凡人にもできるイノベーションのコツ
- ShinShinohara
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人間、年を取ると知識をひけらかしたくなる。しかし知識は、よい問いを発するための「触媒」にとどめるべきである。年配者は若者の思考をいかに刺激するかに専心したほうがよい。若者はズレた回答をするだろう。そのズレも楽しんでしまおう。そのズレがイノベーションの萌芽になるからだ。
2015-05-26 18:57:08吉田松陰の松下村塾もこうした空間だった。松陰が弟子たちに教えを垂れるというのではなく、テーマを決めて問いを発し、互いに意見を交わし、発想の異なるズレを楽しむことで、塾生の思考を刺激した。長州で綺羅星のごとく英雄を輩出したのは、「問い」が若者の思考を刺激したからだ。
2015-05-26 18:59:08「どうせ」を「どうせなら」に変えるのも、イノベーションのコツ。ある女子大生が「農業機械って本当に可愛くない」と愚痴った時、私は説教してやろうかと思った。農業は泥だらけになる大変な仕事なんだ、可愛いなんて甘っちょろい考えをするな・・・と。
2015-05-26 19:01:16しかし説教してしまったら話はそれでおしまい。グッとこらえて聞いてみた。「どういうこと?」「たとえば軽トラってみんな四角くて白ばっかりですよね」「どういうのがいいの?」質問を重ねると、非常に意外な答えが返ってきた。
2015-05-26 19:02:23荷台にカーペットを敷き、恋人と星空を眺めたい。お弁当を広げてピクニックを楽しみたい。それにぴったりなデザインの軽トラがあればよいのに、という。軽トラの荷台を居住空間に変えるという、これまでにない発想だった。デザインを見直せば「業務用車両」のイメージを打破できるかもしれない。
2015-05-26 19:04:22アメリカの人気車種がピックアップトラックなのだから、デザインを一新すれば女性に人気の軽トラだって十分あり得る。「可愛い軽トラ」が新たな顧客を獲得できる可能性があるのだ。・・・この提案は一部実現し、「農業女子プロジェクト」として女性向けデザインの軽トラが実際に販売された。
2015-05-26 19:06:02女性には「どうせ」を「どうせなら」に変える力がある。看護婦もそう。昔は非常に軽蔑された職業だった。血や膿で汚れているから、余計に差別されたのだろう。しかしナイチンゲールが、汚れたらその都度清潔な白衣に着替えることを徹底すると、患者の死亡率が劇的に下がった。
2015-05-26 19:07:37当時の死亡の原因の多くが、病気やけがが原因というより、不衛生な環境で看護され、二次感染が起きて死んでしまうものだった。ナイチンゲールは衛生学に基づき、徹底して白衣に着替え、清潔な病室の維持を心掛けることで、患者の命を救った。
2015-05-26 19:08:52清潔な白衣に身を包む看護婦は、兵士たちから「天使」と呼ばれるほど慕われた。かつて軽蔑されていた看護婦という職業が、ナイチンゲール以降、尊敬される職業に変わった。
2015-05-26 19:09:41「どうせ」血や膿で汚れるから、服なんか着替えなくていいや、という考え方のままだったら、患者の命も救えず、看護婦という職業も軽蔑されたままだったろう。ナイチンゲールは「どうせなら」清潔に保つことで、患者の命を救い、看護婦という職業を尊敬されるものに変えた。
2015-05-26 19:11:02トイレも「どうせ」を「どうせなら」に切り替えることで生まれ変わった商品。女子大生の卒論で、清潔なトイレが観光旅行のリピート率と深く関係していることを明らかにしたことがきっかけで、全国的に清潔なトイレが作られるようになった。
2015-05-26 19:12:16男性の発想だと「どうせ」トイレだもの、汚れて当然、きれいで居心地の良い居住空間にしても仕方がない、と考えてしまいがちだったが、女性は「どうせなら」きれいにしたい、清潔で居心地の良いものにしたい、と考え、トイレ市場を劇的に変えてしまった。
2015-05-26 19:13:30「どうせ」を「どうせなら」の発想に切り替えることで生まれ変わりそうな商品はあまたある。たとえば塩ビ管。現状では黒と灰色しかない。寺院の素晴らしい庭園に塩ビ管が走っているのが見えると、実に興ざめ。台所でも不格好だからシンクの下に隠して見えないようにしている。
2015-05-26 19:15:21しかし「どうせなら」赤青黄色、さまざまな色彩のものや、木目調や漆器調、花柄など、様々なデザインのものを作ってみたらどうなるだろう。配水管も「魅せる」インテリアに生まれ変わる。庭園に華を添える漆器調の配管というのも、かっこいいのではないか。
2015-05-26 19:17:28カラフルな排水管ならシンクの下に隠す必要もない。むしろ露出して、インテリアの一つとして「魅せる」方がよくなるかもしれない。そうなれば交換も容易で、メンテナンスが楽になる。
2015-05-26 19:18:21塩ビ管の色が灰色と黒しかないのは、紫外線への耐久性だとか、理由があることは承知しているが、見方を変えれば「言い訳」でしかない。色彩と耐久性を両立させるところに新技術開発の要素があるともいえるのではないか。できないならできるようにしてしまおう。その先には新市場が待っている。
2015-05-26 19:19:55あなたの身の回りに「どうせ」商品がないだろうか。それを「どうせなら」商品に生まれ変わらせてみてはいかがだろう。それだけでも立派なイノベーションになるだろう。
2015-05-26 19:20:42ここまで「誤解によるイノベーション」「問いによるイノベーション」「「どうせ」を「どうせなら」に変えるイノベーション」の3つを紹介した。他にもイノベーションのコツはあるが、まずはこのあたりとしておく。
2015-05-26 19:22:10ここまで読んでいただければわかるように、イノベーションは天才だけのものではない。誰でも始められるものなのだ。ただしイノベーションが実現するには、もう一つ課題がある。「粘り」だ。
2015-05-26 19:23:12コンタクトレンズの話も、「瞳のサイズでいいじゃないか」と思いついただけでは実現しない。試作に試作を重ねて、商品として完成させるまでの「粘り」が必要だ。
2015-05-26 19:24:10天才と評されたスティーブ・ジョブズも、レコード会社を一つずつ説得し、音楽を一括でダウンロードできる仕組みを作り上げるまでの「粘り」を見せた。スマホもそう。「説明書の要らないパソコンを作りたい」というコンセプトを実現するために、改良に改良を重ねる「粘り」を見せた。
2015-05-26 19:25:41思い付きを形にするには、「粘り」が必要だ。思い付きの段階でケチをつける上司がいるのも話にならないが、思い付きが形になるまでの粘りを応援しない上司も話にならない。イノベーションには、「思い付き」を促し、形になるまでの「粘り」を応援する体制が必要である。
2015-05-26 19:27:55今の日本企業は、アイディアを出せと言いながら、一つ一つにケチをつけていないか?アイディアを採用しても、それを商品化するまでの粘りを応援しているだろうか?その体制が備わっていないならば、イノベーションを語る資格はない。
2015-05-26 19:28:59もし産婆術をマスターした人物が増えれば、平凡な人間だけで構成される企業であっても、イノベーションを次々に起こせるだろう。平々凡々たる私たちでも創造的な仕事ができる、そんなコツがある。日本中でそのことを証明してくれる企業が現れることを願っている。
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