「ね。最初に応戦した奴に合流する算段なんだ、こいつら」ミメエが呟いた。ギャスは炎上するカーゴの陰に素早く身を隠し、ショットガンのロックを解除する。やがて、口元をスカーフで覆った小男が。鼠に似た頭を持つ種族が。ひょろりとした長身のスキンヘッドが。立て続けにブリンクアウトした。58
2014-11-01 00:01:31彼らは戦さ慣れした傭兵であり、位相が確定しないブリンクアウト直後の状態で、状況把握と白兵戦の準備を済ませる。ゆえに、スキンヘッドの男が頭を撃ち抜かれて即死したのは不運だった。彼を殺した狙撃手は、ずっと離れた森の斜面で、理解不能なマントラを唱えながら、うつ伏せになっている。59
2014-11-01 00:09:27そう、スキンヘッドの男は不運だった。出現するなり鼠頭の男とスカーフ覆面の男は一糸乱れぬ動きでミメエに襲いかかった。ミメエは防戦を強いられる。ギャスは口笛を吹きながら、ミメエの戦闘の趨勢を見ている。背後にブリンクアウト兆候が生じる。彼が気づくのは数秒後だろう。 60
2014-11-01 00:18:19凄惨な戦場と化したこの村を鳥のように上空から俯瞰して見れば、傭兵達が先遣隊めいて出現した更に一回り外周に、新たなブリンクアウト兆候が続々と生まれつつある事がわかるだろう。各所に設けられた転送アンテナを用いて、今、近隣の部隊が集結しつつあるのだ。61
2014-11-01 00:24:22ギャスは背後で合金製の鉈を振り上げた敵に驚き、尻もちをつきながらショットガンを撃った。もう一秒遅れていればギャスは頭を割られて死んだだろう。今回はギャスが早かった。ミメエもそう呑気にはしていられない。首筋に赤い筋が引き、極彩色の布の数カ所に血の染みが生じている。彼女の傷だ。62
2014-11-01 00:27:40稲妻が閃くたび、制服めいた白い鎧姿の者達が村の周囲に増えてゆく。鼠頭と小男のコンビネーションはまるで血を分けた兄弟だ。ミメエは砂を蹴って目眩ましとし、カーゴの裏へ転がり込んだ。「来るんじゃねェ」ショットガンの弾丸を装填しながらギャスが泡を食った。敵二人はすぐに回り込んできた。63
2014-11-01 00:34:02カーゴを背に、ミメエがギャスの耳を引っ張った。「サボるなって。アタシもいっぱいいっぱい」「あヒィ!」ミメエは右に、ギャスは左に避けた。彼らを割るように、鼠頭の強烈な縦斬撃が見舞われ、カーゴをひしゃげさせた。小男は鼠頭の陰から飛び出し、ミメエを追撃する。鼠頭はギャスに向かう。64
2014-11-01 00:38:13包囲を徐々に狭めるは双子王の正規兵たち。数秒に一度ずつ、その頭がウンブダの狙撃によって爆ぜ、足並みが乱れる。それでも彼らは撤退をしない。彼らの支配者もまた、充分に無慈悲なのだ。 65
2014-11-01 00:40:06ミメエ、ギャス、ウンブダ。彼らはデスパレートな包囲戦に追い込まれている。見当が狂っただろうか?否、そんな事はない。敵を殺し、増援を集めながら、彼らは待たねばならなかった。キャプテン・デスからの合図をだ。彼らの首領は今、ずっと西の丘陵すれすれを飛ぶ竜の背にしがみついていた。 66
2014-11-01 00:45:09「念の為、もう一度確認を取ります」風の中、キャプテン・デスの襟元から、ピオが顔を出した。「貴方は光芒騎士の地位にある者を明確に害そうとしています。即ち、光芒同盟そのものへの敵対です。先代はそれを巧妙に避けてきました。これ以上踏み込めば、取り繕いはもはや不可能かと」67
2014-11-01 00:55:39「怖いのか?君に感情は無いんだろ!」キャプテン・デスは叫び返した。凄まじい加速の風の中だ。「勿論です」と、ピオ。「貴方の覚悟を確認しております。そして状況把握の程度を。それによってサポートの方針アルゴリズムを調整していきます」「覚悟……そんな事、わかるものか!」少年は言った。68
2014-11-01 00:59:00「ぼくはあの時、やると決めた!だから!やる!」ゴウゴウと風が唸る。声を枯らして叫ぶ。「ねえさんを助け出す!それだけだ!」「バカバカしさ、ここに極まる」飛びながら、竜のザラカが言葉を発した。「処刑から一転、下等なセンチメンタリズムに塗れて私は死ぬというわけだ」「死ぬものか!」 69
2014-11-01 01:06:27「どうだかな」ザラカは言った。「お前はあまりに弱く、愚かだ。お前が死ねば、私は終わりだ。ゆえに、私は既に終わった」「命令に対して反抗的な態度を取ることは許されない」ピオが警告した。「うるさい虫め……」竜は羽ばたき、さらに速度を上げた。 70
2014-11-01 01:09:35