何度も見慣れた、最低の光景だった。 例え昨日が人生最高の瞬間であったとしても、この朝日が何もかもを台無しにしてしまう――この街に生きる全ての生命が、心の底から厭う赤さ。 #synov
2015-01-13 21:19:00「庭の石の下に棲むムシケラみてぇなヤツらにはお似合いの街だぜ」太陽光線をエネルギー源とする特撮ヒーローのTシャツを着たナメクジが道端に粘液を吐いた。 #synov
2015-01-13 22:05:03「まるでお前はそうじゃないみたいだな」フードをかぶった少年が厭わしげに首を振る。「害虫は俺たちだよ。母さんがそう言ってた」 #synov
2015-01-13 22:13:44「なあジグよ、そりゃ一体いつの話だよ」 心底鬱陶しげに、体長2m弱のナメクジがフードの少年に言葉を投げた。 「お前の母さんってのが2世紀前のガラス製でなけりゃあ、真面目に話を聴いてやってもよかったんだがな」 発する声は粘液混じりで、聴く者の不快を煽る。 #synov
2015-01-13 22:24:11「試験管ベビーを挑発する常套句だな。ケッラよぉ、ジグちゃんそこんとこデリケートだからあんまり言ってやるなよ」特撮Tシャツを着たナメクジが、にちゃにちゃと笑いながら同族を窘める。 #synov
2015-01-13 22:53:16「あァ!?」 ケッラが怒気も露わにして、声がした方向を振り返る。 視線の先の女――ヒトと蛇のキメラ――レムルは、平然と返した。皮膚のそこらにある鱗が、赤い陽を反射する。 「仕事(ビズ)の前に与太こいてる奴をゴミっつって何が問題?」 #synov
2015-01-14 21:24:11「仕事(ビズ)の前だからこそ、和を乱すようなことは慎むべきだろ」トクサツが胸の前で触腕を十字型に組んだ。決まった、と思った時にトクサツがよくするポーズだった。 #synov
2015-01-14 21:40:02ケッラとジグが醒めた目でトクサツを見る。この二人は仲が悪いが、トクサツを見下している点では同じだった。トクサツはそれに気付いていない。 #synov
2015-01-14 21:43:37「無駄話は終わりだ。どうやら始業のベルが鳴ったみたいだぞ」ジグが上を指差した。倒壊した建造物の窓から、黒い生物が這い出てくるところだった。 #synov
2015-01-14 22:10:08「ケッラ、やり過ぎるなよ。食い扶持が減る」 ナイフを構えてレムルが云ったが、暴虐の度合いで云えばケッラもレムルも大差はない。 薄い唇からちろりと出した舌は、先端が二つに割れていた。 元々ではなく、人体改造の類である。蛇として街を這う有り様の証明と云えた。 #synov
2015-01-14 22:34:10「どこかの国ではヘビはナメクジに弱いって言われてるぜ? 無理せず休んでろよ」ケッラが気炎を吐いて体表から凄い勢いで粘液を分泌する。分泌した多量の粘液を操るのはナメクジ族の伝統的な戦闘スタイルだ。 #synov
2015-01-14 22:49:40「確かにお前を見てると吐きそうだよ。キモくて」ジグがフードを取り払う。ずらりと並ぶ真紅の複眼が明滅する。純粋培養の化物。人ならざるホムンクルス。この他の誰とも等しく、造物主を憎む神の子供。 #synov
2015-01-14 23:11:05「お前らほんと仲いいよな」 本気とも皮肉ともつかない、緊張感皆無の声でトクサツが云った。 その間にも黒いナメクジどもは続々と建物から這い出し、ひび割れたアスファルトを覆いつくさんばかりである。 #synov
2015-01-15 21:18:34這うというより、彼らが分泌した粘液の中を泳いでいるといった方がしっくり来る。とてもナメクジとは思えない速度で迫り来る黒くぬめった群れ。その巨大なうねりがジグたちを飲み込まんとした瞬間――。 #synov
2015-01-15 22:01:28レムルが鋭く叫んだ刹那、ジグの複眼から赤い光線が迸った。 光線をもろに浴びた正面の黒い波がばん、と弾ける。 ナメクジが焦げる異臭とともに濁ったゼリーのような体組織がばらばらと降り注ぐ中、レムル達4人が一斉に駆けだした。 「こいつらは雑魚だ!大きいのを探せ!」 #synov
2015-01-15 22:21:07ジグの光線にも怯むことなく、黒ナメクジの第二波が押し寄せてくる。トクサツは粘液を硬化させて作った盾で黒い同族を吹き飛ばしながら、ケッラに尋ねた。「こいつらの親玉って、やっぱりデカい黒ナメクジなのか!?」 #synov
2015-01-15 22:32:52「そうとも当たり前じゃねえか、ナメクジだよ」ケッラが小馬鹿にしたように笑う。「手が二本に足が二本。キレーなお目々をくりくりさせて、俺たちが食い荒らされんのを見て手を叩いて喜ぶんだ」 #synov
2015-01-15 22:37:38「ほんっと、悪趣味極まるね!」 レムルがマチェット――植物を薙ぐことは永遠にないだろうが――を的確に振り下ろし、黒ナメクジのコアを切り捨てる。 「糞、単細胞どもめ!レムル、あのビルからやんな!」 #synov
2015-01-15 22:47:36ジグの複眼が全て寄り目になると、一斉に赤い閃光を発した。それぞれの目から放たれた光線が、絡み合うようにして極大の一本になる。 #synov
2015-01-15 22:59:01