「サプライズド・ドージョー」 #2
「遅い、遅すぎる……。女衒街に向かったヒュージシュリケンに、何かあったか?」サイドカー付ハーレーに跨るアースクエイクは、痺れを切らしてエンジンを空吹かす。もはやタイムリミット。ソウカイ・シンジケートに情けは無用。ドランゴン・ドージョー襲撃計画に遅れが出てはならん。…その時だった。
2010-08-02 00:41:02「グワーッ!」うめき声とともに、血みどろのヒュージシュリケンがハイウェイの上に前方回転ジャンプで姿を現した。瞬時に非常事態を察知した知能派のアースクエイクは、素早くハーレーを発進させて、相棒をピックアップした。Y-12バイオヤクザ軍団も、一斉に12台のベンツを発進させる。
2010-08-02 00:41:40「あの野郎……! あの野郎……!」ヒュージシュリケンはサイドカーに備わった救急箱の中からヨロシ=サン製薬謹製のズバリ・アドレナリンのアンプルを取り出し、慣れた手つきで左の静脈と背中に注射した。
2010-08-02 00:41:55中央のハーレーを護衛する護送船団のように、ベンツ軍団は時速150キロでメガロ・ハイウェイを走り抜ける。ヨロシ=サン製薬やオムラ・インダストリの尊大で虚飾的なネオンサインが、走馬灯のように現れては消えていった。
2010-08-02 00:42:15アースは相棒に一瞥をくれた。痛みは治まったようだが、15センチほど飛び出してしまった左目は、もうどうにもならないだろう。リー先生のサイバネティック手術を受けて、カメラアイでも埋め込むしかあるまい。
2010-08-02 00:42:40スリケンを得意とするヒュージシュリケン=サンには、大きな痛手だ。こいつも、もうシックスゲイツに長くは居られまい。アースクエイクはコンピューターのように冷酷に、現在置かれた状況を分析する。
2010-08-02 00:42:47「誰に襲われた?」とアースクエイク。 「ニンジャスレイヤーだ」とヒュージ。重金属酸性雨に肺をやられた水牛のように、ヒューヒューという声で答える。「チタン製胴当てを、チョップだけでへし折った。恐るべきジュツだ。知能も高い。狭い裏路地に誘い込まれ、大スリケンをついに使えなかった」
2010-08-02 00:43:16「ヘルカイトからの情報によれば、ドラゴン・ドージョーは、この先の廃インターチェンジを降りてすぐの場所だ。しかしニンジャスレイヤーが何故、ドラゴン・ドージョー襲撃を邪魔するのか? 不可解だ。偶然だろうか?」とアースはひとりごちる。ローマ時代の哲学者めいた顔で沈思黙考した。
2010-08-02 00:43:54横ではヒュージシュリケンが、ズバリ・アドレナリンの副作用によって、沖に打ち上げられたマグロのように口をぱくぱくさせ、体を痙攣させていた。
2010-08-02 00:44:05時折、悪夢にうなされてうわ言を発する子供のように、「アース、もっとスピードを……奴が来る……地獄の猟犬が、俺たちを追いかけてくる……」とくり返すが、沈思黙考に入ったアースクエイクの耳には届かない。
2010-08-02 00:44:22そして、アースクエイクのハーレーに備わったオムラ・インダストリ製のハイテク・ナビゲーショーン・レーダーが、ベンツ軍団の異常をキャッチした。最後尾を走るベンツが、突然隊列を乱し、あろうことかハイウェイから落下したのだ。直後、数十メートル下の沼地で、水牛たちを巻きみ火柱が上がる。
2010-08-02 00:44:51「何だ!?」アースがレーダーの解像度を上げ、分析を試みる。その間にも、2台目のベンツがコントロールを失い、「ビョウキ」「トシヨリ」などと書かれた中央分離帯のヨロシ=サン製薬ネオンサインに突っ込んで、そのまま炎上した。
2010-08-02 00:45:06「Wasshoi!」という掛け声とともに、新たなベンツの一台の上に回転しながら飛び乗る。肉体強化された体操選手の着地のように、寸分のぶれもない。そのメンポには、「忍」「殺」と禍々しい文字が彫られている。おお、彼こそは、すべてのニンジャを殺す者。ニンジャスレイヤーに他ならない!
2010-08-02 00:46:36