獣人探偵の事件簿

陣営:同盟 出自:異界の血 経験1:許嫁 経験2:絶技 信念:美学 続きを読む
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ただのつける @kinoakira

「一時的なものじゃよ、直ぐに立ち直るじゃろ」 そこまで脅かしたつもりはなかったのだが、加減が難しい。 「おかげでこっちは、質問攻めでしたよ…。まあ、今日立つつもりでしたし、厄介になる前に行きましょうか」 「ん、それがええな」 「ああ、それと」 #dtv_pod

2015-06-03 03:58:32
ただのつける @kinoakira

探偵殿が何やらゴソゴソと小さな袋を取り出し、こちらに放ってよこした。 「なんじゃこれ」 「欲しがってたでしょう、煙草。細巻きですが」 「本当か!」 袋の口を開けると、細く巻かれた煙草が出てきた。 早速、火をつけて吸ってみる。 「ひひひひ、悪くない飲み口じゃ」 #dtv_pod

2015-06-03 04:03:08
ただのつける @kinoakira

「そりゃあ、何よりで」 探偵殿は微妙な顔をするがこの際無視しておく。 なんにしろ、此方で質のいい煙草が手に入ったのは重畳だ。 「どうして、そんなに好きなんですかい。煙草」 「好きなのは細巻きちゅうかシガレットなんじゃが、そうじゃのう」 それ以外も割と好きだ。 #dtv_pod

2015-06-03 04:05:41
ただのつける @kinoakira

「ようわからんわ」 「なんですか、それ」 別段、吸わなくても支障はないし辞めようと思えばいつでもやめられるが。 「なんかなあ、好きなんじゃよ。兎に角」 この揺らぎをあるいは、此れをこのような存在たらしめているのかもしれない。 「ま、そういうもんですよね」 #dtv_pod

2015-06-03 04:07:55
ただのつける @kinoakira

探偵殿は何故か納得したようで、それ以上聞いてこなかった。 「ひひひひひ、そういうもんか」 阿呆が此方にいるのはわかった。 そのうち会うかもしれないし、会わないかもしれない。 今はただ、舞台装置ではなく単なる探偵助手を演じるのも悪くない #dtv_pod

2015-06-03 04:11:42
ただのつける @kinoakira

意識が揺蕩う。 深層意識、そのまた奥の。 記憶の中を。 忌まわしき日を回想する。 愛しき日を回想する。 呪われたあの日より、愛をこめて。 #dtv_pod

2015-06-04 01:25:37
ただのつける @kinoakira

不意に、瞼の表面に光が差すのを感じたウィリアムは目を開けた。 大きく立派な屋敷の一角で、彼は自らの背を壁に預けていた。 覚醒しきっていない頭で周囲を見回せば、そこが、今はもうない場所だということが認識できた。 「やあ、新郎君。緊張していると思えばお昼寝か」 #dtv_pod

2015-06-04 01:29:40
ただのつける @kinoakira

混乱するウィリアムに声をかけたのは、少し小柄な品の良い初老の男性であった。 「…グリーンフィールド卿」 貴男はもう、死んだはずだ。 喉が渇く、この会話は、このシーンは。 「なんだ、改まって。これからはお義父さんと呼びなさい。ウィリアム」 #dtv_pod

2015-06-04 01:32:50
ただのつける @kinoakira

喉を鳴らして笑う男に、呆気にとられるが、すぐに平静を装う。 「いえ、その。自分は緊張をしているようです」 自らの姿をよく見てみれば、立派な礼服に身を包んでいる。 何時も傍らにあるサーベルもどこぞへと消えてしまっている。 それに何より、本来の、人間の形をしていた。 #dtv_pod

2015-06-04 01:40:20
ただのつける @kinoakira

視線を窓のほうへと移す。 ガラスに映り込んだ、彼は。 切れ長の瞳に、さっぱりと短く刈られた銀杏色の髪、精悍な男の顔。 (参りましたねえ) その日以来遠ざけていた、ウィリアム・ナインテイル本来の姿だった。 「うんうん、その初々しい姿を見ていると昔を思い出す」 #dtv_pod

2015-06-04 01:51:37
ただのつける @kinoakira

初老の男、グリーンフィールドは目を細めながらウィリアムを見ていた。 「それで、君はここで何を?」 窓の陽の傾き具合、そしてこの場所は。 「……お嬢さんのお召しかえを待っているんですよ、義父さん」 「立ったまま寝るくらいに、か」 呆れたような義父に彼は笑った。 #dtv_pod

2015-06-04 02:07:54
ただのつける @kinoakira

「むしろ、女性の支度が長いほど、どのようにお綺麗になるか楽しみになるというものですよ」 「出かけるときにやられたら溜まったものではないがな」 一言一句、以前と同じ会話を交わす。 ウィリアムは頭痛を覚えていたどうすれば悪夢から逃れられるのか全く案が浮かばないからだ。#dtv_pod

2015-06-04 02:11:47
ただのつける @kinoakira

その時、扉の向こうから侍女が顔を出した。 「ウィリアム様。あ、旦那様もいらっしゃったんですね。終わりましたので中へどうぞ、とってもお綺麗ですよ」 急かされるように背中を義父に押され、中へ通される。 そこで目にする人物も、既に知っている。 「ウィリアム」 #dtv_pod

