しのぶ本編

ロスチャイルド正義 @necro_chan

飛ばされたが、飛べるわけではない。落下物は急に止まれない。俺は悪くない。トクサツの脳裏を走馬灯のように万の言い訳が過ぎった。今から球体化を解いたところで、レムルの踵落としで加速しているので間に合わないだろう。更に言えばトクサツはコアの放電を生身で受けるのが怖かった。 #synov

ゆらゆら@華麗なる寝落ち @yulyer

「レムルだ」トクサツは強烈なＧに吐き気を催しながら思った。「レムルだ。あの女が全部悪いんだ。いつもいつもいつも好き勝手ぶっ壊して、しくじったら俺のせいにする」振り回されて朦朧としたトクサツは叫ぶ。「こんな仕事やめてやる！」 #synov

ういきょう @uikyo_u

確かにトクサツはそう叫んだはずだったが、実際に空気を振るわせた音はこうであった。 「あぎゃあッ！？」 出力を非殺傷レベルにまで落としたジグの光線が、トクサツの急所を正確に抉ったのだった。 たまらず変身を解いたトクサツの眼前に、帯電を始めたナメクジのコアが迫る。 #synov

ロスチャイルド正義 @necro_chan

「お、悪いな」同じく自由落下していたレムルがトクサツを足場に使って跳躍する。レムルは迸る紫電を回避して着地し、トクサツは電撃を浴びた。果たして俺は戦闘態勢になる必要があったのだろうか。ジグだけいればよかったのではないか。犬死にとしか言えない最期だった。 #synov

ゆらゆら@華麗なる寝落ち @yulyer

異様な臭気を含んだ蒸気を吐き出して、コアに貼りついたトクサツの体が黒焦げになっていく。仲間だった筈の三人は彼の断末魔を平然と聞いている。一方、放熱の形でエネルギーを奪われながら尚脈動を続けていたコアが、ある時点で「ごぞっ」と生々しい音を立てて本体から剥離した。 #synov

ういきょう @uikyo_u

崩落めいて落下するコアは、既にケッラが放出を終えていた粘液に受け止められた。 粘液は衝撃で崩れたが、コアはまったくの無傷である。 当然といえば当然である。依頼人の意向に添えてこその仕事（ビズ）であり、彼等はその道のプロなのだから。 #synov

ロスチャイルド正義 @necro_chan

レムルは放電が止んだコアへと這うようによじ登ると、黒焦げになって縮んだ屍体をびりびりと引き剥がした。「チッ、焦げが付いてやがる」屍体を投げ捨てると、コアに付着した焦げを爪で擦る。 #synov

ゆらゆら@華麗なる寝落ち @yulyer

「問題ねえさ」ケッラがずるずると近寄ってくる。「無傷にゃ違いない。そこまで繊細な依頼人なのか？」 #synov

ういきょう @uikyo_u

ジグがコアをぼんやりと見上げながら言った。 「初めての依頼人だから、どうなんだろ。レムルは？」 「用途は言わなかったね。あたしらにとっちゃ、金払いがよけりゃその後は知らないほうが良いのさ」 「ちげぇねぇ。で？コイツを迎えに来るリムジンは？」 #synov

ロスチャイルド正義 @necro_chan

ジグが西の空を指差した。数台のヘリコプターがこちらに向かって来ている。ヘリはそれぞれの着地脚にロープを括りつけており、そのロープは特大のハンモックのような網から伸びている。コアはその網に入れて空路で運ぶようだ。 #synov

ゆらゆら@華麗なる寝落ち @yulyer

「随分御大層なリムジンだ」レムルが口笛を吹いた。「四人分の分け前を三等分だ。いい仕事だったね」ジグが無感動に言う。その背後でぼこりと地面が盛り上がった。振り返ったジグと、目が、合った。 #synov

ういきょう @uikyo_u

次の瞬間、ジグはゴミを見るような目つきで地面を焼いていた。 食欲の一切そそられない、目玉焼き（サニー・サイドアップ）の完成であった。 #synov

ロスチャイルド正義 @necro_chan

「お前の分の報酬はありがたく使わせてもらう」目玉を焼かれたのはトクサツを喰いに来ていた黒ナメクジだった。 　依頼人の遣わしたヘリが着地し、回転翼が停止する。エージェントとともに空輸の準備を手伝うべくジグ、レムル、ケッラの三人は歩き出した。 #synov