「フラワー、サン、アンド・レイン」#3 ――『ニンジャスレイヤー』二次創作小説

サイバーパンクニンジャ活劇『ニンジャスレイヤー』(@NJSLYR )の二次創作小説です。 第一回(http://togetter.com/li/705461 ) 第二回(http://togetter.com/li/723850 ) 第三回(このまとめ)
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うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

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2014-10-18 23:00:56
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

サイバーパンクニンジャ活劇『ニンジャスレイヤー』二次創作集『ニンジャ・ラン・ウィズ・ネオサイタマ・ランドスケープ』より。

2014-10-18 23:06:53
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篠突く雨の中を、歩いてきたらしい、女の体は冷えきっていた。濡れた服を脱ぎ、下着姿になった女が、再び自分の腕の中に倒れこんできて、男ははじめてそのことを知った。オーガニック絹めいた、すべらかな手触りの背中に、うっすらと産毛が立っていた。冷たい背中だった。 1

2014-10-18 23:08:14
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「ああ……」女が安堵の息を吐いた。濡れた前髪が男のシャツの肩にぺたりと張り付いた。男が背中をなで上げると、女が今度は甘い息を吐いた。ウメノカの香り、そしてわずかな女の体臭が、馥郁たるイチリンザシの芳香となって立ち上った。麗しい花が上を向いた。 2

2014-10-18 23:11:09
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男は何も言わなかった。ただ、腕の中の花を見つめた。女の目が閉じられ、濡れたカラクレナイの花びらが突き出された。男はそれを口に含んだ。唇が、上の花びらをついばみ、下の花びらを挟んだ。ゆるゆるとほぐれた花びらの間から、濡れた舌が這い出して、男の上唇を舐めた。 3

2014-10-18 23:14:07
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暗いホテルの一室に、眠らない近未来都市に降り注ぐ雨音とは別の、濡れた音が響いた。唇を合わせ、踊る舌をあしらいながら、男は片手で女の肩を抱き、もう片方の手で、女の背中を締め付ける戒めを解いた。腕の中で女が身動ぎし、一瞬離れた固い胸が、柔らかいザブトンめいて再び押し付けられた。 4

2014-10-18 23:17:37
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男の腰に、所在なげにまとわりついていた女の手が、そろそろと動き始めた。男の体を這い上がり、両肩にたどり着く。唇が離れた。「あなたも……」かすれた声が言い、女の指が男のシャツのボタンを素早く上から外していく。腰まで戻ると、もどかしげにベルトを外そうとする。男はそれに任せた。 5

2014-10-18 23:20:10
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女がその場に屈みこむ。冷えた手が、男のむき出しの太ももに触れた。頬をすり寄せた女が、甘い息を吐く。花の香が男の腰をくすぐった。男の体が反応を示すと、女は小さく笑った。頬をすり寄せながら、上半身にまとわりつく、黒い布切れを剥ぎとった。その胸は平均的であった。 6

2014-10-18 23:23:14
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男は女の肩に手を置き、女のするままにさせておいた。女の慣れた動きに反応する体とは裏腹に、男のニューロンは冷めた距離を保っていた。彼の臆病な思考は、この自体の因果を探らずにはおけなかった。暗闇の中で生き延びるためには、常に冷静であれというインストラクションを実行していた。 7

2014-10-18 23:26:27
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「もうだめ……」女がつぶやき、立ち上がった。ふらふらと後退りすると、身にまとった最後の布切れをふるい落とした。闇に白くうごめく、女の太ももは豊満であった。最後の一葉を脱ぎ捨て、ケンザンに貫かれるのを待つ、剪定されたイチリンザシとなって、女はフートンに腰を落とした。 8

2014-10-18 23:29:07
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闇にぼんやりと浮かぶ、白い二本の枝を開いて、女が囁いた。「きて」 9

2014-10-18 23:32:11
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「フラワー、サン、アンド・レイン」#3

2014-10-18 23:34:10
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ネオサイタマの雲は厚い。ある異端のブディストが、それは鎖国状態にある日本の工業と商業のそれぞれ八割を担う、メガロシティのカルマの象徴と言った。全身にブッダルーンを刺青したそのブディストは、両耳を引きちぎられ、重金属酸性雨の水たまりに死んだ。ネオサイタマはそういう都市だ。 10

2014-10-18 23:36:11
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厚い雲の下で育ったネオサイタマの子どもたちは、だからみな色褪せた肌をしている。薄く黄ばんだ肌を、厚い雲がもたらす毒の雨から守るように厚着する。しかしそれすらも適わない貧しいものたちは、せめて雨風をしのげる程度のボロ小屋に、うじゃじゃけたフクスケめいて佇むのみ。 11

2014-10-18 23:39:20
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

……それが、今、ブラックヘイズの歩む、オオヌギ・ジャンク・クラスターヤードの光景だ。薄く光る曇天の下、今にも崩れそうなバラックの群れ、その迷路じみた路地を吹き抜けるタマ・リバーからの湿った風が途絶えると、再び垢とテキヤキ・ソースと腐敗した木の臭いが彼を包んだ。時刻は昼すぎ。 12

2014-10-18 23:42:15
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オオヌギ・ジャンク・クラスターヤードは吹き溜まりである。ここに棲むのは、タマ・リバーの対岸にそびえる近未来都市ネオサイタマから放逐された者達だ。カネがない、コネがない、未来がない、そういう食い詰め物が、むき出しの足の裏を責め苛むコンクリートからも追い出されて行くところだ。 13

2014-10-18 23:45:09
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

マケグミの中のマケグミが、全ての希望を失ってたどり着く場所。朽ちかけた廃材のバラックに、ひっそりと息を顰めて、ショッギョムッジョを眺めている。そういう場所にふさわしい、どこか無感動な視線が、ブラックヘイズの行く先にはあった。ちらりと見ては、目を伏せる。音もなく。 14

2014-10-18 23:48:15
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

その存在を、ブラックヘイズも無視した。歩きながら彼が考えるのは、ここを訪れた理由だった。……今朝、新しい仕事の契約が結ばれたことの報告とともに、エージェントのマンダ・ドドにかねてからの懸案を告げた。折り返し連絡を受け、指示されたのがここ、オオヌギの一画だ。しかし……。 15

2014-10-18 23:51:12
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

ブラックヘイズは歩きながら周囲を観察。耐酸性ハットの鍔の下、見える景色はどこも同じく、入り組んだ路地は迷路じみている。求める場所は、その性質上、タマ・リバーを越えて物資を搬入する車も通れる大きな通りに面しているはず。そう見当をつけているのに、もう一時間も見つからずじまいだ。 16

2014-10-18 23:54:09
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

農業区画から廃棄されたと思しい、耐酸性ビニールハウスを屋根代わりに用いた屋台を過ぎ、ドクロの口のようにぽっかりと戸を空けて静まり返った家屋の角を曲がる。三十分前に見た通りがそこにあった。……ブラックヘイズは立ち止まり、コートのポケットから葉巻を取り出し、くわえた。 17

2014-10-18 23:57:21
うさぎ小天狗(実写版) @USAGI_koTENGU

「なあ!」変声期前の甲高い声が背後で響き、ブラックヘイズはポケットの中で握った手からライターを離した。振り返ると、肩越しに目があった。元の色もわからぬほどに褪せた耐酸性コートに、細い脛に合わぬ大きさのブーツを履いた子供が立っていた。拗ねたような目。「あんた、どこへ行くんだ」 18

2014-10-19 00:00:33
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