#完全ノープラン艦これ与太話 【ヒロイック・テスティモニィ】#1～#2

春魔解丼 @vespiking

#完全ノープラン艦これ与太話 【ヒロイック・テスティモニィ】#2後半 #KZNPLN

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「ドーモ、飛鷹＝サン。サセイボ鎮守府の磯風だ」「アー、ドーモ。ドーモ」軽空母、飛鷹は片手間にアイサツする。「わかってるわよ。やるわよ、やる、やる」「ウーン、主演がこの調子だと、いい画が撮れないのよぉ。なんとかしてくださる？」荒潮は芝居がかった困り顔を作る。 #KZNPLN

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「だいたいさァ、本編はもう撮ってるじゃん。なんで、予告用に新カット撮る必要があるの。別に、本編に加わるわけじゃないんでしょ？」「エエ。でも、気付かないですよぉ。多分、だーれも」荒潮はハイトーンで続ける。「人は映画の本編よりも、予告やステロタイプを劇場の外で観る」 #KZNPLN

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「いいですか飛鷹＝サン。イズモマンはプロパガンダ・ムービーです。それは劇場版でも変わらない。イズモマンは悪の『過激派』深海棲艦を懲らしめ、艦娘と善良な深海棲艦との友愛を保つ、正義の大日本帝国の擬人化なのよ。それを伝えるべきは子供達と、サセイボを訪れる人々」 #KZNPLN

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「そのうち一体何人、何隻が映画館に足を運ぶと思う？運んだうち何割が、予告や風説で抱いていた先入観以上の感想を抱くと思う？残念ながら、貴女が思っているほど賢くないの。妖精も、艦艇も。我々が伝えるべき顧客の9割は、予告とステロタイプでしか作品を観ない」 #KZNPLN

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「ふーん、そう」飛鷹は大欠伸をした。「クソだわね」「ええ、クソなのよ」荒潮も賛同した。「地味な木製カンバンに格式高くショドーしたオーガニック・スシのフルコースより、『おいしい！』『実際安全！』ってシール貼りした、合成マンボウの有害スシの方が高価なのよ、この世界は」 #KZNPLN

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軽空母飛鷹は元々、サセイボの貴族街で生まれた令嬢艦であった。現代日本において、裕福な生活が確約された一握りの艦娘が、令嬢艦だ。カネモチ妖精の家で娘めいて暮らし、言うなれば生きたステイタスとして振舞う。マケグミの慰安艦娘とは似て非なる、生まれながらのカチグミだ。 #KZNPLN

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飛鷹はしかし、生まれ持った特権を幸福とは感じなかった。外出も制限され、食事も連日仰々しいフルコース。雑誌やIRCネット上に並ぶ、実際安いジャンクフードの豪快なケミカル旨味に思いを馳せ、厳格なマナーの下で粛々とフルコースを食す。味の高低など、浅い人生で解る筈もなし。 #KZNPLN

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拘束の日々のなかで、彼女がIRC世界に逃避を見出したのは、ごく自然な流れであった。過度のIRC制限のような重拘束は令嬢艦への虐待にあたり、所有者のイメージを損ねる。私室でのプライベートは保障されていた。飛鷹はそのうち、数年前に途絶えたプロパガンダ番組を知った。 #KZNPLN

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艦娘は死後、数年の休眠期間をおいて再び建造可能となる。番組の主演は他でもない。先代、飛鷹だ。サセイボの著名なアクターであった先代飛鷹は数年前、己の芸に思い悩みセプクした。その遺作が、特撮プロパガンダ・ヒーロー番組、イズモマンシリーズだった。 #KZNPLN

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イズモマンとは、劇中に登場するニンジャ・ヒーローの名だ。客船艦娘、出雲丸として生活する彼女はひとたび『過激派』深海棲艦が現れると、艦娘や善良な深海棲艦たちを救うため正体をあらわし、サムライチョップで悪を討つ。大筋は単純明快なヒーロー・シナリオだ。 #KZNPLN

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強い日本、武力で世界平和に貢献する日本を強調し、戦争相手である『過激派』への敵対心を煽る。典型的な子供向け戦時プロパガンダ番組であるが、それに留まらぬ奥深い世界観や、全体を重厚にしながら1話1話を明快な活劇として締め括る構成が評価され、根強いファンを擁する名作だ。 #KZNPLN

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飛鷹は感銘を受けると共に運命を感じ、とかく我武者羅に動いた。家の監視の目をくぐり、制作陣やスキルのある重篤ヘッズと接触する。幸いにも資金とコネは無尽蔵だ。令嬢艦として、演舞や舞台劇の英才教育も受けてきた。そしてついに、飛鷹は家を飛び出した。先代飛鷹の跡を継ぐ為に。 #KZNPLN

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演技の世界は過酷だ。そこは飛鷹も覚悟していた。必死で特訓も重ねてきた。だが、現実の壁は全く異なる方向から、飛鷹に立ち塞がった。映像作品である以前に、プロパガンダ番組であるという宿命。筆頭スポンサーである大本営直下の秩序の砦、サセイボ鎮守府。 #KZNPLN

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サセイボの意向は絶対である。プロデューサーである荒潮も、それは重々に理解していた。重要な箇所はカットされ、プロパガンダ目的のスカム要素が挿入される。飛鷹は知ってしまった。名作たる旧イズモマンも、元はきっと、もっと素晴らしいものだったのだ。先代の死。飛鷹は理解した。 #KZNPLN

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荒潮は旧作の頃からの主要スタッフだ。会ったこともない人生の恩師。尊敬する自身の前世。それを絶ったのは、この女と、大日本帝国。サセイボ鎮守府だ。自分は今、恩師の仇の手先となり、恩師の遺した伝統を穢している。師の死を無駄にしている。それが何より、彼女には許せなかった。 #KZNPLN

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#完全ノープラン艦これ与太話 【ヒロイック・テスティモニィ】#2終わり。#3に続く。 #KZNPLN