2015-06-04 02:25:02
ただのつける @kinoakira

@GCtg_TL 純白の花嫁衣装に身を包んだ少女、エルドラド=イザベラ=グリーンフィールド。 ウィリアムの妻になるはずだった、彼が世界で一番かけがえがないと思っていた存在。いや、今もそう思っている少女がそこにいた。 「どう、変かな?」 #dtv_pod

2015-06-04 03:07:05
ただのつける @kinoakira

@GCtg_TL 「いえ、その…とても、お綺麗です、お嬢さん。天女様のようですよ」 本心からの言葉だ、これが過去の幻影だとしても。 「エルゥゥゥ!なんって綺麗なんだお前…、昔はあんなに小さかったのに!」 その姿を見て泣き崩れ落ちる養父でそれどころではなくなったが #dtv_pod

2015-06-04 03:13:58
ただのつける @kinoakira

@GCtg_TL 「お父さん、そんな大袈裟な…」 呆れる様子のエルドラドを抱きしめて養父はおいおいと泣くことをやめない。 「この晴れ姿!父さんは誇りに思うぞ!」 「養父さん、お嬢さんが困ってますから…」 「旦那様、他のお客様も見えますよ」 #dtv_pod

2015-06-04 03:17:43
ただのつける @kinoakira

@GCtg_TL 養父はそのまま、ウィリアムに引き剥がされメイドに伴われて部屋から連行されていった。 部屋の外へ行く時に、一瞬ハンカチ越しの瞳から目配せされたところをみるに、二人きりにするためにひと芝居うったらしい。 扉が閉じると、静寂が部屋に充満した。 #dtv_pod

2015-06-04 03:21:13
ただのつける @kinoakira

@GCtg_TL 「……あー、ウィリアム。ごめん、その父さんが」 気まずそうに、エルドラドが謝った。 「一人娘の婚姻ですからねい、そうなるのも仕方がない」 ははは、と笑いながら頬を掻く。 「それと、お嬢さんじゃない。ちゃんと名前で呼んで」 #dtv_pod

2015-06-04 04:09:55
ただのつける @kinoakira

@GCtg_TL 本当は、この時。彼はそれを躊躇い誤魔化した。 自らの身分に対する気後れ、一回り以上年が違うこと、幼馴染であっても政略結婚には違いないこと。様々なことを想い、彼は二の足を踏んで結局それをしなかった。 たとえこれが夢だとしても。 「エルドラド」 #dtv_pod

2015-06-04 04:17:24
ただのつける @kinoakira

@GCtg_TL 「なあに、ウィリアム」 嬉しそうに顔を赤らめ返事をする少女に片膝をついて跪く。 「ちょっと、何してるのさ!」 「約束します。今更こんなことを言っても遅いかもしれやせんが。愛するあなたを今からでも幸せにしてみます」 幻影だと、わかっていてもなお #dtv_pod

2015-06-04 04:19:52
ただのつける @kinoakira

@GCtg_TL 「愛してくださいとは言いません、あたしを見て欲しいとも言いません。だから、どうか。ディテクティブとしてではなく一人の人間として、もう一度話させてください」 困惑する彼女の右手の甲に、接吻する。 「何言ってのか、僕よくわからないんだけど…」 #dtv_pod

2015-06-04 04:22:50
ただのつける @kinoakira

@GCtg_TL 「申し訳ありません、これは。あっしの自己満足ですから」 涙で視界が滲むように、揺らぐ。 もう時間らしい。 この幸せな時間に浸っていたい、ずっとエルドラドの傍らにいたいが。 所詮、ここは幻の時間の中だ。 やり直しなどきくはずはない。 #dtv_pod

2015-06-04 04:24:32
ただのつける @kinoakira

@GCtg_TL 「やり直せなくても、前に進ませてもらいますよ。絶対に」 平衡感覚がなくなり、ウィリアムは虚空へと投げ出された。 しかし、もがく様に上へ、浮上するように足掻いた。 浮遊するのと同時に、彼は現実へと引き戻された。 #dtv_pod

2015-06-04 04:27:08
ただのつける @kinoakira

@GCtg_TL 「ひひひひ、グッモーニン。探偵殿」 赤い外套の押しかけ助手は、金属の鉤爪になった右手を血濡れにしながらそれをきいきいと鳴らした。 その隣にいるのは、ウィリアムの師匠にもあたる足利義輝が無数の刀とともに平然と返り血を浴びて立っている。 #dtv_pod

2015-06-04 04:29:54
ただのつける @kinoakira

@GCtg_TL 「割と最悪な夢でしたよ、将軍は何故ここに?」 まだ曖昧な平衡感覚を正しながら、壁に手をついて立ち上がり尋ねる。 「アレ。あのメジェドがお主の危機を知らせたらしいぞ」 助手が顎をしゃくった先にはぴょこんぴょこんと跳ねる奇妙な布がいた。 #dtv_pod

2015-06-04 04:31:47
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