ポリエナメル・ケイジ

神手市に行ったヤモっちと、不思議な女性・澄美さんのおはなし。
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真木ハルコ @homarine

(逃がさないっ!)澄美は蛸墨を拡散させずに固めて射出した。黒い液体の弾丸がヤモっちの脚に命中して転倒させる! 両脚の蝕腕もほどいて八足となった澄美は、立ち上がらずに床を這ってヤモっちへと迫る! 擬似二足歩行に馴れ切ってない澄美はこの方が速い! 追い付かれる! ……その時!4

2015-02-28 06:19:40
真木ハルコ @homarine

雑居ビルの屋上に来た大ヤモリのキーちゃんが侵入した金属製の箱は、ビルの電源を受電する高圧メタルクラッドであった。本来ならば小動物の侵入を防ぐ措置がしてあり、いかにキーちゃんの身体が扁平でも入ることができない筈の設備だが、ビル会社の管理は杜撰だった。5

2015-02-28 06:24:30
真木ハルコ @homarine

受電設備に侵入したキーちゃんは、ポリエナメルのスポーツバッグを改造してヤモっちが作ってくれた大切なケイジを口にくわえて引き摺りながら、低いうなり声と熱を発する変圧器へと近付いた。高圧電気による感電の危険も顧みず! そして、力一杯首を振り、剥き出しの電極へケイジを接触させる!6

2015-02-28 06:29:24
真木ハルコ @homarine

ポリエナメルは、絶縁体である。しかし、あなたが商用高圧受電母線になったつもりで考えてほしい。あなたは今、全裸だ。あなたの身体に押し付けられた物体は、ポリエナメルの薄い皮膜のなかに魅力的な導体が入っている。……絶縁破壊したくなってきましたね? 正解です!7

2015-02-28 06:34:39
真木ハルコ @homarine

あなたは辛抱堪らず激しい閃光と炸裂音を放ちながらアーク放電して薄いポリエナメルの被膜を突き破り、ケイジ内のヒーターユニット金属部位に通電! S相とT相を短絡させる! 短絡によって流れる大量の電流に反応した電気的保護装置が作動! 給電が……停止した!8

2015-02-28 06:39:35
真木ハルコ @homarine

突然闇に包まれる地下室! ヤモっちの大きな目が見開かれる! 普段はヤモリのように細い瞳孔が丸く開く! ヤモっちは夜目が効くのだ。ヤモっちは素早い右ステップで澄美の側面に回り込み「ヤーッ!」ミドルキックを遮蔽板に覆われた頭部に叩き込む!9

2015-02-28 06:43:57
真木ハルコ @homarine

真っ暗な地下室の中。「いっ……たぁーい!」澄美はヤモっちの攻撃が来た方へと反撃の蝕腕攻撃! だがヤモっちは既にそこにはいない!「ヤーッ!」ジャンプしたヤモっちは空中で回転し、体重を乗せた肘打ちを澄美の頭部に叩き込む!「ぎゃーっ!」効果あり!10

2015-02-28 06:47:56
真木ハルコ @homarine

澄美の蝕腕に絡み付かれる前に、ヤモっちは側転で離れて澄美の背後に回る。だが……澄美に蝕腕は的確にヤモっちの位置を捕らえて捕獲した! 粘液スリップでヤモっちが逃れるよりも速く、澄美はヤモっちを引き付け、8本の蝕腕を絡み付かせのし掛かりヤモっちを制圧する!11

2015-02-28 06:52:51
真木ハルコ @homarine

「……や、や、やっと捕まえた!」夜目が効くのはヤモっちだけではなかった! タコである澄美もまた夜行性! 高度に発達した視力を備え、側面についた目は360度死角無し! さらに優れた聴力が、他に音を発する物がない地下室でヤモっちの動作を聞き逃すこともない! 澄美の吸盤が開く!12

2015-02-28 06:56:56
真木ハルコ @homarine

ヤモっちの全身に張り付いた吸盤から、大量の神経毒が注入されてゆく。「あっ、うあっ、ああああっ」全身に広がる痺れに呻く、ヤモっちの苦し気な声が、静かな地下室に響き渡る。そして、脱出しようともがくヤモっちによって発されるねちゃねちゃした粘液の音。地下室に響く音は、それだけだ。13

