エドゾー論

はきの助教授のエドゾー論
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はきの @hakino_

すっかり日が沈み、魔導街灯が申し訳程度に照らしている道を飛鳥は小走りで進む。結局あの後、孤児達に囲まれて時間を無駄に費やしてしまった。急ぎながらも時計を確認する。6時27分。ギリギリだが、なんとか取引には遅刻せずに済みそうだ。もう一度時間を確認し、時計を懐に仕舞う。 #エドゾー論

2014-11-19 19:12:00
はきの @hakino_

後はあの角を曲がれば例の奴隷商が構える店に到着する……というところで、妙に道の向こうが騒がしいように思える。奴隷商の店があるだけに、あの道は人通りの殆ど無い場所だったはずだが。不思議に思いながらも、飛鳥は足早に角を曲がり、その騒ぎの原因を知った。 #エドゾー論

2014-11-19 19:13:13
はきの @hakino_

店が破壊されている。目的地であった、奴隷商の店が。扉が破壊され、小さく掲げられた看板が真ん中から圧し折れ、隙間から伺い見える内部もこれでもかと荒らされていた。 #エドゾー論

2014-11-19 19:14:35
はきの @hakino_

話を聞いた相手は所謂立ちんぼと呼ばれる売春婦であった。こういった路地裏の角に立ち、客を取る……店に入れない程度の娼婦であったが、それ故、店が破壊された経緯を全て目撃していたらしい。 #エドゾー論

2014-11-19 19:17:22
はきの @hakino_

「どうもこうもないよ、お兄さん。この店に、真っ赤な服来た金持ちそうな男が入ったすぐ後に爆発したような音がしてこれさ。何があったのかこっちが知りたいくらいだよ」 #エドゾー論

2014-11-19 19:18:48
はきの @hakino_

真っ赤な服。飛鳥は不愉快そうに眉を顰め、懐から銀貨を2、3枚取り出して投げ渡す。「ありがとな、またなんか変わったこと見たら教えてくれ」 #エドゾー論

2014-11-19 19:20:08
はきの @hakino_

こんなに貰っていいのかい、と喜ぶ娼婦を押しのけ、破壊された店の中へと入る。ぱっと見て、店の中は破壊されてはいるが、血痕などは見当たらない。店に居たはずの店主、そして引き渡す予定だった奴隷はどこへ行ったのか。 #エドゾー論

2014-11-19 19:21:48
はきの @hakino_

ポケットから煙草を取り出し、《微火》の魔導で火を付ける。真っ赤な服。破壊された室内。消えた住人。何もかもが、飛鳥には気に入らなかった。まるで7年前の事件を再現されているようで、頭痛すら覚えるほどであった。 #エドゾー論

2014-11-19 19:24:38
はきの @hakino_

飛鳥は元々、女衒という下っ端のような仕事を任される予定は無かった。幼少の頃はむしろ、複数の出会い宿のまとめ役である男に気に入られ、いつかは義息子として跡取りに、とまで言われていた。 #エドゾー論

2014-11-19 19:26:40
はきの @hakino_

まとめ役の男だけでなくその娘にも気に入られ、子供同士ながら恋人染みた真似までもしていた。飛鳥は、将来自分はこの娘と結婚してまとめ役の仕事を継ぐのだと信じていた。教会にでも行けば眉を顰められるような職だが、恥じるような職ではないと誇りすら持っていた。 #エドゾー論

2014-11-19 19:29:05
はきの @hakino_

それらが全て崩れたのが、7年前である。 #エドゾー論

2014-11-19 19:29:22
はきの @hakino_

発端はまとめ役の男の、弟が企んだことであった。弟はまとめ役の地位をどこから来たとも知れぬ孤児なんぞに譲り渡されるのが心底許せなかったらしい。らしい、というのは飛鳥はその弟とやらに一度も会ったことが無かった故だ。弟は弟で、別の街で出会い宿を営んでいた。 #エドゾー論

2014-11-19 19:31:56
はきの @hakino_

弟はその実績を手に、兄からまとめ役の地位を譲り受け、出会い宿の規模を複数の街に拡大し、巨万の富を得る……という夢があったという。実際、弟の経営手腕は稀代の物であった。独力でも30年もすればその夢を叶えられたであろうという程に。 #エドゾー論

2014-11-19 19:33:43
はきの @hakino_

自身が有能という自負。血縁という繋がり。別の街での成功という実績。兄がまとめ役の地位を飛鳥に譲るという行為は、それら全てを土足で踏みにじられるような屈辱だったのだろう。 #エドゾー論

2014-11-19 19:35:02
はきの @hakino_

弟は凶行に出た。暗殺者を雇い、兄と、飛鳥と、兄の娘を殺す。そして唯一残った血縁という理由で確実にまとめ役の地位を得るという、短絡的な凶行に。 #エドゾー論

2014-11-19 19:36:35
はきの @hakino_

飛鳥はその時のことを、今でも昨日のように思い出すことが出来る。荒らされた家。その中に一人、薄ら笑いを浮かべる真っ赤な服の男。そして両腕には、自分が恋心を抱いていた少女と、実の親のように慕っていた男の首が抱えられていて―――― #エドゾー論

2014-11-19 19:39:52
はきの @hakino_

記憶はそこで途絶えている。次に思い出せるのは、店のベッドで目覚めた自分だった。全身に傷を負ってはいるものの、命に別状は無い。自分は真っ赤な服の男に激昂して殴りかかり、赤子の手でもひねるように返り討ちにされ、偶然通りがかった見回り中の衛兵に助けられたらしい。 #エドゾー論

2014-11-19 19:43:27
はきの @hakino_

飛鳥はそこで、自分の記憶を掘り起こすことをやめ、煙草の火を足で踏みつけて消す。今は自分の記憶はどうでもいい。大事なことは、誰かが飛鳥を含む、出会い宿を管理している組の面子を潰した、ということだ。取引を邪魔されたとはそういうことだ。 #エドゾー論

2014-11-19 19:45:15
はきの @hakino_

落とし前を付けなければならない。どこの誰だか知らないが。趣味の悪い服と一緒にそいつの首も引き裂いてやらねばならない。 #エドゾー論

2014-11-19 19:45:44
はきの @hakino_

まずは情報だ。どうせ、この時間は街のどこにでも娼婦やその客どもが溢れかえっている。真っ赤な服の男の目撃証言を追っていけば、おのずと行方は知れるだろう。数年間の女衒の仕事は伊達ではない。顔の広さならこの街の誰にも負ける気はしない。 #エドゾー論

2014-11-19 19:48:27
はきの @hakino_

飛鳥は破壊された店の中をぐるりと確認し、もう一度ぐるりと確認し直す。そして、持ち歩いている手帳に何事かを書き込み、情報を求め夜の街へと走り去って行った。 #エドゾー論

2014-11-19 19:50:44
はきの @hakino_

飛鳥は破壊された店の中をぐるりと確認し、もう一度ぐるりと確認し直す。そして、持ち歩いている手帳に何事かを書き込み、情報を求め夜の街へと走り去って行った。 #エドゾー論

2014-11-19 19:50:44
はきの @hakino_

本日の講義はここまでです。次の講義は明日を予定しています。ではお疲れ様でした #エドゾー論

2014-11-19 19:51:44