接続する「十二人」の一人、ハーヴェスターの顔もある。『ドーモ』同じく「十二人」の一人、アルゴスもアイサツした。彼は顔の代わりにアマクダリ紋を表示している。 15
2014-10-12 01:45:26マジェスティ、ブラックロータス、メフィストフェレス、そしてジャスティス。眉根ひとつ動かさず、それらのデッド接続IRCアカウントを一瞥しながら、シキタリ官房長官はアイサツした。「ドーモ、マスターマインドです」そのIRCステイタスは……おお、ナムサン!彼もまた「十二人」の一人! 16
2014-10-12 01:52:45ノイズ混じりの大型モニタにアマクダリ総帥ラオモト・チバの不機嫌そうな姿が映し出された。『ドーモ』キョートとの国境付近から接続する「十二人」の一人、ハーヴェスターの顔もある。『ドーモ』同じく「十二人」の一人、アルゴスもアイサツした。彼は顔の代わりにアマクダリ紋を表示している。 15
2014-10-13 22:09:50マジェスティ、ブラックロータス、メフィストフェレス、そしてジャスティス。眉根ひとつ動かさず、それらのデッド接続IRCアカウントを一瞥しながら、シキタリ官房長官はアイサツした。「ドーモ、マスターマインドです」そのIRCステイタスは……おお、ナムサン!彼もまた「十二人」の一人! 16
2014-10-13 22:09:54邪悪なニンジャ組織、アマクダリ・セクトの最高幹部「十二人」は、ニンジャスレイヤーの手によって既に4人が殺害された。残されているのはマスターマインド、ハーヴェスター、キュア、アルゴス、スパルタカス、スターゲイザー、リー先生、そしてカスミガセキでハナミ儀式を続けるアガメムノン。 17
2014-10-13 22:17:44「……ジャスティス=サンが殺害されたことによる、ハイデッカー関連の混乱は?」マスターマインドが問う。他の幹部が何人死のうと、彼は顔色ひとつ変えない。「既に回復した」チバが言う。「では、ニチョーム関連の“掃除”も滞り無く本日中に?」「その通りだ」チバが返す。「それは良かった」 18
2014-10-13 22:25:56「我々は厄介事に巻き込まれずに、運が良かったですな。ネオサイタマにいれば、テロリストの対処に駆り出されていたやも」ハーヴェスターが葉巻を噛みながら、酒焼けした嗄れ声で笑った。「ネオサイタマに居たとしても変わらぬ。それはスパルタカス=サンの仕事だ」マスターマインドが彼を睨む。 19
2014-10-13 22:31:42「その通り!我々にはもっと大切な仕事がある……もっと収穫しなくてはなりませんからな。今日もセキバハラはいい天気ですぞ。砲声で目覚めも快適。どうです、そちらは。洋上で食すスシは?」とハーヴェスター。「良好だがSPにやや品が無い」「皆、傭兵や警備隊上がりでしてな、ガラは少々…」 20
2014-10-13 22:41:05