2015-02-28 07:02:11
真木ハルコ @homarine

……音は、それだけ? そう。それ以外の音はしない。そのことに、澄美は気付いた。聞き慣れた、大切な音が聞こえない!「……あ、あ、ああ、うああああーっ!?」澄美はヤモっちを放り出して半狂乱になって叫んだ。冷蔵庫の音が聞こえない!! 腐っちゃう! 大切なものが腐ってしまう!14

2015-02-28 07:06:17
真木ハルコ @homarine

澄美は慌てて冷蔵庫に向かい、扉を開け奥のタッパーを見る。遮蔽板を開き匂いを確認。大丈夫、まだ腐ってない。そこに!「ヤアアァーッ!」背後からヤモっちの叫び声! 振り向く! 面前に迫るヤモっちの投げた毒粘液玉! 避ける!? 避けたら冷蔵庫が危ない! 遮蔽板を閉めて防……間に合わ 15

2015-02-28 07:11:24
真木ハルコ @homarine

「グギャアアァーッ!!」剥き出しの顔面に毒粘液を直撃された澄美の絶叫を背に、ヤモっちは体当たりで鉄の扉を破壊して脱出! 狭い階段を一気に駆け昇る! 既に日の落ちた神手市上倉区五番町は、停電によって闇に包まれていた。見上げると星空を背に、キーちゃんがビルの壁を這って降りてきた。16

2015-02-28 07:15:29
真木ハルコ @homarine

壁から跳ね、ヤモっちの肩にストンと着地するキーちゃん。「あれ? ケイジはどうしたの?」「キー!」得意気に、キーちゃんは鳴いた。「……そっか。キーちゃんが助けてくれたんだね。ありがと。また、新しいケイジを作ったげるね!」そして、ヤモっちは澄美の元から去っていった。17

2015-02-28 07:18:45
真木ハルコ @homarine

程なくして、停電は解消された。ヤモっちの毒にしばらく悶絶していた澄美は、冷蔵庫の灯りが再び点ったのを見てほっとして、慌てて扉を閉めた。良かった。大切なタッパーが無事で、本当に良かった。澄美は、胸を撫で下ろし、人間の姿に戻った。でも、あの子はなんであんな酷いことをしたんだろう?18

2015-02-28 07:22:37
真木ハルコ @homarine

ヤモっちは優しい人で、澄美の大切な物に酷いことをするとは思えなかったのだ。かなり長い時間考えて、ようやく澄美は謎の答えに辿り着いた。ヤモっちは、澄美がタッパーを大事にしている、もしかすると自分の命よりも大切にしていることを知らなかったのだ。(やっぱり悪い人じゃなかった!)19

2015-02-28 07:25:45
真木ハルコ @homarine

今度ヤモっちに会ったら、今度こそはちゃんと友達になろう、と澄美は思った。そして、毒粘液でまだぐわんぐわん痛む頭を抱えて、ボロボロの毛布を被り、眠った。そんな澄美を部屋の隅から、石像の少女は恐怖に満ちた表情で物言わず見つめていた。20

2015-02-28 07:28:38
真木ハルコ @homarine

【ポリエナメル・ケイジ】おしまい

2015-02-28 07:28:59
真木ハルコ @homarine

『ポリエナメル・ケイジ』は、みつくりざめさん(@mitukuri_zame)の作品『ポリエチレン・ケイジ』の設定を元にうちの子をメアリー・スーしたものです。“ポリエチレン”では、澄美ちゃんの魅力がじっくり描写されててお勧めですよ!→mitsukuri.blog35.fc2.com/blog-entry-161…

2015-02-28 08:41:44
真木ハルコ @homarine

そして、ヤモっちこと時々雨宮守ちゃんは、今度開催されるダンゲロス・ウラギールの参加キャラクターです(本当に参加キャラです)。明日の日曜一杯はまだ参加者を募集中なので、興味があったら参加してみてください。→ www41.atwiki.jp/uragiridangero…

2015-02-28 08:46:53
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